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第31話 篠目里村

昨日、京都の事件を調査することが決まった後、

私は、旅の支度を整えた。


今回の調査は、いつまでかかるか分からない。


最悪、次の新月までずっと調査が続くかもしれないのだ。


そこで、天明さんが、職場である研究所の宿泊施設を、

使えるよう交渉してくれた。


というか、電話一本で許可が下りたということは、

天明さんが予め手を回していたのだろう。


英断を!といつも聞かれるが、

最初から色々と決まっているのではないか?


そんな疑問が湧き上がる今日この頃だ。


さて、今回は、クランベリーさんも同行する。


というか、彼女の車で京都まで移動するし、

その後の調査の移動でも使用する。


話によれば、あのお寺に奉納されている雨命の勾玉とやらは、

今の滋賀県に所領をもつ豪族が、持っていたもの。


京都市内だけなら、電車やバスを使えばいいのだが、

その豪族まで調べることになれば、移動に車がいる。


「おはようございます、クランベリーさん。

 今日はよろしくお願いします。」


と、例の可愛い愛車をアパート前に出してきた、

クランベリーさんに挨拶する。


「おはよう、七福殿。

 そろそろ、出発しよう。」


二人とも準備は万端だ。

天明さんとは、例の職場で合流することになっている。


京都への移動中、天明さんと一緒に遭遇した京都の事件について、

話していたのだが、

私の一言から、天明さんの過去の逸話へと脱線した。


「私は、数年前にヨーロッパから日本に来たんだ。

 そして、この間、行った日本支部で監査官殿を紹介された。」


うん?

クランベリーさんと天明さんは、

長い付き合いなんじゃないのか?


そんな疑問に答える彼女。


「いや、私と監査官殿が出会ったのは、その時が初めてだ。

 ただ監査官殿は、色々と特殊でな。

 悪いと言っているわけではないのだが、

 当時から監査官殿は、色々と、、

 その行動が直観的でな。

 説明のないその振る舞いが、かなり問題視されていた。

 何か決断し行動するときの彼女は、その結果自体は良く

 非常に高い評価を得ている。」


「しかし、それに準備なく巻き込まれる人間にとっては、、な。」


「実際、私も、かなり当惑させられた。

 もちろん、彼女の個性は尊重されるべきだ。」


「はあ、良いのか悪いのか、私は彼女に気に入られたらしい。

 その後、監査官殿の扱いに困っていた上司が、

 私を彼女のお目付け役として、配属したのだ。

 色々と大変だが、それでも憎めないところが彼女らしいと思う。」


「七福殿、私は貴方を信頼している。

 少し前に知り合ったばかりだが、

 監査官殿の人を見る目は正確だ。

 彼女が一定以上の信頼を置いている貴方は、信じるに値する。


「それに、貴方はこれまで一度も逃げ出さなかった。

 本来、どれだけお金を積まれても、命の危険に晒されては、

 割に合わないだろう。

 まして、貴方の場合、我が社との契約自体が不穏だった。

 それでも、貴方は真摯に私達と向き合ってくれている。」


「七福殿、私も貴方に期待している。

 貴方が、真実に辿り着くその日が来ることを。

 これからもよろしくお願いする。」


いつになく、クランベリーさんは真剣な面持ちで、

話しかけてくる。


私は、今まで借金3億の脅威を避けるため、

行動してきたにすぎない。


決して、善意だけで行動していたわけではないのだ。


クランベリーさんの言うような立派な考えなど持ち合わせていない。


それに、誰だって自分の行動で助けられるなら、

助けたいと思っているはずだ。


ただ、単に自分の力が及ばない、そう無力感を感じてしまうから、

行動に移せないだけだ。


私は逃げ出さなかったのではなく、状況に流されただけだ。


そう答える私に、


「ふふっ、今はそういう事にしておこう。」


と柔らかな笑みを浮かべ、話を打ち切ったクランベリーさん。


車は、京都市、古代人類史社会理科学研究所の駐車場に到着した。


私達は、以前訪れたエントランスへ行くが、天明さんはいない。


時刻は、午前9時20分。

会社の就業時間は、既に始まっている。


どうしたのか?

エントランスにある受付スタッフに聞いて見るが、

天明さんは、まだ出社していないそうだ。


うーむ、なんなんだろうか?


それから、20分後、

エントランスに天明さんが現れた。


普通に、所内の奥からではなく、

エントランスの入口からだった。


「おはようございます。アテナ、七福さん。

 お二人とも、お早いですねぇ。

 まだ、就業時間前なのに。」


うん?

ここって9時始りじゃないのか?


クランベリーさんを見ると、はあっと溜息を付いている。

受付スタッフの方に目を向けると、首を横に振っている。


「監査官殿、時計かスマホをお持ちか?」


と聞くクランベリーさん。


「スマホは持っていますよぉ。

 何かあるんですかぁ。」


と、答える天明さん。


スマホを鞄から出した天明さんは、

少し慌てだした。


「あれ、充電してなかった?」


そんな天明さんに、クランベリーさんが再び声を掛ける。


「ここまで、電車だったな、監査官殿は?」


「そうですよぉ、今日も会社の人で混んでいましたよぉ。」


そう答える天明さんに、


「はあ、いつも学生とかいなかっただろうか?

