第22話 京都から戻って
誰にも気づかれずに、ひっそりと更新。
更新予定は不確定。
気の向くままに、休みを満喫しようと思っています。
竜が倒れ、無事、朝を迎えた私達。
怪我人が多数いると思われるお寺の前へと、近づいていく。
この付近では、竜の息吹による被害が出ており、
救急車やパトカーのものと思われるサイレンが、近づいてきている。
被害のあった場所から、通りのほうへ出てきている人も多数存在する。
一応に、何が起こったのか分かっていないようだ。
近くに来ると、お寺の門は扉部分の他、上部構造も破壊されており、
直すより、新しく建て直したほうが早い感じだ。
僧侶にも、怪我人が出ているらしく、
その場に横たわる僧侶を、まだ動ける人が応急処置をしている。
戦場となったお寺の前は、酷い有様だった。
そんな中、右藤と呼ばれた、見るからに立派な僧衣を
身に着けた男性を発見。
彼は、あの天使と思われる外国人男性と何やら話し中。
二人とも近寄る私達に気づいたのか、こちらに目を向けてくる。
「やあ、お二人さん。
あんたらも、なかなかやるじゃないか。」
そう言葉を掛けてくるのは、例の外国人だ。
私は、生まれてこの方、天使なんてものを見たこともないし、
会った事ももちろんない。
そもそも、私は無神論者だ。
しかし、さっきの光景を見た後では、そんな信条も揺らぐ。
「はあ、そういうあんたも、大活躍だったがな」
「竜相手に空中戦とかな」と返す私。
私は相手が天使だからと言って、すぐに信用したりしない。
こいつは、こんな事件になる前に、寺に警告できたはずだ。
私達が、この寺に辿り着く前から路地裏に隠れていたのは、
言い逃れようのない事実。
この事件は、一歩間違えれば大惨事になっていた可能性がある。
あの竜の出現は、予測できなかったとしても、
あの幽鬼やらの武装集団が、襲撃してくることを、
この男は知っていた。
要するに、一見味方のようだが、油断ならない相手なのだ。
「おおっ、先程は、あなた方にも救われました。」
と、大仰にこちらを持ち上げてくる右藤と呼ばれていた僧侶。
天明さんが、
「皆さん、大丈夫でしたか?
救急車は呼ばれましたか?」
と聞き返す。
「ええ、ええ、大丈夫です。
私達は、こういうことに備えがあります。」
と、答える右藤。
「それに、今回が初めてではないのです。」
「そう言えば、自己紹介がまだでしたな。
私はこの寺の住職、右藤 宗貴。
ここにいる僧侶たちは、今起きている事件に対処するため
集まってくれた他のお寺の方たちです。」
「こんな事がなかった頃は、
この寺のことは、私一人で賄っていたのですが。」
と続ける。
「よう、右藤さん。
さすがに、今回みたいなのが頻発するなら、
俺らにも手が余るぜ」
と、横から口を出す天使な外国人。
「はっきり言って、アレで終わりじゃないぜ、これは
それに、あの鬼どもに、こいつらも目を付けられた。」
「こいつらは、只の通りすがりじゃないみたいだが、
それでも、あんなのとやり合えるとは思えねえ」
「そろそろ、決断してくれ。
今のままじゃ、手遅れになるぜ。」
厳しい言葉を投げかける外国人男性に、
「うーむ、今回は寺だけでなく、近隣の民家にも
被害が出たようだ。
まさか、あのような化生を従えてくるとは。」
「異人のお方よ。
皆で話し合い、結論を出すので、少し待ってくれるか?」
「はあ、いいぜ。
しかし、できるだけ早く頼むぜ。
こちらも本格的に協力するなら、本国から人を呼ばないと
今のままじゃどうしようもないからな!」
と、答え、立ち去る男性。
去る間際に、私達にこう告げてきた。
「関わるなよ、これはヤバい。
俺たちは、これが仕事だから引くに引けねえ。
人を揃えて、本気で相手するが、
正直どうなるか分かんねえからな。」
”今の内に、帰れよ!
