第61話 災禍の夜その3 邪馬台の将
「ふむ、これが世界の神秘というものか!」
そんな小野寺所長の声を聞き流しながら、
市内の様子を覗う私達。
1号線を進んできたが、どうやらここは駅裏にあたるようだ。
商業施設はあまり見られないが、
幾つか大きな建物が見える。
しかし、明かりのようなものは、点いていない。
道路中央には警察車両が停められているが、
肝心の警察官がいない。
「天明さん、これって人払いが掛けられたりは?」
と天明さんに質問する私。
「いえ、ここのは多分何かの結界です。
通常、人払いが掛けられている場合、
人はその場所へ行こうとしないのです。
人の無意識な部分に働きかける術なので。」
「でも、今回、ここの異変に皆気付いていますし、
警察もこの場所へ突入しています。」
と答える天明さん。
「ふむ、少しマンションのほうを見てみないかね。
あそこに見えるだろう?」
小野寺所長が提案してくる。
なるほど、少し先に何かの建物が見える。
「でも普通、人が避難するなら広場か何かなのでは?」
そう言って、スマホを起動させた天明さんが建物の反対側を、
指さす。
その奥に公園や學校があるらしい。
天明さんはスマホに予め地図情報をダウンロードしてきたらしく
その情報から目指すべき施設の幾つかが読み取れる。
さて、どうするべきか?
確か、繁華街らしきところで、骸骨の兵士や巨人が暴れていたはずだ。
通信が途絶える前に、幾つもの動画が上げられていた。
武装した集団に襲われている場合、見晴らしの利く場所は逆に危険だ。
そして、動画の場所は繁華街のものが多い。
うーん、天明さんからスマホを借りて、
市内の施設を確認する。
む、自衛隊の基地まであるな。
警察が苦戦しているなら、出動してくる可能性もある。
まあ、あくまで市民の安全を考慮して、市内での発砲とか
できないかもしれないが。
そもそも、銃の類が効く相手なのだろうか?
大津市といっても広いな、、
とりあえず、人が安全なのか確認したいところだが、
何処へ行ったらいいのか?
ふむ、発想を少し変えてみよう。
そもそも原因さえ取り除けば、後の事は警察でも何とかできる。
今、敵となっている骸骨の軍団は、
ここへ来る前に話し合った通り、湖西の本陣への道を塞いでいるはずだ。
同時にここを囮にして、人の目を引きつけている。
小野寺所長の意見が正しいのなら、
敵の目的は住民等の殺戮ではないはず。
ならば、湖西側へ向かう道路と電車を一度に遮断する位置に
戦力を置くはず。
そして、もっとも目を引くその場所は、
「大津駅前に行きましょう!
あそこが一番人の目を集めやすいし、
湖西ルートの移動手段を抑えられる。」
私は、そう決断する。
駅に陣を敷けば、国道1号線を抑えながら、
電車を遮断でき、更に草津への道も塞げる。
京都、大阪からのこちら側の増援をここで防ぎ、
福井や岐阜から派遣されるものは、湖西の本陣に気づかず、
真っ直ぐここを目指してしまう。
次々に増援が送られる警官隊や自衛隊も、
駅の攻略に時間を割くことになるだろう。
つまり、時間稼ぎの陽動にこの場所は最適なのだ。
京都市を襲えば?
だが、歴史ある都には、第3第4の勢力がいるかもしれない。
邪魔がなるべく入らず、こちらの体勢が上手く整えられない場所が、
ここなのだ。
真っ直ぐ駅を目指す私達、その建物は少し走れば見えてきた。
駅裏の手前で、様子を覗い中へ入って行く。
なるべくここで時間を掛けたくない。
目指すのは駅の表側だ。
一応確認しているのだが、
駅のガラスが割られていたりはしない。
どうやら、ここは襲撃されていないようだ。
改札や線路を跨ぐ通路を進み、
しばらくすると駅前通りに面する正面入り口に辿り着く。
ここは一転して入口やガラス張りの壁が破られている。
この先が駅前になるはずだ。
破られている入口付近から外を見ると、
開けた場所の真ん中に佇む人影が一つ。
例の骸骨や巨人がいない。
なぜ?
