第24話 静かなる躍動
アメリカ合衆国 ロサンゼルス
メルカバール・カンパニー 総合エンターテイメントビル
最上階 会長室
ミカエル・メルカバールは、この会社において、会長という職にある。
もともとは、石油関連で名を馳せた会社であり、
その業務は、油田の調査や試掘、実になる場所なら資金を投じて
石油プラントを建設、
更に掘り出した原油の精製などの一連のプロセスを一貫して行っていた。
巨額の資金が必要であり、成功者は3%以下という石油業界で、
トップ企業として君臨してきた会社である。
ミカエル・メルカバールは、創業者一族の直系ということになっている。
というのも、彼の素性がよくわからないからだ。
メルカバール・カンパニーの創業者の名もまた
ミカエル・メルカバールという名で知られているのだ。
メルカバールの名を持つ創業者一族は、かなりの資産をもっていたが、
ある石油プラントの火災事故に、
視察中だった当時の会長とその家族が巻き込まれた。
その後、会長職を父方の親戚にあたるクレイブ・メルカバールが受け継ぐ。
彼は一族の資金を流用し、シェールオイルなどの新油田事業に力を注ぐ。
この事業は一定程度の成功を収めたが、
その後、採掘による環境問題や健康問題などで、近隣住民から提訴される。
長い裁判の末、水質悪化の諸元が、彼が主導したシェールオイル・プラント
にあると認められ、結果は敗訴。
上告するも、メルカバール・カンパニーは、
審議中の石油プラントの生産停止命令を受けることに。
さらに、悪いことに系列会社がプラントでの水質検査に
手を加えていた事実が発覚。訴訟はアメリカ全土に広がった。
創業者一族は、会社から手を引いた。
あまりに多くの負債が、圧し掛かってきたからだ。
そんな中、事故にあった前会長の娘が、会長職に就くことに。
長い病院生活を終えた彼女は、辣腕を発揮。
もともとの石油ブランドを全て処分した。
その後、彼女のいとこである現会長ミカエル・メルカバールに
全権を委譲したのだ。
ただ、負債は膨大だった。
あらゆる石油利権を手放したものの会社は風前の灯火だった。
全権を委譲されたミカエル会長は、原子力関連の新企業を立ち上げる。
また最先端のエネルギー技術を開発するベンチャー企業に投資し、
時にワンマンに、新進気鋭の沢山の技術者を採用。
いくつもの特許を獲得し、
全ての事業で良好な結果を見せることに成功する。
人は、彼を見て新たなるアメリカンドリームの再来と呼ぶことになった。
そして、今、彼はエンターテイメント企業に莫大な投資をしている。
映像技術の開発に、映画製作、果ては宇宙産業に手を広げ、SF技術の
獲得に本格的な投資を行っている
一方、もともとの石油産業からは手を引き、環境保全へと舵を切った。
そんな大企業のトップを務めるミカエルだったが、
今日は、夜遅くまで、ある報告を待っていた。
一報は唐突に掛かってきたビデオ通話から始まる。
「ガブリエール所長、プロジェクトはどうかな?」
今一番聞きたいことだった。
まだ、本格始動はしていないが、最初の一歩で足を掬われるわけには
いかなかった。
ガブリエールと呼ばれた白衣の女性は、
「ふふっ、随分お疲れの様子ね。ミカエル。」
と返してくる。
「ふん、焦りもする、ここで躓くわけにはいかないからな。」
ミカエルは、結果を早く報告しろと急かす。
「画像データを送ったわ。
これでいいでしょう?」
手元のタブレットを操作し、送られてきた画像を確認するミカエル。
「はあ、第一段階はクリアか。
やはり、まだあったな。
しかし、これからが問題か。」
「これは動くと思うかな、ガブリエール。」
答えを求められた女性は、
さあ、分析してみない事にはどうにも、と答え、会話を打ち切る。
「忙しいから、またね、ミカエル」と言ってビデオ通話がオフになった。
「相変わらず、勝手な。
あとは各地にいる同胞が、何かを見つけてくれれば。
今のところ、有望なのは日本か。」
”サリエルは、上手く事を運んでいるだろうか?”
手元のタブレットには、
暗くゴツゴツとした岩ばかりの荒地の光景が映っている。
画像は何十枚にも及ぶが、どれも一応に共通点がある。
その中心に、大きな何かの人工物が映っているのだ。
表面を、灰のような砂や土砂が覆っているが、
明らかに金属製の何かが、所々顔を出している。
画像の縮尺から考えれば、中々に巨大だ。
そんな建造物が、土に埋もれているとは?
その画像は、とあるプロジェクトによって齎されたもの。
場所は月面の裏側だった。




