第71話 我が全てを賭けて 後編
私とアテナさんは、
蛇の怪物に近い大通り沿いのビル屋上に潜んでいた。
「七果の案に、私は乗るぞ。
タロスは失ったが、
相手がもう再生できないのであれば戦いようもある。
あの見えない頭を一つずつ潰していけば、
蛇もどうしようもないだろう。」
そう言って、アテナさんは立ち上がった。
一方、大通りでも反撃の狼煙が上がっていた。
トレーラーで身支度していた僧侶たちが読経を始めたのだ。
それと同時に、金剛が2体、トレーラー前に出現。
そして、あの高位の僧衣姿のお爺さんが言葉を放った。
「世を乱し、人の理、仏の道に反する者よ。
汝に救いがあらんことを願う!
我らは敵にあらず、汝に救済を齎すため、
馳せ参じた者である。」
「御仏の道に沿い、この者に救いを与えたまえ!
悪鬼羅刹の改心を願う、不動の炎よ。
今ここに顕現させたまえ!」
「来たれ、剛腕怪力無双、不動仏僧・降臨」
その年に見合わぬ声は、マイクなどないのに、
不思議と辺りに響き渡った。
2体の金剛が脇を固める中、中心に一際大きな巨人が現れた。
その姿は、筋骨隆々とした鍛えられた身体を持つ僧兵のようだ。
大きさも金剛とは比較にならない。
手に薙刀を構えたタロスと同等の巨大な偉丈夫である。
更に少し離れたところにいた天使たちの中からも
一際立派な装備を整えた者が前に出る。
その手には古さを感じさせない錫杖のようなものを持っている。
「我が名は、ラファエル。
大地を汚す異端よ!
その力を封じてくれよう。
今、我が主の御座に怪異はひれ伏す!」
「天上の鐘は、我らの為、響き渡る!」
_カァン__ァカァ___ン__
どこからともなく、辺りに荘厳な鐘の音が響いてくる。
すると、大通りに飛散した毒液や、発生したガスが消えていった。
「異形の隠れ身を映し出せ!」
「鏡よ、真実を皆に示したまえ。」
” 天邪照覧 ”
ランドナックル2機に守られ、前に出てきた天明さんが、
何かの術を発動した。
今まで大きな術のため、三枝木さん達のところに残って、
瞑想をしていた天明さんだったが遂に動き出したようだ。
その術は、蛇の周囲に不思議な光を生み、
今まで見えなかった5つの頭を暴き出した。
最初に出てきた8つ頭の炎の蛇に匹敵する大きさの頭が、
5つ、蛇の本体から不自然に伸びていた。
頭を支えているはずの首の部分がやけに細い。
遂に幕を開けた最終決戦。
例のサリエルと思われる天使とその仲間が、
暴き出された頭の一つに突撃する。
今回は皆、長い槍を持っているようだ。
所謂ランスと呼ばれる突撃用の槍を構え、
飛行速度を急激に上げ突進する彼ら。
僧侶たちの読経を受けた蛇は、
その全身から何かの光が飛散し始めている。
突撃してくる巨大な僧兵は、その薙刀で二つの頭と格闘する。
立ち上がったアテナさんが、眩い光を放ち始めた。
その光が収まると、彼女の姿に誰かの姿が重なった。
その姿はとても豪奢な装いを纏い、
その両手に神秘的な盾と槍を持っている。
「いくぞ、七果!」
正しく女神と言える姿に変わった彼女は、空中を飛行し
天使や僧兵を横から襲おうとしている頭の一つに槍を突き立てた。
激しいスパークを伴い、突かれた頭が後退する。
心無しか、頭のサイズが一回り縮んでいる。
もしかすると、
この5つの頭は何かのエネルギーそのものなのかもしれない。
今まで攻撃されて破壊されても、復活していたのは、
元から実体がない力そのものだったから。
その発生源である蛇本体からエネルギーを供給されて、
存在している。
頭自体が何かの術なのかも。
そして、私も太刀を抜いて立ち上がった。
まだ空いている頭が一つある。
どうやら、頭へのエネルギー供給は当初より少ないようだ。
各所で攻撃を受けた頭は、
その大きさをより小さなものへと変えている。
私は、屋上から慎重に距離を測り、
アテナさんを下方から狙う頭へと跳躍した。
叩きつけた太刀だったが、意外に硬い手応えを受けた。
私がかつて斬った封印を破った大蛇などより、
余程手強い。
鎌首を上げた頭は、こちらを狙い口を開ける。
いつものように、攻撃の予備動作を見るが、
こう大きいとざっくりとこの辺を狙っているくらいしか分からない。
それでも、大通りを走り頭の注意をこちらに向けさせる。
皆、各所で戦っている。
私もこの頭を他に向けないようにしないと。
「 風鈴ニ閃 」
風の斬撃を頭に向け放つが、その効果は僅かだ。
煩わしそうに、噛みついてくる頭を横に大きくステップし、
回避、すれ違い様に太刀による斬撃を放つ。
傷を与えたが、次の瞬間には元通り癒えていた。
しかし、少し頭の大きさは縮んでいる。
さらに読経の効果がじわじわと効き始めたようだ。
動きの阻害だけではなく、
蛇のエネルギー自体を減らしている感じだ。
傷は受けていないのに、絶え間なく不可思議な光の粒が、
蛇の身体から発生し、散っていく。
これならやれる!
