第72話 撤収
やっと、終わった。
私とアテナさんは、辺りを見回し、
もう敵がいないことを確認したあと、三枝木さん達と合流した。
「皆さん、頑張りましたねぇ。
でも、これでやっとこの件は終わったようですよぉ。」
天明さんののんびりした声が、私達を迎えてくれる。
「そうだな、今回は皆良くやった。
七果に天明も、頑張った。」
そう労いの言葉を掛けてくるアテナさん。
その言葉に、
「それはアテナさんもですよ。
あの姿、凄かったです。」
やや興奮気味に私が返すと、
「あれは、タロスと一緒に本国から送ってもらったものだ。
今回はかなり不穏な始まりだったからな。
御爺様が心配して送ってくれたのだ。」
とアテナさんが答えてくれた。
続けて、あの蛇がいた場所を見やり、
「ふうむ、あの様子ではタロスはもう使い物にならないな。
我が国に伝わる国宝なのだがな。
まあ骨董品だから仕方がないのだが。」
アテナさんの言葉に、私は再び口を開く。
「もしかして、凄い貴重なものなんですか?」
アテナさんの答えは、
「そうだな、あれは国に数体しか残っていないものだぞ。
まあ、ガラクタのように動かないモノなら結構あるのだが、
動くモノはそうはない。
今はもう直せるものがいないからな。
困ったな、
ヒュドラくらいどうにでもなると、父が借りてきたのだが、
まさか壊されるとは。」
困惑した表情を見せるアテナさん。
それを見ていた天明さんだったが、
「あれはどうにもならないですよぉ。
どう見ても直せません。
と言うか、
相手があんなに厄介だとは皆思っていなかったですからねぇ。」
”お幾らくらいするんですかぁ。” とアテナさんに質問する。
「どうだろうな、父も今の価値は良く知らないらしいからな。
しかし、本国では相当貴重なものらしい。
はあ、どう言って返そうかな。」
アテナさんが珍しく困った表情を浮かべている。
そこに近くに寄ってきた三枝木さんが、
「クランベリー主任、君達はもう先に撤収した方がいい。
後の説明は私達が何とかするから。
ローカルテレビだから、地上から望遠で撮影しているみたいだが、
現状を放送しているみたいだ。
自衛隊のヘリも飛んでいるしな。」
と言ってくる。
「そう言えば、テレビが来ていましたねぇ。
まあ、こんな大事件でしたから仕方ないですけど。
結構離れていますから、顔とか特定されてはいないはずですが。
あっちのヘリは始終、記録しているでしょうねぇ。」
と天明さんは付近で高高度から偵察している
陸自のヘリを指さしている。
「そうだな、もう撤収するか。
三枝木殿、あの骨董品を回収しておいてくれるか?」
とアテナさんが尋ねる。
「はは、もちろん回収しておくよ。
君達はタロスを運んできたトレーラーで帰ればいい。
もうあれは残骸とも呼べないし、ランドナックルを見せて、
誤魔化しておくよ。」
そう答える三枝木さんは、トレーラーを動かすよう手配してくれた。
決戦が行われた岐阜市から名古屋市に戻るのは難しいだろう。
そもそもあっちに行ったら、公的機関に事情聴取されるだろうし。
そこで、卑弥呼の軍団が進軍してきた滋賀方面へと
トレーラーで抜けることにした。
そちら方面は警察も含めて、避難しており無人になっている。
天明さんは、いつものように名古屋で美味しいものを食べようと
言ってきたが、どうみても今名古屋に行けば、
グルメ旅などしていられないだろう。
アテナさんも、後から行けばいいと
今回ばかりは天明さんを説得していた。
タロスを積んできたトレーラーの内部は、
ちょっとした指揮車両のようだった。
中で仮眠とかもできるし、複数のモニターなどと共に、
通信用機器も備わっている。
京都へと帰る途中、今の状況を知るため、
テレビの放送やネットなどを調べることにした私達。
テレビでは、ローカルテレビが撮影した画像を元に
特番が組まれていた。
もちろん、全国放送だ。
特に目立ったのが、最初の炎を放つ蛇の様子と有志連合の奮闘。
シーンは卑弥呼の軍団が現れ、女王が前に出る場面から始まっていた。
その後も重機による突撃シーンから戦車隊の砲撃シーンへと移り替わる。
そして、最も注目を浴びたのがタロスである。
他にも複数の天使が舞うシーンやアテナさんの望遠画像などあったのだが、
ローカルテレビの機材では、
そこまではっきり捉えることはできていなかった。
何せ、現場は非常に危ないところだったのだ。
有志連合が突貫するシーンはまだ毒を吐いていなかったので、
割と近くに撮影スタッフもいた。
しかし、戦車隊の後退などがあり、
撮影スタッフも現場から離れざるおえなかった。
そんな現状でも目立ったのがタロスである。
それはもう、派手な活躍が撮影されていた。
人型巨大ロボは、戦闘では役に立たない。
そんな風潮ではあるのだが、依然として人気はあるのだ。
そこにこの稲妻を纏ったSF的なタロスが登場。
化け物と格闘戦を行っている映像が入る。
正直、私達より扱いが派手である。
現代にそんな技術はないのだ。
一部の人が想い煩うロボの大活躍している映像は、
ある種のロマンを掻き立てた。
空中を高速で飛行しながら、パンチやらを繰り出すタロス。
巨大な稲妻を放って敵を倒そうとし、貼り付けになるシーンなど、
名シーンが目白押しである。
後には怪力僧とかいるのだが、
どうやら、これらは真偽不明な映像とされているらしい。
あんな巨大な蛇が出ているのに、
巨人やら妖やらも出ているのに、
話題をさらったのは、一際目立ったタロスだった。
もちろん、有志により重機やトラックで突撃した人たちも、
英雄扱いではある。
後の取材でも彼らからは誇らしい笑みが見える映像が流れている。
皆、全力を尽くした。
怪我をした有志の人はいたみたいだが、
奇跡的に死者はでなかった。
事件の真相は、今警察や公安により調査中だそうだ。
調査ではっきりとした詳細が分かるのかは疑問ではある。
だけど、確かに私達はこの事件を乗り越えた。
女王の語った平和と争いが交互にやってくる理由、
それは興味深い内容だったが、今考えることでもない。
戦いは終わった。
真相を知りたいが、今は京都の研究所へ帰って休もう。
天明さんとアテナさんが、
帰ったら京都のお菓子屋さんに行こうとか言っている。
なんでも美味しい和菓子が揃っている店らしい。
最近は観光客でいっぱいだったが、
今なら限定品も買えるかも、とか言っている。
当たり前の日常へと私達は戻りつつあった。




