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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第4章 陽の光が地に堕ちる刻
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第60話 災禍の夜その2 閉ざされた本陣への道

夜も更けた午前0時。


所長室に集まった私達は、お隣の大津市で起きている

謎の事件について話し合っていた。


当初、車で向かおうとしていた私達だったが、

小野寺所長はあっさり却下したのだ。


「ふむ、君たちも知っての通り、

 今現在、大津市への幹線道路は警察によって封鎖中だ。

 私達はこの類の研究を行ってはいるが、

 あくまで一般企業の一研究所の職員に過ぎないのだよ。

 正面から行っても、大津市を囲む規制線は抜けられないだろう。」


確かに、そうかもしれない。


私も、その言葉には同意するが、

かと言って、このまま放っておくわけにはいかない。


以前は何も出来なかった。

その結果、私は殺されてしまった。


今、隣の街では、そういう事が行われているのだ。


私は、偶然助かった。

ある意味、奇跡的な出来事なのだ。


そして、私は今それを止めるだけの力がある。

そう少なくとも抵抗はできる。


行けば誰かを、見知らぬ人だったとしても、

その人生を救えるかもしれないのだ。


私は英雄の器ではないかもしれないが、

出来る事があるのなら、誰かを諦めることはしたくない。


そんな感情が言葉を紡ぎ出していた。

強い想いが、私を突き動かしている。


「ふむ、しかし、小野寺殿、放っておけば惨事になるかも

 しれないぞ。

 現に、中に送り込まれた警官隊は音信不通だそうじゃないか?

 七果だけではなく、私もそんな出来事は見たくないぞ。」


とアテナさんも言葉を返す。


私達が、ああでもないと論戦を繰り広げる中、

天明さんは、何かを考えているようで終始無言を貫いている。

その手にはスマホが握られ、何かを検索しているようだ。


「君たちの言いたいことは分かるのだがね。

 ここから大津へ行く道は封鎖されているのは間違いない。」


と小野寺所長は一貫した主張を続ける。


そして、


「私はね、多分徒歩なら警察の封鎖が及んでいないところから、

 市内には入れると思うのだよ。

 ただ、とても気になるのだよ。

 なぜ今、大津を襲うのか?」


「今、加賀崎君に連絡を取っているのだが、

 七果君、君は件の毒蛇は金剛殿のように、

 核があると言っていたね。」


うん?

それが何か関係があるのか?


「今復活しようとしている毒蛇は、

 その核の力が必要なのではないかと思うのだよ。

 話によれば、毒蛇は数ある幽鬼を捧げて、

 作られているそうじゃないか?」


と所長は続ける。


「それはそうですが、だからこそ今、隣街を襲っているのでは?」


私もおかしいとは思う。

そもそも、記録保管庫は悲劇を忘れないために作られていた。


エンキタンと邪馬台国、

双方の勢力がいつでもアクセスできるように。


となれば、位置的には、あの辺りが双方の勢力の境に当たるはずだ。


そして、毒蛇の本体は関東に位置している。

エンキタンとは、関東方面を主とする勢力なのだろう。


最終的にコントロールできなくなった毒蛇は、

両勢力関係なく暴れまわったが、やはり最もその力の犠牲になったのは、

エンキタンだろうから。


その関係上、毒蛇本体の封印は、

エンキタンの管理下で厳重に守られているはずだった。


今、封印は破られようとしているが、

直接破れるのなら、本体が封印された遺跡を狙えばいい。


思えば、私が踏み込んだ遺跡も関西圏だった。


つまり、邪馬台国側にある封印、つまり日本の西側の遺跡にしか、

あの骸骨らは出られないのかもしれない。


だが、それゆえ、核へ更なる力を送ることで、

封印を破ろうとしているのでは?


かつて、敵方のエンキタンの兵士をも蘇らせ使ったと言っていた。

同じことをしようとしているのではないか?


毒蛇に送る霊的エネルギーを確保するため、

多くの新たな幽鬼を作り出す。


そして、それを糧に毒蛇の核を強化する策なのでは?


だが、小野寺所長は別の可能性を示唆してきた。


「私達は、今霊的エネルギーを彼らが集めていると、

 思っているが本当にそうだろうか?」


ええっと、うんん?