だが、頭自体が私の背を超えたところにある。
だからと言って、安易な跳躍はできない。
その後も、何度も攻撃を避けつつカウンターを決める私だったが、
くそ、決め手がない!
力を収束し、大技を使えればいいのだが、
あの頭、大きいくせに隙が少ない。
力を溜めようとすると、小刻みに威嚇めいた攻撃をしてくる。
一方、攻めあぐねていると、大きく口を開け噛みついてくる。
何とかしないと!
他のところも同じような戦況だった。
2つの頭を相手に巨大な薙刀を振るう怪力僧は、
一撃一撃を着実に決めてはいる。
しかし、交互に襲い来る頭の波状攻撃に、
決定打を打てないでいる。
その怪力でとどめの一撃を放とうとすると、
もう一つの頭が牽制してくるのだ。
天使たちは、ランスでの突撃を散発的に行っている。
時に竜の時のような幾つもの光が頭目掛けて乱舞するが、
中々に致命打を与えられない。
攻撃している私達の中で、もっとも優勢なのが、
アテナさんだった。
強力な稲妻を放つ槍で攻撃する彼女は、
狙う頭の力を確実に削っている。
だが、その戦況に本体の3つ頭から毒の援護射撃が、
行われている。
天使ラファエルが維持している術により、
毒そのものの致死性は低くなっている。
しかし、その毒には強酸の効果もある。
それを知ってか、アテナさんもその攻撃を避けていて、
中々頭にとどめを刺せないでいる。
皆、奮戦している。
あと一歩だ。
あと一つ何かあれば!
その時、蛇本体の後ろから卑弥呼の多頭蛇が襲いかかった。
「皆、この地が我らの墓標となろう。
今まで妾に尽くしてくれて本当にありがとう。
妾、いや、私の名は泉生芽姫、我が父の仇、今討ち果たす!」
今までの白い装束から紅い戦装束へと装いを変えた彼女は、
その手に長い槍を持っていた。
「皆、今悲願を果たすため、あと少し付き合ってくれ!」
”さあ、行こう!”
多頭蛇に続いて、勇壮な戦の歌を口ずさむ巨人たちが姿を現す。
その装いは蛮族めいた今までと違い、
皆その巨体にあった武具を纏っている。
剣を抜き放ち、5メートルを超える巨人の戦士たちは、
毒を放つ蛇本体へと襲い掛かった。
その巨人たちの威容は、
見た者に本能的な畏怖を感じさせるものだった。
巨人たちは皆、無言のまま剣閃を放ち始めた。
上体を多頭蛇に絡みつかれた蛇は、
動きを著しく阻害されていた。
本当なら5つの頭で迎撃したいはずだが、
こちらはこちらでひっ迫している。
アテナさんは遂に頭の一つを撃破した。
その槍を頭に突き立て、強力な稲妻を解き放ったのだ。
凄まじい発光が頭を包み込む。
その一撃が致命打になり、頭は崩壊した。
私のほうを向いていた頭が、アテナさんのほうへ向かおうとする。
私はその時を逃さず、
「風舞跳躍」
その身を頭の上空へと踊り込ませた。
空中で体勢を整え、全身の力を太刀に収束させる。
「 奥義 天閃万花 」
千を超える閃光の斬撃が、その頭を千々に切り刻む。
頭は尚も元に戻ろうとしたが、
斬撃により細切れにされた頭は、
僧侶たちの読経の効果を大きく受けてしまった。
抵抗むなしく、光の粒をまき散らし消えていく頭。
他方、天使たちも頭の動揺を察知し、
その動きが鈍ったのを見計らって一斉突撃を敢行した。
5つの頭はエネルギーの源が同じだったようだ。
2つの頭を失ったため、他の頭の力も削がれたようだ。
宙に貼り付けにされた頭、8本のランスがその身を貫いていた。
如何に力を残していようと、串刺しにされたままでは、
