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第33話 正しくあれ

篠目里村から、天明さんが用意してくれた研究所の宿泊施設に帰ってきた。


あれから数日、加具茂寺の右藤住職とも交渉していた。


稲水乃姫についても、色々調べた。

雨命の勾玉が返されなかった篠目里村の顛末についても。


今日は、天明さんに研究所の会議室を借りてもらい、

今まで収集した情報を整理しようと集まっていた。


天明さん、クランベリーさん、そして何故か、小野寺所長が、

この会議に参加していた。


「では、今まで調べたことについて、整理してみましょう。」


と、天明さんが切り出した。


まず、稲水乃姫の主張から、検討を始めてみよう。

まあ、ここが拗れているのだから、

解決できれば、あっさりこの件は決着する。


それでは、加具茂寺に奉納されている雨命の勾玉を、

篠目里村の神社へ返還することについてだ。


まず、宝物である雨命の勾玉は、国宝とまではいかないが、

重要文化財の一つであるらしい。


そして、ここが問題なのだが、

重要文化財の移転には、文化庁の承認が必要で、

移転先の管理体制が審査されるらしい。


今回で言えば、加具茂寺に奉納された雨命の勾玉なる宝物は、

現状では、問題なく管理されている状態だ。


加具茂寺は、京都市でも古い歴史あるお寺であり、

他の観光スポットになっている神社仏閣ほどではないが、

しっかりと京都の地に根付いている信頼厚い寺社である。


そして、篠目里村の神社であるが、

そもそもから篠目里村自体が、過疎化の一途を辿っており、

管理自体が行き届いているとは言えない。


小さな神社なのだが、若い人の流失が続く篠目里村の状況では、

重要文化財を引き受けたとして、この先、管理していけるのか?

かなり疑問である。


はっきり言えば、

今、雨命の勾玉を篠目里村の神社に移転しても、

近い将来には、宝物の管理に支障が出て、

また、何処かに移転することになるだろう。


ついでに、篠目里村の神社は、

地元で愛される的な立ち位置であり、加具茂寺と比べても、

規模は小さい。


今、信頼のおける寺社で管理されていて、問題が起きていないのに、

将来的にも、何なら今の現状を見ても、明らかに問題が出そうな

小さな神社に、守るべき重要文化財を移転する意味がない。


まあ、結論は、法律的に雨命の勾玉の返還は不可能に近いという事。


では、今回遭遇した事件を状況判断に加味してみよう。


先の稲水乃姫の襲撃は、かなりの被害を出した。

世間的には、局地的な自然災害という受け止め方であり、

一般の人的損失はなかった。


しかし、あの竜のような存在を味方につけている稲水乃姫。

また、その他に異形の妖怪軍団もいる。


このまま行けば、次の新月には今までにない規模の襲撃があるだろう。

加具茂寺の戦力は、付近から集まっている僧侶たちや、

金剛にあの僧兵たち、そして天使な外国人たちだ。


稲水乃姫側は、攻め入る時に結界のようなもので人払いしているらしい。

次も、一般人を避難させてから、行動するはずだ。


もともと、かの姫は、人を害したいわけではないようだし。


しかし、戦いになれば事態をコントロールすることは難しくなるだろう。


さて、稲水乃姫の警告について。


もともと雨命の勾玉は、篠目里村の干ばつを治めるため、

龍神との約束によって齎されたものだ。


その伝承から、雨を降らす何らかの力があるようだ。


現在、その龍神の怒りが、何処かに降り注ごうとしている。


稲水乃姫が、命を落とした後のことは調べた。

結果は悲惨なもので、干ばつが十年に渡り襲い、

一時期、あの地域の人達は離散している。


どうやって、その災いを治めたのかは分からない。

しかし、故郷に帰った人達がいたのだろう。

篠目里村は、復興している。


さて、今回、篠目里村では毎年欠かさず、祭りが行われているらしい。

前回、賊によって続けられなくなった、

捧げものをする儀式は欠かしていない。


にも拘わらず、龍神とやらは激怒しているらしい。


雨命の勾玉の返還は、困難だ。

今の法律上、災いがあるから宝物を篠目里村の神社に返して欲しい、

などという訴えが通るわけがない。


今考えられる被害は、稲水乃姫の加具茂寺への再襲撃、

そして、龍神の怒りによる災いだろう。


うーん、龍神の怒りとやらは、何が起こるのか?