そんな疑問を持ちながら、
天明さんに小野寺所長を任せ、広場へと進む私。
すると人影がこちらに目を向けた。
不意に広場が明るく照らし出される。
気が付けば、例の不思議な光が広場に集まっている。
その光は、人影をも鮮明に照らし出す。
眼窩は落ち窪み、顔は干乾びてミイラのようだ。
人にしては肉の落ちた風貌に、
草木で染めたのか緑がかった色の装束を羽織っている。
所々に防具を着けているので、明らかに関係者と分かる。
その人物は細い腕に長い直刀を持ち、私の方を向いた。
「誠、良き夜じゃ。
我が女王の宿願が叶うめでたき日。
そなたも祝うが良い。」
ミイラのような人物は、男性のようだ。
その姿に似合わず、意思を持つ存在。
ならば、と私は問いかける。
「貴方の女王とは、邪馬台国の卑弥呼女王のことですか?」
すると、
「そうじゃ、我が主はかの方以外にはいない。
さて、そなたもここに話をしに来たわけではあるまい。
察するに、もう我らの策も知っているのであろう。
じゃが、ここから一歩も通すわけにはいかぬ。」
と答えてくる。
「この街の人はどうなっているんですか?」
そう問う私に、
「ふむ、それは私を破ってから確かめると良いじゃろう。」
「我は邪馬台国一の将、狗礼谷比古。
我が主に、汝の首を捧げるとしよう。
参る!」
そう口上を述べた彼は、手に持った直刀をすらりと抜いた。
「来よ、天乃稲姫の太刀!」
私もそれに合わせ、抜刀する。
私が構えるのを待っていたのか、
彼はそれを合図に、私との間合いを詰めてくる。
咄嗟に剣を水平に薙ぐが、その瞬間すっと後ろに下がる彼。
そして次の瞬間、大きく踏み込んできた。
一瞬の合間に、袈裟斬りが私を襲う。
太刀を振り切ってしまった私は、横へと転がり何とか避ける。
しかし、彼は更に踏み込んでくる。
咄嗟に置き上がらずに地面に伏せた私の上を、
直刀の横薙ぎが通過する。
私も反撃を放つ。
「 風鈴二閃 」
チリ_ィ__ン___
二筋の風の斬撃が、彼の腕と首部分を襲う。
しかし、彼は素早い動きで、首の一撃を斬り伏せ、
右腕に迫る斬撃を剣の柄で受け流した。
その間に私も立ち上がり、太刀を構え直す。
その後も続く1撃、2撃を何とか防ぐ私。
その太刀筋は鋭く、防戦一方に追い込まれている。
とにかくよく相手を見ること。
それは、妖精郷で学んだことだ。
すると、その身体から青い光が放たれているのに気付く。
その光は、攻撃する瞬間、瞬き、
実際の太刀筋より早く、その輝閃が現れる。
私は、その光を頼りに太刀を振るった。
すると、上手く打ち合わせることができた。
ちょっと掴めてきた。
それからも、数度打ち合うがその光に意識を集中することで、
何とか凌ぎ切る。
数度目かの斬り合いで、上段からの袈裟斬りを見切った私は、
がら空きになった胴へと太刀を滑り込ます。
水平斬りは綺麗に決まった。
しかし、刃は彼の胴当てで止まった。
衝撃により彼は後ろに飛ばされるも、
胴へのダメージは少ないかもしれない。
彼の身体を包む青い光は、少し瞬くに留まったから。
しかし、今の攻撃で何かの手応えを感じた。
何かの護りを突破したそんな感触を覚えたのだ。
「ふむ、中々の腕と言いたいところじゃが、
なるほど、この身も不自由なところはあるのじゃな。」
むっ、何か気付かれた、
「それならば、人の剣を捨てるより仕方あるまい。
