第6話 第2回研修 1日目 現地に向かおう
朝、若干の疲労を感じながら、窓からの朝日に起こされた私は、
適当に朝食を食べる。
最近は、物価高で何でも高いからな!
食パン一枚と水だけだ。
コーヒーやホットミルクを付けるなんて、贅沢はできない。
光熱費だって馬鹿にならないのだ。
パンだって素で食べる。焼いたりしない。
バターにマーガリン?そんなものはない!
ぱっばっと朝食を終えた私は、歯を磨き、髭を剃る。
昨日は、色々あった。
平々凡々だった私の生活に、また新たな闖入者が出現したのだ。
今だに謎の大企業、(株)ガイア神話連盟から私の護衛として、謎の美女がやってきたのだ。
アテナ・クランベリーを名乗る美女は、会社では警備の仕事をしていると言う。
確かに、身長は男性である私と同じくらいあるが、全体的な印象は華奢な女性と言っていいものだ。
まあ天明さんよりは強そうだが、大の男を相手に格闘できるとは思えない。
ああ見えて、武術とかの心得があるのだろうか?
「うーむ、しかし天明さんか、そういえば彼女も怪力の持ち主だったな、、」
一人呟く私は、女性といえど侮れないと思いなおす。
さて、今日の予定はどうしようか?
例の謎な企業、(株)ガイア神話連盟の仕事は、かなり不定期だった。
研修自体も数日かかったかどうか?
この緩い勤務実態で、月どのくらいもらえるのだろうか?
もしかしたら、契約金が高いだけで、月払いの報酬は雀の涙ほどしかないかもしれない。
「別の仕事も一応探しておくかな」
その時、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい、ちょっとお待ちください。」
玄関の扉を開くため、ノブを捻る。
むっ、開かないな、、
そうか、防犯のため鍵を2重にしたのだった。
鍵を開け、改めてドアを開くと、お隣に越してきた我がSP、クランベリーさんが立っていた。
「おはようございます、七福殿。」
おおっ眩しい!
慣れない外国人女性の挨拶に、言葉を詰まらせながらも朝の挨拶を返す私。
「おはようございます、ええとクランベリー様」
どこか偉そうな彼女には ”様” という敬称が必須のような気がした。
「うん? 私の名に敬称はいらないぞ、七福殿」
とクランベリーさん。
「それでは、クランベリーさんとお呼びすることでいいでしょうか?」
昨日会ったばかりの女性だし、そもそも私は彼女の企業のバイトくらいの存在。
正規社員と思われる彼女を、軽々しく呼び捨てにはできない。
一応、本人が敬称不要と言っているので、「さん」付けで呼ぶことを確認する。
「うん、それでいいぞ!
さて、今日10時ごろ、監査官殿がこのアパートを訪問するということだ。
ところで、七福殿、スマホの電源を入れているだろうか?
監査官殿が言うには、昨日の夜、連絡を入れようとしたのだが繋がらなかったそうだぞ。」
うん?
ええと、スマホか?
「ちょっと、待っててください」
部屋に戻り、スマホを探す私。
ちょっと時間がかかったが、見つけることができた。
ううむっ、充電していなかったかあ、、
スマホの電源を入れようとしたが、電池マークに赤いバーが光っている。
慌てて玄関に戻り、
「申し訳ありません、充電を忘れていました。
以後気を付けます。」
私は頭を下げながら、謝罪の言葉を紡ぎ出す。
「いや、最近色々あったのだろう、七福殿。
今後は私が責任をもって貴殿を守ろう。」
ふむ、ふむとしきりに頷くクランベリーさん。
「では、伝えたぞ!
それと監査官殿の訪問には私も付き添うので、安心することだな!」
それでは、と彼女の自宅となったお隣の部屋へと帰っていった。
うん?
監査官というのは、天明さんだよな?
何か心配されることがあるのだろうか??
部屋の掃除などをさっと片付け、時間までネット検索に精を出す私。
実はずっと、当該案件を持ちかけてきた(株)ガイア神話連盟 について調べてきたのだ。
企業のホームページなどは確かにある。
しかし、企業自体の業務実績等が分からない。
グループ会社があるのか?
または、どこかの子会社なのか?
日本で株式上場はされていないし、この企業の本社はヨーロッパの聞いたことのない小国のようだ。
もちろん、海外のサイトであっても検索は可能だ。
だが、この(株)ガイア神話連盟 本社のものと思われるホームページに使われている言語が翻訳不能。
そう英語表記とかはなく、おそらくこのヨーロッパの小国独自の言語なのかもしれない。
また日本支部のほうは、東京を拠点として活動しているようだ。
だが、これもネット検索では実態自体が詳細不明。
拠点のある東京に行ってみるのも、手ではあるが今は金がないので無理だ。
また、この間のコンビニで起こった事件についても、調べていた。
異様なあの大男について、何かないか?
