第65話 岐阜、絶対防衛線その3 空自、奮戦す
女王卑弥呼率いる妖の軍団が、岐阜の地へ迫る頃、
青森県にある基地より2隊8機編成の戦闘機が、
目標に向け、飛び立った。
1隊4機が精密誘導爆弾を装備し、
残り1隊は護衛用の空戦装備である。
作戦エリアまで、後15分程度、
エリア内の民間人は退避済みである。
普通、民間人の退避は時間がかかるものだが、
今回に限っては例外だった。
余りに違いすぎる異様な集団の襲来に、
皆、速やかに退避に応じてくれた。
身体の状態で動けない人達や老齢の人達も、
臨時に派遣された救急隊により皆安全地域である岐阜市へと
退避した。
この空爆が上手くいけば、戦闘自体は終了する可能性が高い。
「こちらライトニングB1、ライオンヘッドへ。
作戦エリアまで10分、攻撃許可を申請する。」
爆装した戦闘機編隊、呼称はライトニングB1からB4。
援護機にはライトニングA1からA4の呼称が与えられている。
今回、誤爆など出来ないので、
精密誘導爆弾を超低空で落とすことになっている。
所謂、滑空射出ではなく、直接照準による爆撃だ。
敵戦力に対空兵器は存在しないことは、
今なお偵察中の陸自ヘリからも確認済みだ。
正直、戦後初めてとなる自衛隊による戦闘行為だが、
相手はどう見ても人間ではない。
殺戮と言うよりモンスター退治に近いのだ。
作戦自体の成功は、誰もが疑う余地はなかった。
50メートル級の怪物もいるが、
今抱えているのは数百メートルを火の海に出来る装備である。
程なくして、オペレーターから返事があった。
「こちらライオンヘッド、目標は作戦エリアに入った。
まだ民間のヘリが、目標に張り付いているが、
作戦エリアからは離れている。
攻撃の影響はないだろう。
誤爆は許されない、慎重に攻撃するよう要請する。
それでは、攻撃を許可する。」
「聞いたな、これよりライトニングB1からB4は爆撃の為、
低高度飛行に移る。
残り3分、各自攻撃準備。」
「「「了解、ライトニングB1]]]
超音速飛行も出来るが、今回の相手なら爆撃の精度を上げるため、
音速以下での通常飛行で十分だ。
しばらく飛行すると、作戦エリアが見えてきた。
かなりの速度で飛んでいるのだが、
それでもその怪物を視認するのは容易だった。
余りに異様な大きさのモンスターが1体と
その周りを異形が取り囲んでいる。
「ライトニングB1、爆弾投下!」
次々に目標に吸い込まれていく爆弾の雨。
この後の大爆発を予想し、
この巨大なモンスターが倒せればいいがと祈るパイロット。
しかし、事態は思うようにいかなかった。
「くそ、爆弾が破裂しない!
不発だと!」
投下した爆弾の全てが、起爆しなかったのだ。
異形の軍団は、ほぼ無傷だ。
ライトニングB隊は積める武装を今投下した爆弾に
全て変えていた。
空戦も必要ないミッションだったため、
地上への空爆に装備を全て変更したのだ。
「こちらライトニングB1、ライオンヘッド。
攻撃は失敗した。
目標に投下した爆弾が起爆しない。
繰り返す、攻撃に失敗した。
次の行動を指示してくれ。」
無線から司令部のものなのか、ざわついた声が聞こえる。
「こちらライオンヘッド、
ライトニングB1からB4は帰還してください。
ライトニングA1からA4へ、
地上攻撃を実施してください。
繰り返します、ライトニングA1からA4へ、
通常武装による地上攻撃を実施してください。」
混乱する中、援護に来ていたライトニングA隊が、
行動を開始する。
4機は二手に分かれ、2機ずつが目標へと急降下。
ミサイルを発射し、機銃掃射を実行した。
放たれたミサイルは爆発しなかったが、
大きな人型にぶつかりその身体をグラつかせた。
さらに機銃掃射が、兵と思われる何かをなぎ倒し、
数体の巨人を打ち倒した。
綺麗な旋回を見せ、A隊は上昇。
次の攻撃に移るため、各機が目標への侵入路を確保しようとする。
”ふむ、最近の人間は物騒じゃな。”
そんな声がその場にいた攻撃隊パイロットの頭に響く。
旋回中だが、異形の方に目をやると、
軍団の上空に、何かの光が放たれている。
ヘッドマウントディスプレイのズーム機能により、
目標を視認するパイロットたち。
そこには7つの尾を持つ人間より少し大きな狐が、
光を放ちながら浮いていた。
”まあ、知らぬようなので警告してやろう。”
そんな言葉が頭に響くと、
その狐が、複数の色の光を放ち始めた。
その七つある尾が、一つずつ振り上げられる。
一瞬、光が強く輝き、狐から稲妻が数筋、発せられた。
光を見て、回避行動に移っていたライトニングA隊だったが、
稲妻の一筋がA3を捉えていた。
A3のパイロットはすぐさま脱出したので無事のようだが、
機体のほうはエンジンが停止して空中を木の葉のように墜ちていく。
狐の化け物が放つ稲妻は、まだ止まってはいない。
稲妻の轟音が、遅れて辺りに鳴り響くが、
戦闘行動中のライトニング隊には届かない。
旋回するA1を狙い、稲妻が襲いかかる。
巧みな操縦と緊急加速を掛け何とか回避するA1.