我が流儀にあらず、じゃがここで負けるわけにもいくまいて。」
唐突にその身体の輪郭がブレた。
次の瞬間、
私の懐とも呼べる距離に低い姿勢を保って、
現れた彼は剣を腰だめに構えている。
それまでも速かった太刀筋だが、今回、十数もの光が予兆として見える。
まずい。
「 風舞跳躍 」
咄嗟に緊急回避を行う術を発動する私。
吹き飛んでいく彼の姿。
この術、至近にいれば、例え敵であっても掛けられる。
大きすぎる相手には、意味はないのだが、
今回は人間サイズである。
大きく飛ばされた敵を追って、私は駆けだす。
正直もう絡め手は通用しない。
彼はかなりの手練れだ。
しかし、人間だった時のまま、今もその剣術を振るっていたのだろう。
故に、自分が力ある者となった時の戦い方に気づけなかった。
力が強いほど、その意思が攻撃の予備動作として現れる。
彼は今、何らかの妖に近い状態なのだろう。
その全身、あの剣を含めて霊的エネルギーの塊と言える。
要は念力と同じだ。
物を曲げるために、ひたすら念じる。
その念の類が、力が大きくなると目に見えるようになるのだ。
銃を撃つには引き金を引くだけですむが、
大砲を打つには、複数の人に合図を送り意思疎通を図る必要がある。
力が大きくなればなるほど、予備動作も強く表れるようになる。
彼は先程、人の剣術を捨てた。
要するに、力を全開にしてこちらを圧し潰そうとしたのだ。
ここで、倒せなければ、私の方が倒される。
いささか長い滞空時間を経て、
落下してくる彼はまだ空中なのに剣の構えを整えている。
落下地点に回り込み、私は上から落ちてくる彼を迎え撃つ。
喰らえ!
「 風の撃、打ち貫け! 」
” 風撃乱打 ”
同時に青い光が瞬き、数十にも及ぶ太刀筋が見える。
ヤバい!
渾身の力を込めた風の打撃は、放たれた剣閃に対して拮抗する。
前はこれでもよかったが、今は何としても押し返さなくては!
風の打撃を細く鋭い錐のイメージに変換して生成する私。
打撃の威力は減ったがその分、数は多く剣をすり抜ける率が高まった。
空中で拮抗していた打撃の応酬は、
防御をすり抜けた風の錐十数発によって勝負を決した。
その反動で攻撃の手が弱まった彼の身をさらなる風が貫いていく。
地上に落ちた彼は、装束や防具に数十の穴を開け、
その姿は、すっかり朽ちたものとなり果てた。
「誠、不可思議な世となったものじゃ。
この私をこのような幼子が打ち破るとは。
女王、私は先に行く。
此度は心曇ることなく、決着を、、、」
邪馬台国の将を名乗った彼は、それを最後に塵と消えて行った。
天明さんと小野寺所長がこちらへ寄ってくる。
しかし、
”ふふふ、人よ、現世の者もなかなか、やるようじゃな。”
と頭の中に声が響く。
天明さん達もその声に足を止めたようだ。
どこからともなく、それは現れた。
それは2メートルはある狐、ただし、その尾は7つある。
妖狐。
古来勇名を馳せた狐の化生である。
”ふふ、まあ良い。
この地での役目は終わった。
もうすぐ、友も悲願を遂げられよう。”
”人よ、安心するがいい。
この地で倒れた者はおらんからのう。
しかし、刮目するのじゃな。
かの地では、保証はできぬからな。”
その言葉と同時に消え去る妖狐。
辺りを包んでいた気配は薄まり、
電灯などが点き始めた。
時間稼ぎか!
まだ前哨戦なので、天明さんは温存しました




