第41話 保護者の責任
寝たのに、疲労感満載の朝を迎えた私。
変な夢のせいで、今日も寝過ごした。
今、時計は9時を回っている。
「はあ、しまった、、
またクランベリーさんに怒られるな。」
うむ、色々あった。
危険も満載だった。
これからも、
これが続くのであれば、体力作りをしないといけない。
最低限、現場から逃げ出せるくらいの体力が必要なのだ。
しかし、これは今朝の夢のせいか?
私は、天明さんやクランベリーさんとまだ一緒に仕事したいと
思っている。
そう、昨日までは、辞めることも視野に入っていた。
それがどうだろう?
今は、仕事に対して、前向きに続けることを考えている。
変な夢を見たが、その結果、私の本心が浮き彫りになった。
危険さえなければ、私は二人の同僚とまだ仕事したいのだ。
そして、昨日も、危険を避けるための方法を、私は探していた。
つまり、そういうことだった。
私の答えは、既に決まっていたのだ。
なんだかんだ、楽しい同僚たちだ。
妙に居心地もいい。
危険もあるが、人生とはそういうものだ。
私は、少し、いや、かなり感覚が麻痺しているのかもしれない。
でも、それでもいいと私は思うのだ。
さて、今日は何があるのか?
偶には、私の方から行動してみよう。
最低限の身嗜みを整えて、玄関から外へと向かう。
お隣さんであるクランベリーさんは、何してるかな?
チャイムを鳴らすと、彼女が扉を開けて顔をのぞかせた。
「おはようございます、クランベリーさん。」
すると、
「おお、七福殿、おはよう。
朝起こしに行ったのだが、返事が無くてな。
まあ他の住人の迷惑になるといけないから、
引き返したのだ。」
「うん?少し顔色が悪いが、どうしたのだ?」
朝の彼女は私服か、、
美人と言うのは、やはり得だなぁ。
まあ、最近は美人の生きづらさも、少し分かるようになった。
同僚二人といると、常に視線を感じる。
私までだ。
正直、ほっとけや!
と怒鳴りたくなるが、ただ一緒にいるだけの私がこれだ。
当人たちは、さぞかし鬱陶しいだろう。
得なこともあるだろうが、その何倍も損していると思う。
さて、今日の予定を聞く私。
昨日は、何か金剛やら、ヘッドバンドの強化策を上げてきた
同僚たち。
「ふむ、実は、まだ金剛殿の戦闘訓練のメニューが
決まって無くてな。
ほら、金剛殿は普通の訓練をしても強くはならないだろう?
その巨躯を生かした最適な戦闘方法を考えるとなると、
ちょっと時間を取られているのだ。」
”巨人の戦闘訓練など前例がないのでな。”
と付け加えてきた。
「そうなると、今日は何もないと言う事でいいのですか?」
と聞き返す私。
「いや、七福殿。
金剛殿と少し、街中に行ってもらえないだろうか?」
んんっなんでだ?
「金剛殿が精霊の一種だと、昨日説明しただろう?
まだ研究段階だが、そのパワーアップに土地との縁を繋ぐ
方法があるんだ。」
「まあ、人は、神社やお寺などに参拝するだろう?
今は、パワースポットと呼ばれているらしいが、
地域で親しまれている場所には、
信仰や霊的エネルギーが集まる。」
「科学的ではないと言うかもしれないが、
霊的な存在は、その土地に馴染むことで、色々な力を
発揮できるようになる。」
「人間の社会でも、その地方の大地主や名家、
今なら国会議員などと顔見知りになると、
色々と都合を利かせてくれるだろう?」
「個人的に、あまり好きではないが、
人間社会では、結構あると聞く。」
「それと意味的には同じだ。
金剛殿をこの土地に馴染ませ、
その力を振るう許可を得るんだ。」
「金剛殿は、精霊と言う霊的エネルギーを基にした存在だ。
この地の人の意識に馴染ませることで、
異物として排除されないようにするのだ。」
「人の意識に、金剛殿が安全であり、味方だと、
思わせることで、無意識に働く拒否反応を防ぐのだ。
人は、無意識に異質なものを排除しようとするからな。
あらかじめ、顔見せしておけば、
その対象にならないようにできる。」
「また、七福殿と金剛殿が、この地に貢献していけば、
事実を知らずとも、この土地の人の信頼を得られる。
人は無意識の領域で、繋がっている。」
「そして、その領域にアクセスしやすいのが、
神社や寺などのパワースポットなのだ。
人の意識や霊的エネルギーが集まる場所で、
金剛殿の顔見せをして、新たな住人だと、
紹介してきてくれ。」
うーむ、よく分からんが、近くの神社とかに行けばいいのか?
