第27話 プロジェクトの意味
エンターテイメント投資促進部 部長
そんな大層な肩書を持つ厳つい強面の男性は、
予想に反して、それほど怒っていなかった。
確かに、渋い顔でこちらを見ていたが、
表面上は、穏やかに挨拶をしてきた。
「初めまして、七福君。
私の名は、鳴神 英雄。
当部署の責任者を任されている。
七福君のご活躍のほどは、聞いているよ。
うちの社員は、ご迷惑をお掛けしていないかね?」
と天明さんやクランベリーさんに目を向ける。
うん、さすが大企業の一部門を任された強者。
そこかしこに、威厳を感じる。
そんなことを思いながら、
「いえ、皆様には、大変良くしてもらっています。
遅れましたが、私は七福源治丸といいます。
この度は、御社の企画に採用いただき、
本当に有難うございます。
まだまだ若輩ではありますが、企画が成功するよう
全力で尽力させていただきます。」
と深く一礼する私。
「ふむ、有難う。
七福君の事情は、聞いている。
君にとって、当企画への参加は不本意なものであったろう。
不幸な行き違いがあったことに対して、謝罪させてもらう。」
「そして、改めて、当企画への協力をお願いする。
我々も、あらゆる面でバックアップする。
どうかよろしく頼む。」
と、鳴神氏はプロジェクトへの協力を要請してきた。
そこで、私は以前から疑問だったことをぶつけることにした。
「すみません。
私からひとつ、プロジェクトについて疑問があるのですが、
いいですか?」
と、口火を切る私。
「なんだね、内容によっては、答えられないものもあるが、
それ以外なら、何でも答えよう。」
という返事が返ってくる。
よし、この際、一番の謎を聞いたみよう。
「このプロジェクト、なぜ私のような一般人を採用したのですか?
そもそも、選考基準がわからないのです。
それと、一般人を総理大臣に据える意味は?」
そう、ずっと疑問だった。
不可思議なことは、色々あった。
しかし、それも天明さんが来てからの一連の流れで起きていること。
そう思うのだ。
つまり、このプロジェクトに関わらなければ、
私は今頃、何も知らずに再就職先を探していただろう。
失業保険もあるが、40歳を超えたおっさんである私。
再就職は結構厳しいだろう。
まあ、前職のような待遇は、期待できないし、
今から他の企業で、正社員になれるほど、
自分が、優秀とは思っていない。
良くて、バイトやパート待遇だろう。
そんな中、こんな大企業のプロジェクトに参加しているわけで。
持ち逃げされたが、契約金は法外だ。
私にそんな大金をかける意味が、今だに分からなかった。
そう私という人間は、このプロジェクトに不適切だと思っているのだ。
もっと立派な人間はいると思う。
そんな私の根本的な困惑を感じ取ったのか、
鳴神氏は、このプロジェクトの意義について答え始めた。
「七福君、君は人間の価値をどう測るかね。
そうだな、最初から説明しよう。」
「進化論によれば、人間は霊長類に属する猿から進化したそうだ。
私達の祖先は、アフリカの一地域に出現した進化固体であり、
その勢力を拡大して、四方へと散っていったそうだ。」
「その後、他の生物に見られない
農耕などの生産活動を行うようになり、
その数を増やした。」
「これにより、それまで食料を求めて移動する生活を終え、
一か所に定住することが、可能になった。」
「それまで、他の生物を狩ったり、木の実等を採取したりして、
生活を送っていた祖先たちは、その不安定さから
中々、個体を増やすことができなかった。」
「しかし、農耕という食料を生産する技術を手に入れた祖先は、
ここから飛躍的に進歩する。」
「今のこの星全体に広がった人間による文明の基礎は、
食料を生産することから始まり、
その恩恵により、今日まで色々な技術を生まれた。」
「一口に科学というが、実際には多数の人間による試行錯誤で、
発見されてきた自然現象の模倣技術である。」
「人間の科学は、この星の出来事や宇宙を観測することで
発見された事象を、人間の手で好きな時に再現することに尽きる。」
「科学とは、自然現象の模倣を体系化したものであり、
技術とは、科学で発見された事象を模倣する技である。」
少し、息を整え、再び続ける鳴神氏。
「私達、人間は、この科学と技術を基に発展してきた。
どうやって、このような考え方を身に着けたのかは、
今だわからんが、
とにかく、人間が他の生物に対し優位に立ったのは、
この思考パターンによる恩恵が大きい。」
ただね、と続ける彼。
「人間は、本当に他の動物より優先される生命体になれたのか?
