第52話 相談
深夜、駅前通りに逃げ延びた私達は、
近くにあったビジネスホテルにチェックインした。
アテナさんが、緊急時のためにと、いつも最低限のお金を、
身に着けていたので、宿泊代くらいは支払えたのだ。
その数時間後、多くのサイレンが街に鳴り響くのを、
私達は聞いた。
朝早く、ホテルを出た私達はアパートに戻ろうとした。
しかし、その付近の地域、私が住んでいるアパートを含む、
半径数百メートルに警察による規制線が張られ、
多くのパトカーや消防車が道路に停まっていた。
その場を塞いでいる警官の一人に、自宅に帰りたいと、
告げるが、
「ああ、現在、現場は立ち入り禁止です。
原因不明の陥没や家屋の損壊、火災が起きていて、
今、事態の収拾に当たっています。」
それを聞いたアテナさんが、
「すまないが、自宅に身分証明証やお金などを、
置いてあるのだが。
なんとか、それを回収できないだろうか?」
私達の恰好は、襲撃の時と同じだった。
そもそも、ホテルを早く出たのも、
パジャマ等では目立つからだ。
ホテルでも訝し気に見られていたし。
最低限、服やお金、身分証明証を回収しなければ。
そんな思いが、全員の顔から読み取れたのか、
話していた警官が、女性警官の一人を呼んでくれた。
「皆さん、昨日の事故から避難していたのですか?」
そう聞いてくる女性警官。
天明さんが、
「はい、突然大きな音がして、地震か何かかと思い、
今まで駅前のほうに避難していたんです。
私達は、それまで就寝中でしたので、
こんな格好でして。」
一息入れて、
「この先のアパートなんですが、
貴重品を置いて、逃げ出したんですが、
付近に人気が無くて、繁華街のほうへ行ったんです。」
「あちらの方では、何事もなかったので、
ほっとしたのですが、
とりあえず、朝を待って戻ってきたんです。」
「なんとか、貴重品だけでも持ち出せないでしょうか?」
と、それらしく状況を説明する。
「そうですか、大変でしたね。」
そう言って、私達の恰好を見る女性警官。
「ちょっと、消防の方に聞いてきますので、
少しお待ちいただけますか?」
と、丁寧に対応してくれる。
その女性警官は、初めに応対してくれた男性警官に、
何かを相談し、人を呼んでくれた。
消防関係と思われる数人が、こちらに来て、
「大変でしたね、確かに女性3人で怖かったでしょう。
うーん、あなた方の家というのは、何処でしょうか?」
そう聞いてくる。
アテナさんが、アパートの位置などを答えると、
「そうですか、失礼ですがどなたか身分証明証をお持ちですか?」
その質問に、そうくるよなぁと途方に暮れる私。
そもそも、パジャマに上着替わりのジャケットを羽織った私。
突然の襲撃に、身分証明証とか持って出るわけがない。
そんな中、アテナさんが、
「それは私が持っているぞ。
私は、企業で警備を担当している。
業務上、常に連絡手段や身分証明証、現金を常時持ち歩いている。」
そう言って、スマホとマイナンバーカードを出して見せた。
「そうですか、ちょっと確認させていただきます。」
そして、先程の女性警官にも見せる消防の人。
「大丈夫ですね。
そちらの方々もそのアパートの方ですか?」
と女性警官が、質問してくる。
「ああ、彼女たちは、私の同僚たちだ。
こっちの彼女は、私の隣に住んでいるし、
そっちは、昨日私の部屋に用事で泊っていたのだ。」
と、答えるアテナさん。
所属する企業名を告げ、スマホで企業ホームページを提示する。
提示するそれらを確認した女性警官らは、
今の状況を話し合っている。
そして、消防の人がこちらを見て、
「うーん、今は収まっていますが、
今朝方、駆け付けた時には、ひどい惨状でした。
道路や家屋などの損傷が激しく、
ガス爆発や局地的な陥没、地盤沈下などが、
起こったのかもしれません。」
「ですが、その様子では確かにお困りでしょう。
一応、私達の一人とこちらの警察の方が、
一緒に着いて行きますので、
私達の指示に従っていただけるなら、現場に入ることを許可します。」
「正直、どうみても事件性がある規模ではないのですが、
一応、まだどんな二次被害があるかわかりません。
私達が危険だと判断したら、この場へ戻ることになりますので、
承知してください。」
私達は、別の男性警官と消防のレスキューと思われる数人を連れて、
自宅へと進んだ。
辺りの惨状は、かなりのものだった。
焼けた家屋に、何かが衝突したように崩れる塀。
道路の所々に陥没跡があるし、電信柱が倒れている個所もある。
消防の人が、そこは電線が切れていますので注意して下さい、とか、
その建物に近寄らないで、とか指示してくる。
そうやって、辿り着いた自宅であるアパート。
戦闘の起点になった場所だが、意外に破損が少ない。
私やアテナさんの部屋は何とか無事だった。
まあ屋根に穴が開いていたりするのだが、
とりあえず、部屋から必要な財布やスマホ、
当分の着替えなどを探し、鞄に詰め込む。
私が、部屋を出ると、
隣の部屋からアテナさんも出てきた。
警官が、私の身分証明証を確認するそうで、
写真は前の私のものなのだが、どうなるのだろうか?
