第70話 我が全てを賭けて 中編
狙われた戦車隊だったが、車両は生物化学兵器に対して
防護装置が付いていた。
ただし、蛇の放った毒は強酸性であり、
戦車の装甲を溶かし始めた。
戦車隊は果敢に砲撃を仕掛けたが、
蛇の本体に命中する前に何かの力で無力化された。
装甲を溶かされ始めた戦車隊は後方に下がる他なかった。
私達の乗るトレーラーが付近に到着したのは、
丁度、戦車隊が砲撃を繰り返しながら、
大通りを下がっていくところだった。
辺りは水浸しだったが、
三枝木さん達はタロスらを起動させるため、最後の作業に取り掛かる。
私とアテナさんは、大通りの建物に入り、
蛇へと接近を試みる。
また、大通りを進んできたのは私達だけではなかった。
大型トレーラーと共に1台の大型バスが、
蛇との距離を測って停車する。
大通りを跨ぐように横づけされたトレーラー、
そしてバス側には、右藤住職をはじめとする高位僧侶たちが乗っていた。
バスから荷台を展開したトレーラーに移動する僧侶たち。
あのお偉い僧侶のお爺さんも他の僧侶の手を借りて乗り移る。
その距離は僅かに100メートル。
道路は水道管の破裂により冠水状態だったが、
現れた蛇にとってそれは邪魔にならないようだった。
また大通りの空に、10人ほどの天使が現れた。
近くの路地から飛行してきたらしい。
私達はその様子を建物の屋上から見ることが出来た。
大通り側面の建物を、屋根から屋根へと飛び移りながら、
蛇目掛けて疾走する私達。
そして、古代の対異界生物用兵器タロスが起動した。
ランドナックル2機は、道路冠水のため近づけない。
起動したタロスは、その体をスパークさせながら、
宙に浮かび上がった。
なんだと!
私はその様子を見てびっくりした。
確かに未来的ではあったが、古代のゴーレム的な存在と
思っていた。
なので、普通に歩行して接近し殴るしかないのではと
思い込んでいたのだ。
タロスはそのまま全身に電気を纏いながら、
蛇目掛けて突進した。
あっという間に私達を追い抜き、
蛇に接近するタロス。
だが、その途中でタロスは何かの迎撃に合う。
衝突する二体、タロスのスパークがその何かに絡みつく。
スパークにより衝突した何かの輪郭が視認できた。
どうやら、蛇の頭が透明な状態でぶつかっているようだ。
どういうことなのか?
疑問は絶えないが、今は観察しつつ接近することにしよう。
タロスは見えない何かと格闘戦に入ったようだ。
なるほど、対怪物用というだけあって、動きが現代のロボではない。
殴るだけでなく、全身を覆う電気と言うか雷で攻防一体の戦術を
繰り広げている。
しかし、どうも頭は複数隠されているようだ。
私達も慎重に動かなければ!
断続的に本体の3つの頭から毒液がタロス目掛けて放たれている。
しかし、その行動自体、タロスにとって無意味だった。
命中しても、タロスの表面を覆うスパークが全て焼いてしまうのだ。
どうやら、タロス本体はスパークによる加熱で炎より熱い状態に
なっているらしい。
しかし、見えない頭には、その熱は効果がない。
タロスの格闘戦を他所に本体付近の建物へ移動してきた私達。
さて、どうするか?
アテナさんと方針を相談することにする。
「どうしましょう?