化け物の死角を突いて、A2、A4の2機が対空ミサイルを発射。
しかし、化け物はそれらを稲妻で薙ぎ払った。
爆発するミサイル、それを右側に回避しつつ、
2機は機銃掃射を仕掛ける。
搭載された25mm機関砲が、咆哮を上げる。
しかし、その銃撃に対し、
空中を駆けるように変則軌道を描き、跳躍する化け物。
軌道を変更して、
二手に分かれようとする2機の内、1機に跳びかかり、
その稲妻を帯びた尾を撫で斬る。
A4が脱落する中、A1とA2が急旋回、高度を上げる両機。
2機は、化け物の上空から二手に分かれ急降下。
A1は垂直に近い角度で化け物に接近。
A2はブーストで加速しながら化け物の横方向へと突っ込む。
稲妻を正面から浴びることになるA1だったが、
その軌道を巧みに操り、何とか避ける。
しかし、急速に接近する化け物から稲妻が網のように放たれた。
A1はこの稲妻を躱せなかった。
直後、加速して化け物の側面に接近したA2はミサイルを発射。
化け物はこの攻撃を躱せなかった。
爆発するミサイルにガッツポーズを上げたA2のパイロット。
次の瞬間、爆発による噴煙が閃光によって切り裂かれた。
なっ、、
A2のパイロットの顔が恐怖に歪む中、
強烈な稲妻が、A2を捉えた。
あの爆発の中、化け物は健在だった。
その身体を輝く光が覆い、
閃光を発する七尾から稲妻が間断なく発射された。
一瞬の閃光、
私達B隊を含む全ての戦闘機が稲妻により撫で斬りにされた。
稲妻の直撃により、機体の電子機器が落ち、
エンジンが止まる。
私、B1は緊急脱出を試み、操縦席が射出された。
ーーーーー
偵察ヘリが捉えた現地の映像を見ながら、
集まっていた自衛隊幹部と防衛相の面々は蒼白になっていた。
異形が相手ではあるが、
まだ自衛隊を動かせば何とかなると考えていたのだ。
総理
「空自パイロットの安否確認と救出を。」
「警察庁長官を呼び出してください。
それと現地に展開している警察機動隊と陸自の部隊を、
岐阜市方面へ下がらせてください。
防衛線を再構築するべきです。」
官房長官
「分かりました、今すぐ手配します。」
ーーーーー
三枝木さん達と共に、岐阜市へと向かう私達。
タロスやランドナックルを乗せたトレーラーと、
指揮管制機能を持つ車両を加えた数台が目的地を目指す。
疲労が濃い私達は、寝台のある大型車両で休んでいる。
私達の進む道には、
幾台ものブルドーザーなどの重機が並んでいた。
報道ヘリにより撮影された現地のニュース映像。
墜落する空自の戦闘機隊の映像は、
その場にいるものに衝撃を与えていた。
それを見て、岐阜市から名古屋へと急ぐ避難者。
野次馬気味にやってきた者たちも、名古屋へと引き返すため、
Uターンしようと右往左往する。
そんな車列が相次ぐ中、それでも進もうとする者たちがいた。
警察の関係車両と思われるものの他に、重機や大型トラックが、
岐阜市を目指していた。
中には僧侶を乗せたバスもあったりするが、
一際目立つ高級外車もその列に加わっている。
本当の意味で暮らしと平和を守るため、
決戦の地へと向かう人々。
その瞳の奥には、確固とした決意が秘められていた。