提示したマイナンバーカードを見て、
何か不思議そうな顔をした警官だったが、
すぐに我に返って返してくれた。
「はい、確認しました。
それでは、皆さん、もういいですか?
かなりの規模の被害ですので、
この後は、一時避難をしていただきます。
忘れ物がないか確認お願いします。」
そう言って、私達を覗うが、
一応、最低限の荷物を回収した私達は、
ここを離れることに同意した。
ーーーーー
現場を離れ、近くのコンビニのトイレに入り、
着替えをする私達。
正直言って、あまりいい感じはしないが、
人の活動が始まる前に、着替えはしておきたい。
交代でトイレの前を見張りながら、
着替えを終えた私達。
いつものファミレスはまだ空いていない。
地方都市のあるあるだが、
大都市部とは違い、ほとんどの店は早朝どこも開いていない。
ネットカフェや24時間のカラオケボックス、コンビニは別だが。
仕方ないので、駅近くの喫茶店に入った。
ビジネスホテルの近くなので、朝の客を狙って、
早朝でも開いているのだ。
「ふむ、どうするか。
そもそも、あの様子では今夜眠るところがないぞ。」
と、アテナさんが、状況を整理する。
「そうですね、うーん。
こうなったなら、一度会社の方へ行きませんか?
本社ではなく、私が出向している研究所のほうです。
あそこなら社員寮とかありますよ。」
と、提案してくる天明さん。
私は別の事に気を取られていた。
私達が立ち去ってから、何があったのだろうか?
昨日、あの場を離れる前は、
あそこまでの被害は出ていなかったはずだ。
そんな私の様子をくみ取ったのか、
話題は、昨日の事へと変わる。
「それにしても、あの人型の怪物、
アテナの能力に対応していたようですね。」
彼女は続けて、そんな指摘をしてくる。
「そうだな、あのヘッドギアで、
何らかの情報収集をしていたのだろう。
京都の事件では、少し手の内を見せすぎたようだ。」
と、アテナさんが会話の続きを引き継ぐ。
「どういうことですか?」
と、私は質問する。
すると、天明さんが、
「あのヘッドギアは、クライアント、
要するに昨日出た存在から提供されたものなんです。」
「さすがに私達も一般人に特殊能力を与える力なんてありません。
本来、長年の修練によって身に付くものですよ。
あのヘッドギアが持つ力は。」
と、答えてくる。
「しかし、天明や七果の能力は分からなかったみたいだな。
それにしても、レプリカとはいえアイギスを破り、
私の稲妻に対応してくるとはな。
なかなか、骨のある奴らだな。」
アテナさんはそう言って、妙な感心をしている。
うーむ、何か次はあの大男より強いのが襲ってきそうだ。
「はい、重く考えるのはやめましょう!
今は、とにかく住むところです。
頼りたくはないですが、所長に言えば何とかなりますよぉ。」
いつもの惚けた様子に戻った天明さんは、そんなことを言いだした。
今日は、このまま、京都の研究所へ行くことになりそうだ。
後は、実家に連絡しなければ、今回の出来事は大きい。
多分、テレビのニュースで実家にも伝わるだろう。
さて、どうするか?