回復できず全てのエネルギーを持っていかれる。
程なくして、頭は光の粒へと霧散した。
中央で戦っていた巨大な怪力僧は、横からアテナさんの援護受け、
頭の一つに一太刀入れることに成功する。
頭二つの連携は崩れ、3つの頭を失ったため
その勢いも削がれた。
中央の戦況は余りにあっけなく決着がついた。
斬撃を喰らった頭が後方へ逃れる中、
怪力僧はアテナさんの方を牽制する頭に、
渾身の力を込めた一撃を放ったのだ。
一刀両断。
その一撃は正しく剛の者が放つ脅威の太刀筋を見せた。
後方に逃れようとした頭は、横合いからアテナさんの一撃を喰らう。
稲妻をその身の内で放たれた頭は、
よろよろと宙を彷徨う。
既に半死半生の頭に、身を返して素早く近寄った怪力僧がとどめを刺す。
厄介な頭5つを全て撃破した私達は蛇本体の方に目を向ける。
そこでは壮絶な決戦が行われていた。
女王が率いた巨人達、
その身は武将のように整った武具に身を包んでいた。
蛇の本体に絡みつき抑え込む多頭蛇。
そして、その身へと振るわれる巨人たちの剣、
その太刀筋は鋭く、今までの力任せの戦いが嘘のようだった。
蛇も尾で薙ぎ払い、毒を吐きながら激しく抵抗する。
しかし、その度に多頭蛇が動きの邪魔をする。
次第に弱る蛇に、太刀を構え一歩踏み込む巨人がひとり。
他の巨人が蛇から手を引く中、
風格が違うその巨人が手に持つ剣を一閃する。
3本の首の付け根、胴体下方部を両断し、
3つの頭と尾が離れ堕ちる。
切り裂いた胴体から青い光が漏れている。
私達は、その様子を見るだけに留まっている。
連戦により、崩れた態勢を整えたい。
また現れた巨人達から並々ならぬ力量を感じる。
正直これは、かなりの力を持つ集団だ。
そんな集団が蛇の本体を攻撃しているのだ。
女王らしき戦装束の女性が、
多頭蛇の頭に乗せられ、青く光る何かに近づいていく。
「我が戦に付き合ってくれた未来の戦士へ!
もう案ずることはない。
この蛇は私があの世へ持っていく。
皆、大儀であった!」
そう言って、手に持つ槍をその光を放つモノに突き立てた。
「ぐうううううっ、貴様に殺された我が父に代わり、
私が貴様にとどめを刺してやる!
我が同胞よ、これまでありがとう。
そして、さらばだ!」
槍が紅い光を放ち始める。
女王は槍へ力を注ぎ続け、青と紅い光が混ざり合った。
強烈な眩い閃光が辺りに放たれ、一瞬後、消えた。
そこには、もはや蛇の残骸すら残っていなかった。
武装して巨人の将、最後の両断を成した存在が、こちらに礼をする。
「人間たちよ、助力感謝する。
その意が無くとも、我らは汝らに礼を言いたい。
我らの友の悲願は成った。
我らだけでは、この結末を得られなかっただろう。」
「この街の者も巻き込んですまなかった。
この定めは余りに厳しく、
そなたらの協力なくば乗り越えられなかっただろう。
すべてが紙一重だった。」
「立ち向かった英雄たちに、今は亡き友に代わって礼を言う。
皆、本当に感謝申す。
我らは今後汝らに味方しよう。
我らはタイタン。
巨人の中の巨人である。」
”さらばだ、勇者たちよ。
事あれば我らを呼ぶがいい!”
そう言って、巨人たちは宙の中へ消え去った。
はあ、ようやく終わった。
気を張っていた私は、その身の力が抜け、
その場に座り込んだ。
いつもお読みいただき、本当に有難うございます。一応これ、日曜日の公開分ですね。
この章はこの後、数話続く予定ですが、今考えている最中なんですね。困った、、