その疑問が、私達の長年の疑問となった。」
「科学と技術の関係は、ある種の思考パターンと言える。
これは、動物が本能的に自分の縄張りを巡回するように、
人間という種に発現した、ある種の生存本能と言ってもいい。」
「科学や技術はね、
人間が増えれば、増えるほどに進歩する。
ある意味、自動的にね。
時間は必要だろう。
しかし、多くの年月と多くのマンパワーを掛ければ、
いずれ、今不可能と言われた技術に手が届く日が来るだろう。」
”簡単では、ないだろうがね” と語る鳴神氏。
「しかしね、私達人間は、それらの技術に相応しいだろうか?
今、世界各地で、紛争が起きている。
そして、様々な環境問題も指摘されている。」
「これらは、私達人間の活動が原因だという。」
「さて、一般的な戦争や紛争に当たる行為は、
地球上の肉食動物が行う、縄張り争いと違いがあるのかな?」
「もちろん、そのスケールは違う。」
「しかし、科学や技術といった思考パターンが、
誰かからの受け売りであり、
ただ単に生存のために、利用されているだけなら?」
「人間は、この星で増え続けた。
それは、初めに指摘した農耕という技術によるものだ。
そして、国家という枠組みを作り出した」
「しかし、人間の集団である国家は、増え続けた人間の縄張りという
原初の本能から生まれたのではないか?」
「増えた人間という猿が、他の縄張りを持つその他に対し、
集団で結束して防衛行動をとる。
時には、増やした一族の繁栄のため、縄張りを広げようと、
その他の縄張りを奪い取ろうとする。」
「私達が、他の地球にいる生物と違う所は、
類い稀なる科学と技術を持つからだ。
しかし、その思考パターンが、他の誰かによって
齎されたものだったとしたら、どうだろう。」
「ただ生き残るという生存本能が、
この思考パターンを 有効活用していて、
実際にこの力を理解していないのではないか?」
「そう科学や技術が、我々が生み出したものではなかったら?
今までの発見は我々のモノだったとしても、
最初にこの思考パターンに到達した要因が、
ただの受け売りだったのなら。」
”果たして、私達は地球上に存在する他の動物と違うと言えるだろうか”
「このプロジェクトはね、
私達が、この星で最も進歩した生物であるという確証を得るために、
企画されたものなんだ。」
「そう私達が行ってきたあらゆる行為が、
この星にとって有益であると言えるかどうか?」
「今までの行為は、人間というこの星の代表者を生むために、
必要だったと言えるかどうか。」
「人間は、地球上でもっとも優先される生命体であり、
星の生命体にとって、必要不可欠だと断定できる確証。」
「人間の進歩は、星にとって無駄ではない。」
「かつて恐竜という星の頂点は、滅びに対し無力だった。
また、繰り返すことはできない。」
「そして、人間が今の頂点である。
私達は、この星で繁栄を手にしたが、それに見合う結果を
出せるのか?
人間という生命体は、星にとって有益なのか?」
”それを調べるのが、本プロジェクトの目的なのだ”
「しかしね、ある程度の名声や権力を持つものは、
色々な、しがらみがある。
社会の構造は、複雑怪奇だ。」
「だが、シンプルに考えれば、
しがらみがなく、比較的に自由な一般人を採用することで、
答えに辿り着けるのではないか?
そう考えているのだよ。」
「人間が、他の地球上の生命体の中で、特別な存在なのであれば、
たとえ一般人であろうと、その性質を観測できるはず。
むしろ、しがらみのない状態で、発揮されるものにこそ、
人間の真価が現れると言えよう。」
「七福君の採用は、本プロジェクトにとって不可欠な決定だったのだよ。」
そう言って、鳴神氏は締めくくった。
うん!
ようわからん!
曖昧に頷いた私に、満足したのか、鳴神氏は何かの書類にサインしている。
しかし、何やら期待されているようだ。
大変遺憾だが、これからもこの件に纏わるトラブルは尽きなさそうだ。
「ところで、天明君。
ちょっと残ってもらえないだろうか?
大事な話があるのだよ。」
「何、君にとって大したことじゃない。
時間はとらせないよ。
私は君とは違うのでね。
あと、経理から連絡があってね、色々と相談したいそうだよ。」
くくくっ、
そこには、迫力のある笑顔を浮かべる鳴神氏がいた。
「ああ、七福君。
ここまで遠路ご苦労だったね。
今日は、我が社で宿泊場所を用意した。」
「いや、遠慮はいらないよ。
これは我が社の責任だからね。
気を使わないでくれたまえ。」
では、クランベリー主任、後はよろしくと言って、
天明さんを連れて、会議室へと向かう彼。
私とクランベリーさんは、指定のホテルに向かうことになった。




