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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第4章 陽の光が地に堕ちる刻
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第51話 召使い、差し向けられた刺客

その日、色々な話で時間も遅くなった為、

天明さんは、アテナさんのところに泊まることになった。


夕食はまたもや、ファミレスになったが、

今回は様子が違った。


私の服装は、妖精郷から帰ってそのままだった。


この身体になって、同僚2人と同じく注目されることも

多くなったが、今日は人一倍、注目されることになった。


どうやらリクルートスーツは、私にとってそれなりの

カモフラージュになっていたらしい。


平日だが、夕食に訪れる学生とかがいたのだ。

近頃は、夫婦共働きが多いと聞く。


こういう時もあるのだろう。


ただ、リクルートスーツは、

私の年齢を誤魔化すのに有効だったようだ。


今回のうっかりで、外見相応の年齢だとバレたらしい。


普段、ちらっとしか見てこない若い学生らしき子から、

じーっと見られたりした。


私は、できるだけ同僚2人の影に隠れ、

さっさと運ばれてきたハンバーグステーキに意識を向ける。


うむ、今まで同僚2人の食事量に言及してきたが、

ここに至って、私も人のことが言えなくなった。


この日、その他にもパフェを食べ、家に帰った。


天明さんとアテナさんに、「おやすみなさい」と

就寝の挨拶をして、自室に戻った私は風呂に入って

早くに眠ることにした。


明日の朝も早くからジョギングなのだ。


ーーーーー


夢の中、私は深い霧の中に浮いていた。


アテナさんが購入してきたパジャマ姿の私。


着ている服に目をやった私は、自分が確かに眠りについていた

ことを確認する。


では、これは一体何なのか?

そろそろ、こういう状況に慣れてきた私は、


「何か用なのか?」


と、呼びかける。


すると、背中に大きな蝙蝠のような翼をもつ巨大な何かと

白い翼を持つ人型の何かが、空中に出現した。


「ふむ、久しいな、人間。

 それと随分変わったものだ。」


そう語りかける悪魔のような姿の何か。


「ふっ、はぁははは。

 悠久の時を過ごす我が、人のように久しいと感じるとは!

 随分珍しい体験だ。」


「茶化すのは、お終いにしてください。

 主の御言葉より、優先されることはないのです。」


白い翼を持つ人型の何かが、言葉を発する。


「人の子よ、汝は、我らにとって異質なものとなりました。

 我が主に献上するため、育て上げてきたこの世界にとって、

 汝の存在は、不要なのです。」


ふん、と鼻を鳴らし、悪魔のような何かが機嫌が悪そうに、


「はあ、我は、汝を否定しない。

 我は、汝のその姿が可能性のひとつだと理解する。」


しかし、と続ける悪魔?


「主は、そういうものを異様に嫌う。」


その言葉に天使?は、


「不敬ですよ!

 我が主は、完全を今宵もなく愛するのです。

 不確定な何かは、主には相応しくない。」


「不要なモノは我が手で廃棄しましょう。

 そして、再び完全なる世界へと修正するのです。」


そう言い放つ。


「じゃあな、人間よ。

 我は汝の生き方、嫌いではなかった。

 その身に力あるなら、生きて逃れるのだな。」


”最後だ、汝にせめてもの手向けを用意しておいた。

もう会うことはないだろうが、精々気張れよ。”


そう言う悪魔はその場から消えた。


「人の子よ、我らの主への献上品に泥を付けた罰を受けよ!」


光が、その場を眩く照らし、私は目を覚ました。


周囲を確認すると、確かに私の自室だった。


”出てくるのだな、反逆の徒よ。”