あの隠された頭、まだあるでしょうか?」
とアテナさんに問うと
「ふん、伝承では8つ頭だったな。
となると、あの毒を吐く頭の他に、
5つ隠されているかもしれないな。」
「あのタロスで、何とか見えない部分を破壊できれば。
ただ善戦はしているが、
どうもあの消えている頭には攻撃が通じていないようだ。」
「ヒュドラにあんな能力はない。
あれは単純に再生能力が高く、巨大なだけの蛇だったからな」
「しかし、あの蛇の消えている部分は幾ら攻撃しても復活するようだ。
要するに何かの霊的エネルギーの塊なのかもしれない。」
「タロスに全力攻撃させてみて、
方針を打ち出すのがいいかもしれないな。
タロスでもアレでは倒し切れない。
それに稼働時間もあるからな。」
と答えてくる。
皆、タロスの奮戦を離れてみている状態だ。
そもそも、高熱を放ちスパークを纏うタロスの戦闘には、
近づけない。
三枝木さん達に連絡を取り方針を決める。
それからタロスの全力攻撃が始まった。
その目標は、見えない頭ではなく本体のほうだ。
力を十全に発揮し、
怪力を持って襲ってくる見えない頭を叩き潰すタロス。
とても古代のゴーレムには見えないが、
しかし、潰しても潰しても、見えない頭を復活を続けた。
業を煮やしたのか、タロスは蛇の上空へと舞い上がった。
そして、最大の攻撃を放つべく強力な霊的エネルギーを収束。
次の瞬間、タロスの全身から特大の稲妻が収束、
束になった稲妻の奔流が、蛇本体へと放たれた。
稲妻の進行方向に立ち塞がる巨大な頭が5つ。
その姿は稲妻のスパークによって浮き彫りになった。
明らかに蛇の全長とサイズが合わない頭が
本体の背から伸びていた。
頭と本体を繋ぐ首の長さもおかしい。
そんな疑問を他所にタロス最大の稲妻は、
浮き彫りになった5つの頭を同時に破壊した。
もはや、進路上に障害はなく、タロスは本体目掛けて突進した。
だが、その手が本体に届くことはなかった。
タロスは、本体の手前で復活した5つの頭に拘束されたからだ。
まだスパークを放っているタロスだったが、
その電光が照らし出す蛇の頭は先程までより巨大だった。
蛇の前で宙に貼り付けにされたタロス、
その身体に3つの頭が嚙みつく。
スパークを上げていたタロスは、
徐々にその身体を朽ち果てて行った。
おかしい、幾ら何でも一方的すぎる。
あの召使いの力と言えど、そこまでの事ができるのか?
そんなことが出来るなら、何でもアリである。
少し考え込む私達。
何かが引っかかる。
不意に何かが私の思考の中に浮かび上がった。
そうか、何でもアリならあの召使いが簡単に勝負を決するはずだ。
悪魔の方はどうだかしらないが、
天の使いを名乗る方は実力行使を厭わない。
彼らにも出来る事と出来ない事があるはずだ。
もし何でも出来るなら、
私はこの道に、この人生に辿り着けなかったはず。
彼らの計画は確かに今、頓挫している。
その事実を胸に考えを改める私。
何かあるはずだ。
ヒュドラか?
うん?
卑弥呼の多頭蛇は、毒ではなく水流を放っていた。
そもそも、エンキタンはその昔、森に火を放ってこの蛇を倒したはず。
最初の段階でその身体が燃えていたから、
弱点が水では?と考えたのだが、
もしかするとミスリードされているのかも。
建物の屋上から大通りを見下ろす。
すると冠水していたはずの大通りから水が消えていた。
今のタロスの攻撃で蒸発してしまったとしても、
そこはもうもうと水蒸気が立ち込めているはずだ。
しかし、辺りにそんな気配はない。
「アテナさん、
あの蛇がどんな力があっても、あれほど復活するわけがないです。
どこかにエネルギーの供給源があったはずです。
その源は今、あの蛇に吸い取られているはずです。
そして、道路に水がありません。
水道管の破裂で冠水していた道路が、
タロスとの戦闘で干上がっています。
つまり、前の形態と弱点が逆になっているかもしれません。」
私の指摘に、目を細めて道路を見るアテナさん。
「ちっ、あの召使いとやらはやはり仲間だな。
タロスは人工の生体部品が使われているはずだ。
毒にも耐性があるはずだが、ここまでの戦闘能力だ。
あのヒュドラも何らかの生体兵器なのかもしれないな。」
そう答えてくるアテナさんに、
「ですが、もう水が溢れることはないようです。
水道水も貴重ですから、この区画への上水道を止めたのかも。」
と私は答えた。
やはり、最後は私達が見届けるのだ。
皆が奮闘したこの地を守るため、今度は私達が身体を張る番だ。