目を付けられても、今はここに集中するだろう。
ここで片が付けば、あんたらに被害は出ないんだからな。”
真剣に忠告しているのだろう。
鋭い目をこちらに向けて、去っていった。
「あなた方には、助けてもらったお礼をせねば。
特に貴女のおかげで、窮地を脱せられた。」
と、天明さんに話しかける右藤住職。
「いえ、わたしは、彼の判断に従っただけです。
それとわたしの名は、天明かぐらと言います。
遅ればせながら、自己紹介をする天明さん。
私も、「七福 源治丸です」と会釈しながら続く。
「そうですか、七福どの、天明どの、
助けていただき、本当に感謝している。
有難い。
そして、こんなことに巻き込んでしまい
本当に申し訳ない。」
と、謝罪する右藤住職は何か思案する。
天明さんと私を静かに見つめ、
「うーむ、天明どのからは、何か不思議なものを感じる。
しかし、七福どのは、こういうことに不慣れのようだ。」
そういうと、忙しく動き回る僧侶たちの一人に声を掛ける。
なにやら、小声で話をすると呼ばれた僧侶は寺の中に。
「しばらく、お待ちくだされ。
このまま、お返しして何かあれば一大事ゆえ。」
それから、昨夜から今までの出来事の顛末について、
手短に語りだす右藤住職。
「始まりは、昨年の9月頃だった。
月のない夜に、いきなり寺に押し掛けてきてな。
その時は、少数の共を連れて、
交渉を持ちかけてきただけだった。」
「この寺に、あの貴族風の女性の家に伝わる家宝があると、
そして、それを返して欲しいということだった。」
「この寺は確かに古い。
だが、そんな貴重なものは何も残っていない。
この京都の地には、他に国宝を祭る神社仏閣が幾つも存在する。
勘違いではないか?と最初は相手にしなかった。」
「しかし、女性は執拗でな。
新月の夜に現れ、次第に強硬な態度で迫ってくるようになった。」
息をつく右藤住職は、疲れた表情で続ける。
「私も一人で寺を任される身。
さすがに怖くなってな。
他の寺に相談し、人を回してもらったのだが、
それを女性に敵意があると勘違いされた。」
「今日のような、大勢の化生は初めてだが、
先月は、侍らしき共を数人連れて、脅してきていた。」
”しかし、こんな大事になるとは”
そんな話をしていると、寺の中に行っていた僧侶が帰ってきた。
僧侶から何かの包みを受け取り、私に向かってこう続ける。
「七福どの、貴方はどうやら、こういう事に巻き込まれやすいようだ。
天明どのが一緒にいるのも、そういう縁なのだろう。
しかし、今回のような事に遭遇し続ければ、いずれ大事になろう。」
「これを受け取ってほしい。
使い方は、天明どのが知っていよう。」
そう言って、天明さんを見つめる右藤住職。
差し出された包みを受け取り、確認する私。
包みを開けると、
そこにはお経が書かれた巻物と40cmくらいの錫杖が入っていた。
「これを持っていれば、七福どのも少しは安心できよう。」
「本来なら、寺に招いて細やかながらも感謝の席を設けるところだが、
今は取り込み中でな、申し訳ない。
それに、これだけの被害、警察なども来るだろう。
あなた方も、お早く立ち去る方が賢明だろう。」
では、っと一礼して、後始末をする僧侶の中に混じっていく右藤住職。
私は、受け取ったものを包みに戻し、天明さんとその場を離れる。
人の気配が、戻ってきた京都の街並み。
私と天明さんは、宿に帰るため、寺の前から少し離れたところに
乗り捨てた自転車を探す。
しかし、建物のガラスや壁の一部が散乱する通りを捜索するのは大変だ。
救急車や警察車両も、到着しつつある。
仕方なく、徒歩で最寄りのバス停へと向かう私達。
バスの運行は、この事件で休止してしまっていた。
タクシーも捕まらず、徒歩で宿への道を帰ることになった私達。
この後、朝としては豪華な食事にありつき、
眠ることもなく、宿を引き払う。
天明さんは、会社である研究所に連絡、事情を説明し、
今日のところは、一旦私を家に送っていくと伝えている。
幸い、電車への影響はなく、
一路、見慣れた我が家へと向かう私と護衛代わりの天明さん。
貰った経典?と何かの錫杖について、
向かい側に座る天明さんに、詳しく聞こうとした私だったが、
混乱の渦に包まれている京都を離れ、
ほっとしたのか、天明さんは、すうすうと静かな寝息を立てて
眠っていた。
思えば彼女は、護衛役ではない。
時折、見せる怪力も、男性視点からみれば、
そこまで驚くことではないのかもしれない。
まして、彼女にあんな怪物の相手ができるとは思えない。
不思議な力を今回も使った天明さん。
しかし、その力も目の前に相手が迫っていたら?
そこまで有効ではないかもしれない。
そう思えば、今回彼女もいっぱい、いっぱいだったのかも。
深い眠りに舟を漕ぐ彼女を見つめながら、
そんな推測をする私だったが、
疲れが出たのか自身も夢の中へと誘われていた。
その後、私たちは寝過ごして、降りる駅を通り越してしまった。
結局、我が家に到着したのは、昼を過ぎた頃だった。