大きな声だが、耳から伝わる音ではない。


私の存在に直接語り掛け、有無を言わせぬ力が籠っている。


私は適当な上着を羽織り、外へと向かった。


扉を開くと、そこに翼のある眩い光が見えた。


アパートの駐車場中央にそれは浮かんでいる。


それを確認する私の横で、同じく扉を開く音がした。


天明さんとアテナさんも起きてきたのだ。


「むう、あれは!」


とアテナさんが思わず唸る。


天明さんも確認したようで、


「まあ、来るでしょうね。

 でも、思ったより早かったですね。

 それほど、慌てることがあると、、」


とまるで予想出来ていたように呟く。


私達が、宙に浮かぶ光の前までたどり着くと、


”人よ、安心するがいい。

既に人払いは済んでいる。

汝らの巻き添えになる者はいない。”


”反逆の徒よ!さらばだ”


そう一方的に宣言すると、光は明滅し姿を変えた。


その姿は3対の腕と2本の脚、

そして、3つの顔を持つ筋骨隆々の大男。


その体長は3メートル。

その身にはどこかオリエンタルな鎧を着けている。


京都の鎧武者くらいだが、その身から発する圧は凄まじい。


大男は、真っ直ぐ私に向かって距離を詰めてきた。

そのまま、拳を叩きつけようとしてくる。


私は、咄嗟に大男の左側へ飛び込む。


大男の振り上げた拳は、私のいた空間を貫き、

アスファルトで舗装された駐車場の地面に

30センチくらいの穴を開けた。


また、そんな攻撃をしておきながら、

大男の体勢は崩れておらず、真後ろに跳んでいたら、

追撃を喰らっただろう。


こちらを一瞬見失った大男は、再び私に目を向ける。


しかし、そこに眩い光を纏ったアテナさんの蹴りが決まる。


その光は、ガルム戦で見せた最大級の輝きを見せており、

相当な力がその蹴りに込められているはず。


側頭部への蹴りだったが、

大男は、身体を揺らしただけに留まる。


首を捻り、アテナさんに目を向ける大男。


丁度、大男を挟むように、アテナさんと私がいる。


天明さんは、すでに瞑想中だった。


私は迷わず、剣を呼ぶ。


「来よ、天乃稲姫の太刀!」


左手に現れた長い太刀をすらりと抜き払い、構える。


アテナさんに気を取られている大男に、

外しようのない水平斬りを放つ。


顔の一つが反応し、その斬撃に右腕の一本を合わせてくる。


弾かれた!


大男は、腕に着けている手甲で巧みに太刀を弾いていた。


そして、同時に仕掛けたアテナさんの拳をも防ぐ。


そのまま、私達は攻撃を続けたが、

大男は三対の腕を使い、巧みに受け止め続ける。


そして、一瞬、ふっと視界から姿が消えた。


その一瞬で、アテナさんとの間合いを詰めた大男は、

3対6本の腕で、激しい拳打を放つ。


2、3秒の隙に10発以上の拳が放たれ、

連撃を真面に喰らったアテナさんが吹き飛ばされる。


くそっ、太刀による攻撃が腕の手甲で弾かれる。


前後からの同時攻撃なのに、あの3つの顔で視認し対応してくる。


攻撃に転じた大男がアテナさんへと迫るのを、阻止するため、

風鈴二閃を放つ私。


さすがに、見えない斬撃に手甲でのガードはできなかったようだ。


しかし、その斬撃では、腕に切り傷を作っただけに終わる。


初めてダメージらしきダメージを与えられた。


だが、今度は私の方に標的を変えたみたいだ。


迫る大男、力の籠った拳の一撃一撃を手に持つ太刀で、

受け止める。


かなりの衝撃だが、まだ何とかなる。


大男とはいえ、3メートル程度。


一般に拳の威力は、その腕の力だけでは十全に発揮できない。


力を発揮できるだけの体重が必要だ。


この大男は常人なわけはないが、ただの拳による殴打なら、

そこまでの威力は出ないのだ。


それでも、六本もある腕から繰り出される拳は、

私の動きを狭めていく。


体格差もあるが、太刀のような長物で受けきるのは、

難しい。


私が今、何とか受け止められているのは、

妖精郷での試行錯誤のおかげだ。


攻撃が来る場所に、攻撃より早く、

見えない力の流れが発生するのだ。


これにより、六本の腕から繰り出される拳に、

辛うじて対応できている。


そうして、攻撃を凌いでいると、

アテナさんが復帰、背後から跳び蹴りを放った。


3つの顔をこちらに向けていた大男は蹈鞴を踏む。


私はその隙をついて、袈裟斬りを仕掛けた。


大男の全身を縦に切り裂いたはずの斬撃だったが、

その刀身を一対の手が受け止めていた。


白刃取り!