 それとその会社の人は、

 いつも乗っているタイプの人ではなかったのでは?」


うん?うん?

と、首をかしげる天明さん。


もはや、遅刻したことに気が付き始めたようだ。


慌て始めた彼女に、とにかく今日の予定はどうなるのか?

聞いて見ることにした。


「今日は一番初めにどこに行くんだ、天明さん。」


ああ、とこちらを見て、にっこり笑う彼女。

うん、誤魔化すことにしたようだ。


「今日は、まず加具茂寺の方に行こうと思います。

 実際、奉納された雨命の勾玉が、何処から来たのか?

 持ち主の豪族が治めた地域を特定しないと。」


なら、早速行くか。


天明さんを加えて、クランベリーさんの車で移動する私達。


しばらく、京都の道を進むと、例の寺の前に到着した。

近くの駐車スペースに、車を置きに行ったクランベリーさんを、

待って、寺の中へと踏み込む。


「うん?

 あんたら、この間の!

 見ない顔もいるが、また来たのか。」


境内に3人ほどの外国人がいて、その中の一人が声を掛けてくる。

うん?こいつは。


「はあ、なんだ、いつぞやの不審者か。

 まだ何か狙ってるのか?」


そう、こいつは竜騒ぎで大立ち回りした天使な外国人だ。


「は、何言ってるんだ。

 今日は、仕事で来てるんだ。

 そっちこそ、どうなんだよ。」


と返してくる。


「はあ、こっちも仕事だ。

 私は七福、こんなところに用があるということは、

 ご同業か?」


”天使殿” と最後に付け加える。


「最近こんなことが多くて困るぜ。

 俺は、サリエル・ローランド。

 同業かどうかは分からんが。」


「すみません、ここの住職の方はどちらに?」


と、本来の目的を果たそうとする天明さん。

同行者である彼女たちは、名乗る気はないようだ。


「ああ、右藤住職ならあっちだ。

 門を修繕するため、業者と相談中だ。」


そう言って、お寺の敷地横に建てられた母屋らしき、

建物を指さす。


「有難うございます。」


と一応の礼を言って、その場を立ち去ろうとする彼女たち。

うん?なんなんだろうか?


少し違和感を感じながら、指し示された建物へと移動。


母屋前で、如何にもな業者さんと会話する右藤住職と出会う。


業者さんとの打ち合わせが終わるのを待って、声を掛ける。


「すみません、この間はお世話になりました。

 今回は、この地域で起こっている事案について、

 調査しているのですが、ご協力いただけないでしょうか?」


と、天明さん。


「ああ、あの時の。

 ふーむ、事案とはこの間のことですかな。」


右藤住職は、私達の意図を察したのか、


「それで、何ようかな?」


そう聞いてくる。


「このお寺に、奉納されている雨命の勾玉のことで、

 お尋ねしたいことが、あるのですが。」


天明さんが質問すると、


「うーむ、確かに、この寺で保管していますが、

 今は取り込み中です。

 宝物をお見せすることはできません。」


と、答える右藤住職。


しばらく、天明さんが雨命の勾玉について質問するが、

大体は、天明さんが調べたことと違いはない内容だった。


最後に、宝物の持ち主だった豪族の治める地域を聞くと、


「あの宝物の元の持ち主は、滋賀県、琵琶湖を挟んだ北部を

 治めた豪族、竹蔵氏です。

 現在は、篠目里村という山村にのみ、その名残である遺跡が、

 残っています。」


そう語る右藤住職にお礼を言い、寺を出ようとする私達。


門の壊れた場所を確認していたローランドと名乗る外国人男性に、

再び出会う。


「はあ、難儀なもんだ、

 あんたら、この一件に関わらないほうがいいぜ。

 正直、うさんくさいからな。

 俺たちは、どうしても用があるから、引き下がれないんだが。

 あんたらは、違うだろ。」


そんな警告を残し、彼は奥の本殿へと歩いて行った。


天明さんとクランベリーさん、そして私の三人は

車に乗って、滋賀の地へと向かう。


山間深く、車がすれ違うのもやっとな山道を進む私達。


山道の終点には、いくつかの家屋が立っていた。


駐車場はなかったので、その辺の空き地に止め、

運転してきたクランベリーさんは、移動に備え残る。


天明さんと私は、近くの人が住んでいるだろう家屋で、

豪族のことを聞き込みする。


すると、この村の少し奥に古い神社があるそうだ。

なんでも、龍神を祭る神社で今でも細やかな祭事が

執り行われているという。


空き地に車を止めていてもいいのか?質問し、

許可を取った私達は、クランベリーさんを迎え、

その神社へと向かう。


少し奥まった場所に、小さな神社があった。

小さいと言っても、

クマの時のような社殿一つというわけではない。


相応に鳥居や、本殿と思われる建物があり、

この小さな集落にしては、規模が大きい立派なものだった。


鳥居を潜る私達だったが、

その瞬間、ぞわっと背筋が凍るような気配を感じた。


”ふむ、この間のよそ者か。

お前たちも、あの盗賊の肩を持つのかえ?”


そんな落ち着いた声と共に、十二単を着た貴族風の女性が、

境内の宙空に浮いているのを、私達は発見した。



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