第47話 魔境
アテナさんの提案を受けた私は、
思わず、魔境とは何ですか?と聞き返していた。
うん、色々考えられることはある。
トレーニングではなく、只の訓練でもない。
彼女が提案してきたのは、実践的訓練である。
正直、それが、 実戦訓練 だったりするのかもしれない。
ジョギングに、筋トレ、竹刀の素振り。
これらは、今までの危険を踏まえて、
体力作りをしようという趣旨によるものだ。
決して、実際に戦って鍛えるとかではない。
今更だが、私も以前と違い、太刀などを振るう身となった。
これからも、今のメンバーで続けるなら、
アテナさんが、最前線で戦うことになるだろう。
本物の知恵と戦の女神だから、というだけじゃなく、
私も入れた3人の中で、単純に一番強いのが彼女なのだ。
そして、天明さんだが、彼女も大事な場面で大活躍だ。
しかし、その実力がはっきりしない。
単純に、腕力なら今の私なら勝っているだろう。
少女の姿になった私だが、太刀を相棒にしているだけあって、
近接戦闘に長けている。
正直、大の大人だった昔より今の姿の方が、能力は高い。
では、天明さんの役割は?
そこなのだが、彼女はどちらかと言えば、魔法使い。
ゲームで例えるなら、パーティの補助を担当する感じだろう。
魔法と言っても、
炎やら魔法の槍やらが、跳び出てくるような感じじゃない。
まあ、現実にそんなものを使うと、
被害がかえって拡大するから、使っていない可能性はあるが。
天明さんは、思い出す限り、今あげたゲームや小説の魔法より、
規模が大きい力を使っている。
夜を朝に変えたり、自ら光を放って闇を祓ったり。
最初のヘルハウンドの時も、不可解な力を使っている。
彼女自身の正体も気にしたことはなかったが、予測不能である。
だが、これだけは言える。
彼女は、前衛で戦うタイプではない。
今までも、前に出て戦うことはなかったし、
だからこそ、アテナさんが護衛役に付けられたのだ。
今まで、何らかの怪物に対処する役目は、
前衛のアテナさんに丸投げだった。
それが役目だからだけでなく、天明さんも含め、
私達では、直接襲ってくるような怪物相手に、手も足も出なかった。
だが、今、私という直接戦える人員が増えた。
いや、私、本当のところ、総理役だったはずなのだが、
そこに突っ込んでも仕方がない状況だ。
今後は、最前線をアテナさんが、天明さんの守りとして、
中衛を私が担当することになるだろう。
今まで天明さんも何かの力を使うとき、瞑想が必要だった。
ひょっとすると、彼女自身、身の守りが万全なら、
もっと凄い力が使えるのかもしれない。
そうであれば、私の役割は重大だ。
今迄のように、守られているだけの存在ではなくなったのだ。
それは、とても誇らしいし、とても嬉しい。
その反面、ちょっと緊張と不安も感じるのだが。
で、だ。
この状況で、実践的訓練。
そして、魔境という言葉の響き。
秘境なら東北に行ったときに温泉に行った彼女たちがいた。
しかし、今提案されているのは、魔の文字が入っている。
どういうこと?
「うむ、戸惑っているようだな、七果。」
そう言って、タオルを投げてくるアテナさん。
それを受け取って、汗を拭く私に、彼女はこう続ける。
「金剛殿の時にも指摘したが、
身体能力が高くても、それを効率よく使えなければ、
十全な力を振るえない。」
「今の七果は、依然とは段違いの身体能力が備わっている。
しかし、それらを現場でフルに発揮するには、
経験が圧倒的に足りないと思うのだ。」
「例えば、京都で出会ったあの姫の切り札であった鎧武者。
戦い慣れた天使殿たちですら、数人がかりでも押されていた。
竜や狼のような存在も出たが、彼らも自身の有利な部分を、
前面に出して襲ってきていた。」
「息吹にしろ、噛みつきにしろ、彼らの必殺の攻撃を、
ここぞという時に発揮している。」
「ここで考えるべきは、如何に有利な状況を作り上げ、
それを維持しながら、自分の間合いで戦うかだ。」
「京都の鎧武者は、長い大太刀を持っていたが、
それが天使殿たちと相性が良かった。
かの天使殿は、盾を構えていたし、
そもそも、その翼で宙を舞っていた。」
「あの盾だが、あれは大型で本来は槍を持って戦う用のものだ。
おそらく、空中からの突撃を意識したものだろう。
しかし、彼らはあの場の都合上、取り回しの利く剣を使っていた。
槍も用意してはいただろう、竜がまた出たら活躍しただろうから。
しかし、出たのはあの鎧武者だった。」
「空中突撃は、あの場面では有効ではない。
鎧武者は、的としてはいささか小さいからな。
仕方なくあの剣での攻撃になったのだろうが、
それでは、あの盾が邪魔だ。」
「盾は中距離用なのに、至近距離用の剣を振るう天使殿。
逆に件の鎧武者は、大太刀を使っての戦いだ。
攻撃自体が重く鋭いが、
本来なら天使殿たちは懐に入り込めたはずだ。
剣自体はそのように使うものだしな。
しかし、盾と剣の間合いの不均衡が、彼らの邪魔をした。
あの鎧武者は強いが、竜や狼ほどではない。
ただ、己の間合いと有利さを維持して戦い続けたために、
その力を倍増させて見せたのだ。」
「そこで、今回の実践的訓練だ。
まず、七果には、自分の間合いを感覚で掴んでもらいたい。
そして、自分にとって何が有利になるのか?
そこをしっかり学んでほしいのだ。」
さて、と言葉を切った彼女は、
「魔境というのは、この星で暮らす異郷のものの住処だ。
あの幽鬼や鬼、天狗などの住まいもある。
いつか、何処からか流れてきたか、
あるいはこの地を人間に追われた妖が住む
少し次元の違う空間。」
「七果がその姿になった集落もそういうところだろう。」
「まあ今回は安心してもらいたい。
私も着いて行くが、
そもそも、そんな危険な存在がいるところではない。」
”今回、訪ねるのは、魔境の中でもそうはない妖精の住む場所”
「 妖精郷だ! 」
返事していないのに、行くことが決まってしまっているのだが、
それはいつもの事か、、