さらに、今までなかった足払いを放ち、私は転倒、

そのまま、再び蹴りを放ったアテナさんの足首と掴み

空へと放り投げる。


三つの顔にある目が、白い光を放ち始める。


その眼光は、空中にいるアテナさんに向けられている。


くっ、


” 陀葉鳥墜 ”


強烈な圧が大男から発せられ、

見えない力の乱撃が、アテナさんを襲う。


「来なさい、アイギス!」


アテナさんの前に、彼女を守るように光の盾が現れる。


力と力が衝突し、火花を散らす。


何かの遠距離攻撃だろうが、5秒もの時間発せられている。


体勢を立て直した私は、大技で隙だらけの大男の脚を見る。


腕を斬り落とすには、力を溜める必要がある。


しかし、この攻撃がいつまで続くのかわからない。


ならば、今の最善はこいつの足を止めること。


幾ら、3つの顔で攻撃を察知しようと、

如何に腕を使って全てを捌こうと、足を使えなくすれば、

その動きは鈍るはず。


少なくとも、素早い動きはできなくなるはずだ。


腰だめに太刀を構え、大男の脚を斬りつけた私。


何というか、太刀を振り切ることはできなかった。


この大男、血など流れていないし、

想像以上に頑強だ。


だが、今のは手ごたえがあった。


その証拠に10秒も放っていた技が途切れた。


ただ、アテナさんの盾も今の攻撃で明滅している。


空中に縫い留められたように、

浮いていた彼女がようやく落下し始めた。


そして、私は間合いを離れた。


この大男には、相当な大技でも使わない限り、

どんな攻撃も通用しない。


脚に喰らったはずの斬撃の傷が、みるみる癒えて行っている。

戦闘中に自動回復までするのか、どんなチートだよ!


私に顔の一つを向け、アテナさんへの警戒も忘れない大男。


前のような稲妻を放ったアテナさんに対し、

腕を交差して防御する。


稲妻を防御って、、、


私とアテナさんが、打つ手を探る中、

天明さんの声が響きわたる。


「鏡に写るは、影か真か?

 素の先、映すはこの鏡なり!」


天明さんの正面が光輝き、鏡面のような何かが現れる。

そこに映っているのは、3顔6腕の大男。


” 鏡永像砕 ”


最後の言葉が響くと、

現れた鏡面が粉々に砕かれた。


その鏡面の影響か、

大男にも複数の光が発生し、その身体がバラバラに切り裂かれた。


やったか!

明らかに重症を負った風の大男の姿。


油断なく、状況を見据えるが、

この大男、まだ動く。


先程までより、動きは良くないが、

一歩ずつ天明さんの方に近づいていく。


こいつ、不死身か!


明らかに大ダメージを受けたはずなのだが、

どうも攻撃が芯に届いていない感じがする。


しかし、動きが鈍ったのなら、

何とかなるかもしれない。


そう思ったのは、アテナさんも同じよう。


畳みかけるように、蹴りを放つ。


蹴り自体が当たると、稲光のような火花が舞い散った。


ダメージの蓄積が見られる大男だったが、

その身体を白い光が包む。


” 万難回帰 ”


その言葉と共に、急速に身体の傷が治り始める。


そして、アテナさんに向かい、

六本の腕を構える。


” 剛撃  破砕俊打 ”


その言葉と共に、アテナさんを無数の拳が襲う。


速い打撃の嵐を捌ききれず、後ろへと自ら跳ぶ彼女。


回復しつつある大男は、天明さんへと足を向ける。


天明さんはさすがに唖然としていた。


自分の一撃に相当な自信があったのだろう。


大男が迫っているにも関わらず、

その身は硬直から抜けきれていない。


私は、歩みを進める大男の前に立ち塞がった。


もうやるしかない!