天明さんと小野寺所長の意見を聞いたみた。


「ふむ、面白い事に首を突っ込んでいるのだね。

 古来、龍神とは自然の力の象徴だったのだよ。

 他の神々より、この現世に強く結びつく龍の伝承。」


「日本という国は、様々な災害が起こる土地柄だ。

 洪水や干ばつ、竜巻などの現象は、

 神仏の怒りによって起こっていると古代の人は考えた。

 特に、龍神という存在は、当時の人にとって強力なものだった。

 今の時代、それほど信じる人はいないかもしれないが、

 家を呑みこむ濁流や、荒れ狂う激しい風のうねり、

 それまで、温暖だった土地で、急に雨が降らなくなった等々。

 古代の人は、それらの現象に何かの意思を感じたのだろう。」


と、小野寺所長の解説が入る。


うーん、龍神の怒り、か。

前回は、確か干ばつだったな。

しかし、当時は、灌漑設備もままならない古代だ。

篠目里村には、水道だってあるし、井戸など使っていないだろう。

まあ、京都市もあの村を含む一帯も、琵琶湖の水を使っているが、

古代なら問題があるのかもしれないが、

今は、ポンプで水を汲み上げているはず。


何か影響があるのか?

そんな私の疑問に答えるように口を開く天明さん。


「近年、日本各地で渇水が起きています。

 滋賀県でも、例年より降水量が少なく、

 この現象が長く続くと、

 節水などの呼びかけが行われる可能性もあります。」


「その反対に、洪水被害は結構あるんです。

 京都市は、川が市内を流れていますし、

 今は、都市化が進んでいます。

 日本各地で見られている線状降水帯が起これば、

 被害が、拡大してもおかしくありません。」


うん?

干ばつ以上に、洪水のほうが脅威じゃないか!


龍神の存在を信じるのか?

というが、そもそもリンドヴルムとかいうドラゴンは、

京都市の一区画を破壊した。


その息吹は、建物を薙ぎ払ったのだ。


「うーん、こういう危険を訴えても、

 今の時代、受け付けてくれないしなあ。

 本来なら、雨命の勾玉を返した方がいいんだが。」


と、ぼやく私に、


「七福殿、ちょっといいか?」


と、今まで黙っていたクランベリーさんが口を開く。


「今回、稲水乃姫は、一軍を引き連れて、

 加具茂寺を襲った。

 彼女は、自分の信念を通すために武器を取った。

 確かに、結界による一般人の避難を完了させた後だが、

 寺の者に対する配慮はないと思える。

 人間の身体は、脆い。

 聞いた大鬼や天狗などの異形の力でなくとも、

 雑兵である幽鬼の力でも、人間を害するには十分だ。

 それを忘れてはいけない。」


「七福殿は、この事についてどう考える?

 安易な同情ではなく、貴方の信念を貫いてほしい。」


”かの姫自身が、言っていただろう?

昔のことは昔のこと、と”


ーーーーー


それからも、色々な話し合いは続いた。

私達は、一度京都から我が家へと帰り、

それぞれの準備を整えた。


そして、今、月の見えない夜。


私達一行は、加具茂寺の境内で、

稲水乃姫の襲撃を迎撃しようと待機している。


今宵、複数の天使が夜空を舞い、妖どもが戦に集う。


「私、七福源治丸は、専守防衛を誓う。

 暴力による事の解決を、私は認めない!」



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