「ああ、それとヘッドギアも預かっている。
七福殿は、それがないと金剛殿を動かせないだろう?」
と例のヘッドバンドを渡してきた。
とりあえず、了解して、
部屋に戻る。
さて、ヘッドバンドはまあ、おっさん独自のファッションだと
いうことで、諦めよう。
次に、錫杖と巻物か、、
棒に見えると言えば、そうかなと思うが、
巻物はどうするか?
はあ、鞄に入れて持っていこう。
神社かどこかに着いてから、取り出せばいい。
ヘッドバンドもそれでいいか。
会社時代、仕事用に買った鞄に詰め込んで、
財布とスマホを持った私は、玄関へ。
再び、クランベリーさんに出かけることを伝え、
近くの神社方面へと向かう。
まあ、この辺りに何もないのは、かなり前に分かっている。
ジョギングを進めてくるクランベリーさんが、一応調べたのだ。
伊達に護衛などやっていない。
さて、歩いて1時間はあるだろう。
いつもお世話になっているコンビニがある商店街を抜け、
ちょっとしたオフィスビルがある区画を歩く私。
はあ、そういえば、この辺りが、
例の再開発指定区域だったなあ。
何気なく見渡す私。
まだ神社まではかなりある。
ちょっと行くと、ビル建設の現場だろう、
柵が張り巡らされている。
そして、私は変なものを見つける。
変なものとは、失礼か。
もう10時頃だが、学生だろう女の子が、
建設現場の柵を蹴っているのだ。
うん、結構ガンガンやってる。
さすがに道路工事用のポールとかではないから、
そう簡単には壊れないだろうが。
建設現場には、人がいないらしく、
その少女を止めるものはいない。
うん?
げっ、チェーンカッター出した。
そして、現場を封鎖している鍵を切り始めた。
なにをやってるんだ?
どうしたらいいんだ?
最近の子は危ないな、、
止めるべきだろう、大人としては。
くそっ、仕方ない、まさか目の前で、
未成年者であろう少女の犯行を見逃すのはまずい。
ここまでやってるのに、見逃したら何を言われるか、、
「おーい、辞めろ!
そこで止まれ!
危ないから、その工具を下ろせ!」
大声でちょっと離れたところから、呼びかける私。
もっと直接的に、注意しろって。
無理だろ、今は未成年者の犯罪も多いんだ。
いくら女の子だからって無暗に近寄っては危ない。
「うん?
何か用ですか、おじさん?」
と小首を傾げる少女。
「何かじゃないぞ、そこは私有地だ。
そんなもの持って、入ったら駄目だ。」
一般的な社会人として注意する私。
「はあぁぁぁ、関係ないよね。
おじさん。
黙ってくれない。」
凄く冷たい目でそんな事を返してくる少女。
そして、そのままカッターで鍵ごと鎖を断ち切り、
中へ入っていく。
唖然としていた私だが、さすがに、これはまずい。
「おいおい、駄目だって、辞めろ!」
止める私を振り返り、カッターを投げてくる少女。
「もういらないわ。
おじさんにあげる。」
えええ、最近の子はこんななのか?
もう振り返らずに、奥へと進んでいく少女。
我に返って少女を追うが、
少し進むと、何か違和感が沸き起こる。
最近何かと感じるこの直観。
少女を連れて、早くこの現場を出なければ!
何かの遺構の前にいる少女に追い付いた私だったが、
その時、少女が何かに話しかけた。
歪む景色、立ち眩みを覚えた私はしゃがみ込む。
再び立ち上がった私の周りは一変していた。
どうみても、ここは何処かの村だった。
それも、近代とかではない。
竪穴式住居と言うのか、そんな建物が並び、
少し遠くに立派な床の高い建物が見える。
そして、周りを見回す先程の少女を見つける。
「なんだ、おじさん。
ついてきたの。」
そんな言葉が耳に入る。
改めて、少女を見れば、
長い黒髪と端正な顔立ちをした、
言動に見合わない和風な少女だった。
「来ちゃったものは、仕方ないか。
おじさん、着いて来てもいいけど、気を付けてね。」