再び、今度は私に向けて六本の腕を構える大男。


” 剛撃  破砕俊打 ”


瞬間的に、拳の乱打が襲い来る!


それに対し、私も真向から立ち向かった。


太刀を正面に構え、意識を集中させる私。


「 風の撃、打ち貫け! 」


” 風撃乱打 ”


空気が急激に圧縮され、臨界点を超える。


極限まで圧縮され、目に見えるようになった風の塊。


その塊が、複数生成され、

大男が打ち込んでくる無数の拳を迎撃する。


1メートル強の間合いで放たれる無数の乱打。


一撃一撃が、コンクリートの壁に穴を開ける威力がある。


そんな拳と風の一撃が、互いに圧し潰し、

相手の領域へと侵入しようとする。


私は、時間の感覚が麻痺してきていた。


私に出来る事は、

敵を圧倒する速度で圧縮した風の塊を生成すること。

そして、それをもって相手の領域を圧し潰すことである。


もっと速く、正確に!


大男の攻撃をこの近距離で喰らうわけにはいかない。

こちらの領域に侵入してきた拳を全て迎撃する。

そして、私の一撃を相手の身体に撃ちこむのだ!


乱打の応酬は、しかし長くは続かなかった。


ちぃ、


撃ち落とし損ねた一撃が、こちらへと向かう。

私は、それを半身で躱したが、後の迎撃が続かない。


” 風舞跳躍  ”


こちらの領域を一瞬で制圧して、私を捉えようとする拳。


それを回避するため、突風を起こし宙へと逃れる私。


しかし、これでは先程のアテナさんと同じ結果になる。


私には、アテナさんのような盾はない。


かなりのダメージを受けただろうアテナさんが、

それを見て稲妻を飛ばすが、大男の目線は私に向けられたままだ。


天明さんも何か瞑想しているが、

間に合いそうにない。


これは詰んだか!


くそっ!


空中で身動きが効かない私。

最後に使ったあの技は、緊急回避用の技だ。


どうしようもない時に、距離を取るためのもの。

遠距離攻撃が無ければ、これでいいのだが。


”ふーん、あいつが、あの陰キャな片目おやじを退けた奴か。”


男性か、女性か?そのどちらにも、

そして、どちらの声も聞こえるその不可思議な声。


老人なのか、若いのかその声には、何処か聞き覚えがある。


”まあ、少しつつけば分かるか?”


その不可解な声が続ける。


”ガルム、やって!”


こちらを狙っていた大男の前が闇に覆われ、

その顎が大男を喰らおうとする。


私が、攻撃を食らわず着地すると、

闇の顎を素手で掴み、抑える大男の姿が!


闇がほどけ、大男の正面に5メートルはある狼が現れた。


狼は、大男を狙ってか、その周りを回り始める。


大男もこの脅威を優先したのか、構えを狼に向ける。


”やあ、お嬢さん。

姿は変わったみたいだけど、

それは僕も同じだしね。

今の内に逃げたらどうだい?”


”そいつ、かなりやるようだよ。”


その声にハッとした私は、

アテナさんに合図を送り、天明さんと合流。


撤退を開始した。


闇の巨狼と大男は熾烈な戦いを繰り広げている。


巨狼のほうは、必殺の顎が効かず、

大男のほうは、巨狼を相手に決定打が出ない。


大きさの割に俊敏な狼は、大男を翻弄している。


その戦闘を尻目に、私達は駅方面へと逃げ延びた。


繁華街は、地方の深夜にしては人が多く、

私達は、やっと襲撃から逃げ延びたことを実感できた。

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