第67話 ???
岐阜市から名古屋へ向かう避難用の臨時バス。
そのバスに同乗する女性がいた。
鈴木は政府から今回の避難計画のため、
派遣されてきた女性職員である。
こういう荒事が起きた時、同性のほうがメンタルケアなどに
対応できるため、彼女のような若手も派遣されたのだ。
彼女自身、キャリアアップのためには都合が良かった。
男女平等とか叫ばれたりするが、
今は普通に働き方改革の方を推進してほしいと内心は思っている。
上に任せると夫婦別姓とか、
何かの問題にいつもすり替えられてしまう。
その問題、ちゃんと働き方改革に入ってたんじゃ。
だが、問題を解決するにも出世しなければならない。
そう下っ端では、その声は上には届かないのだ。
彼女は、向上心ある平和主義者である。
あくまで直接的な力比べなどしない。
皆が遊ぶ時間を仕事に割いて、他より効率良く出世するのだ。
彼女の思想に最短ルートはないが、最適化されたルートならある。
そのルートに乗って、他より更に上に行く。
皆が目指すルートを辿っても、無駄な力比べが発生するだけだ。
そこには岩盤のような秩序が存在し、上るものを打ち据える。
ならば、そんな常識的なルートなど捨てるのだ。
皆が足掻く中、出世する。
偉くなれば、秩序自体が自分を守ってくれる。
そして、私が秩序を作るのだ!
まあ、そんな野望を抱く彼女はまだ新人であり、
同期からは変わり者扱いされているのだが。
そんな彼女だから、今回の騒ぎはキャリアアップに最適だった。
不謹慎だが、この場は彼女にとって顔を売るチャンスなのだ。
将来、偉い議員になるには、
こういう場でのアピールは欠かせない。
この仕事は、国民に対する政府のアピールであり、
自分はその広告塔の一部である。
緊急事態にあってこそ、政府の実力が試される。
揺るがぬ信頼を勝ち取るには、こういう時の対応がモノを言うのだ。
実際、彼女は世襲議員でもないので、
この事件はまだ若い彼女にとって一世一代の勝負どころなのだ。
ここで顔と名を売る!
実務をこなし、国民に寄りそう姿を示す。
誠実で公正なイメージをここで売り込み、
あわよくば報道カメラなどにも露出して、人気を得るのだ、
まあ彼女の野望が叶うかどうかは知らないが。
野望に燃える彼女だったが、少し気になることがある。
実は、一番後ろの席にいる姉妹のことだ。
この臨時バスに乗る時、
乗客には、一応身分証明証を提示してもらっていた。
まあ、マイナンバーカードだったり、免許証だったりするのだが。
その姉妹は身分証明証として、保険証を提示してきた。
姉は21歳で、妹のほうは18歳。
長い黒髪の姉と妹で、同性ながら揃って美人と言っていいと思う。
今回の騒動で、滋賀県東部から避難してきたらしい。
何も問題はないとして、その場は通したのだが。
何か引っかかるのだ。
その時の様子をしっかりと思い出せない。
頭を振って、違うことを考えようとするのだが、
何かおかしい。
彼女たちの名を自分は確認しただろうか?
???
「皆、本当に大丈夫でしょうか?」
???
「気にするな、
我らは皆、貴女の友人だ。
貴女の望みを叶える為なら、
我らも身を粉にして助けよう。」
???
「あの子が連れ去られて、千年を超える時が経ちました。
今はエンキタンの仕業ではないことは分かっています。
でも、あの子は何故帰ってこないのでしょうか?」
???
「そうじゃな、そう言えば京の近くに行ったとき、
そなたとよく似た雰囲気の者がいたぞ。
まあ、妹御とは色が違ったが。
案外所縁のものかもしれぬぞ。」
???
「はあ、それにしても、
このバスと言うものは何かくらくらしますね。」
「おい、それは車酔いだぞ。
ああ、もう少し寝るがいい。」
”1700年ぶりじゃ、良い夢を”
” 眠れ ”
頭を年若い少女の方に傾け、
すうすうと寝息を立て始める女性がひとり。
岐阜市から名古屋へと向かうバス。
まだまだ避難者は多くいる。
その後、彼女達の姿は数ある人々の中に消えて行った。