しかし、中東の戦争や、災害に事件、果てはコメの価格が下がってきたとか
色々なニュースが毎日賑わう日本の情勢。
コンビニでの異様な出来事も、2日も経てばメインから外れ、ネットの都市伝説の隅っこを飾るのみ
テレビでは、突風の影響なのでは?というのが一般的な見解となっていた。
まあ警察も、5人組の強盗のほうをメインに捜査中のようだった。
そちらの続報は、今もテレビのニュースに取り上げられている。
何か大規模な企業データの流出事件に繋がっているようだ。
そんなこんなで、時刻は9時40分。
隣のクランベリーさんの部屋にお客さんが来たようだ。
いや、お隣の女性の部屋を監視しているわけではない。
ただでさえ、安アパートなのだ。
隣の部屋のチャイムや、ましてやお隣の扉がドンドンされれば、普通に気づく。
チャイムを鳴らせ
ドンドンするなと言いたいが、今のところ、我が家の方ではないから口には出さない。
クランベリーさんと天明さんらしい声が、外から聞こえ我が家の扉が乱打される。
どんどん!
だから、チャイムを鳴らせというのに!
ーーーーー
「ええと、アテナさんの自己紹介は聞きましたよね、七福さん。
我が社の警備部門で護衛任務を専門としている優秀な人材ですよ。
こう見えて頼りになりますので、安心してくださいね。」
久しぶりに見るリクルートスーツの天明さんが真面目そうに語る。
「それでは、いつものを」と、ヘッドバンドを差し出してくる。
だんだん、扱いが煩雑になってきた最新極秘機器。
苦笑いしながらも、ヘッドバンドを装着すると、自室が豪奢なアンティーク調の部屋へと変わる。
クランベリーさんもちゃんと実際の部屋の大きさを認識しているらしく、
警備の者らしい位置にしっかりと直立不動の姿勢で立っている。
いつもの長い髪の白天明さんに、どこか軍隊の将軍閣下のような姿に変わったクランベリーさん。
勲章とか付けてるのだが、本当に警備担当なのだろうか?
様式美が整ったと確認した白天明さんが口を開く。
「それでは、初めに前回のミッションであった倒木問題の件について、ご報告いたします。
総理自らのご提案により、開発を進めつつある樹木の超音波診断計測器ですが
異なる波形の音波を2か所から同時に発信し、特殊な収音器によりデータを収集。
スマホにダウンロードしたアプリによりAI診断する形で開発を進めています。
具体的には波長の異なる音波で立体的な測定を行い、密度の空洞化を観測。
測定値の診断には、まだまだ各種データを収集しなければなりませんが、
現在複数の樹木にてテスト中です。
ケースバイケースですが、本案件において、少なからずマンパワーの削減が期待できるはずです。
また、精度を更に高めるためベンチャー企業に、詳細な診断用AIアプリの開発を依頼しております。
追って続報に期待してください。」
と、一気に難しいことを報告し出す白天明さん。
普段と全然ちがうなあ、という感想はおくびにも出さない私。
前に、素で突っ込みを入れたら、非常に冷たい顔で凄みのある遠回しな却下を喰らった。
様式美をとても重視する白天明さん。
「さて、今回招集に応じていただいた皆様に、重大なご報告があります。
この件につきましては、一刻の猶予もなく即時の対応が必要と判断しております。
近年、野生生物による農作物への被害が多発しております。
ですが、昨年秋から今年の春期にかけて、人的被害も頻発するようになりました。
特に対策が急務とされるのが、野生の哺乳網食肉目クマ科による人里への被害です。
昨日、総理直属護衛官が配属され、警備面では全くの隙がない布陣が整いました。
なので、今回は総理、直々のご決断をいただきたく思い、現地調査を実施したいと考えています。」
「総理、ご英断をお願いいたします!」
と促す白天明さんに
「今度は、クマかよ!
どこに安心できる要素があるんだよ!
どうして、そんな自信満々なんだよぉぉぉー」
その後、会議は紛糾するも、白天明さんは強かった!
翌日、クランベリーさんが愛用する車で現地に向かうことが決まってしまった。
今回は3泊4日、社用の為、費用は会社の経費で落ちるとのことだったが、
私的な観光ではなく、仕事なため、宿泊先はビジネスホテル、食事は結局コンビニになるかもしれない。
なにせ、クマの出る場所を散策することになるのだ。
と言っても、被害のあった市街地等ではない。
山やら林の方、クマ本来の生息域へと現地調査するという生きて帰れるのかという過酷なコース。
確かに、クマが出たという人里なら、まだ問題ないし、山野であっても人がいる場所だ。
早々危険があるとは思えない。
しかし、今回は何処かの博士が行っているようなドキュメンタリー番組に近い構図である。
積極的に、クマに近づくという頭がいかれたコースなのだ。
私は急な旅行に向かうため、会議?の後に3泊分の支度を整えた。
朝、リクルートスーツな天明さんが我が家を訪問、アパート前でクランベリーさんを待っていると
何か可愛い軽自動車が、走ってきて私達の前で止まった。
その運転席には、普段より明るく笑う金髪女性の姿が。
そうか、クランベリーさんも女の子だったか、、、
高級外車に普段乗っていそうという偏見は、ダメだったなあ、、、
一行は、高速道路をひた走り、現場である東北地域へと向かうのだった。