私は言葉を詰まらせる。


所長は言葉を続ける。


「彼らは今まで復活に至るエネルギーとやらを、

 溜め続けていた。

 七果君を襲った大蛇はそれ相応に力を取り戻していたのだよね。

 何故、今になって全ての遺跡が見つかったのだろう。

 そもそも、古代の何かの術で隠されてきたものだよ。

 エネルギーを貯めるだけで復活するなら、

 見つからないまま、復活までもっていけばいい。」


「私はね、毒蛇の封印を解くには、

 何らかの形で姿を現す必要があるのでは、と考える。」


「私達が使う電気は、発電所から配電網を経由して、

 社屋に届くだろう?

 それと同じで、封印を解くだけの霊的エネルギーを送るためには、

 この現実世界に一旦現れる必要があるのではと思うのだよ。」


「毒蛇の力の源が、何かの核であるなら、

 今どこかに現れているのじゃないか?

 七果君を襲った大蛇は、封印自体は別の理由で破られた。

 本来、頭や首の一本が復活したとしても意味はない。

 そもそも、本体がないのだから、

 放っておいてもエネルギーを消費して勝手に消えた可能性が高い。」


「古来、何かの存在が復活するには、

 大仰な儀式や祭りを執り行うことが多い。」


「しかし、それはとても目立つものだ。

 まあ、目立たないといけない理由があるのだろうがね。」


「神の類に生贄を捧げる儀式は、昔行われていた事例がある。

 生贄とは何かな?」


「私はね、復活に必要なエネルギーはもう蓄え終えていると思うのだ。

 そして、今はそのエネルギーを

 核を通して本体に送る儀式中ではないかと考えている。」


「古来儀式とは長くかかるものだ。

 この手の儀式は、用意された手順を正確に踏むことを強いられる。」


「逆に言えば、今が一番彼らにとって邪魔されたくない時間じゃないかな。」


と、小野寺所長はその意見を締めくくる。


私は、


「しかし、隣街で暴れているものも放っておけないですよ!」


と言うが、小野寺所長は更に、


「だからこそ、徒歩で行ってはいけない。

 その後、車で移動しなくてはならないからね。

 おそらく、彼らの本陣は徒歩では時間がかかるところだ。

 ただし、車で移動されては儀式を邪魔できる距離にあるのだろう。」


「彼らの狙いは、おそらく陽動だよ。

 君たちが、警察の規制線を抜ける為、

 徒歩で行けば、その後の移動に使える車が無くなる。」


「もともと、東西決戦をするなら関ケ原だ。

 古来からあの場所が決戦の場に選ばれてきた理由があったのだよ。

 そして、本陣とするなら琵琶湖の水が使える場所だろう。

 戦争をするには、大量の食料と水源が必要だからね。」


そう反論して、視線を天明さんへと向ける。


「で、どうかね、天明女史。

 そろそろ、何か見つけたのじゃないかね。」


”今はSNSが発達した時代だ。

さすがの彼らもそれは知らないだろうね。”


すると、天明さんは、


「ええ、SNSにお祭りを行っている場所がありました。

 付近を通りかかった人が動画を上げています。

 どうやら、大津に入れず戻った方が見つけたようです。

 厄介なことに湖西側です。」


と答えた。


「うーむ、君達は二手に分かれて行きたまえ。

 車はクランベリー君が京都北経路で福井を抜けて、

 大津の手前まで回り込むのだよ。」


「その間に、私達で大津に潜入しようじゃないか!」


”なに、徒歩ならば何とでもなるよ。”


それから、すぐに小野寺所長の車で、国道一号線を大津へと急ぐ。


アテナさんは、一旦京都北の舞鶴へ出て、そのまま福井県を回り

滋賀県へ入るルートへ。


湖西側にある何かを偵察もするそうだ。


動き出した私達だが、1号線は現在、警察の規制線がある。


しかし、天明さんの便利な力が今回役に立った。


例の結界みたいなものを展開し、封鎖を突破したのだ。


ちなみに、車は無理なので近くに路駐してある。


それとこの結界、実に難しかった。

何って、天明さんは普段、術を使う時、移動しない。

当たり前だが、集中が乱されると術が解けるので。


そこで、小野寺所長が持ってきた自転車に乗せた。

移動は私と小野寺所長が慎重に押して通った。


規制線とはいえ、車を通れなくするためのもの。


さすがに自転車サイズで姿が見えない私達は素通り出来た。


そして、この自転車は電動アシストのついたお高い奴だった。


私と天明さんが、必死で走る中、

小野寺所長は余裕で大津市への道を走り切った。


そこら中に車が停められ、ゴーストタウンのような大津市。

いつか見た不思議な光が街を照らし出す。


「ふむ、これが世界の神秘というものか!」


そんな場違いな大声を上げ、感嘆するのは小野寺所長だけだった。

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