第21話 加具茂寺の戦い その2
轟音と共に、破壊された寺の門。
グォォォォォ___
大きな咆哮と共に、通りの上空に翼を持つ大蛇のようなフォルムの
巨大なモンスターが現れた!
”エマージェンシーコール”
”外的領域からの訪問者を認識”
”訪問者の所属を確認”
”所属:九界統べる隠者”
”個体識別に成功”
”当該個体の名称「リンドヴルム」”
”敵対意思の有無を判定中”
”当該個体に敵対の意思なし”
頭の中に、ヘルハウンドの時のようなメッセージが、
流れる。
敵対意思はない。
そうか、私達はまだ見つかっておらず、
直接攻撃の対象にはなっていないのだ。
巨大な体躯、空を飛びながら地上を威嚇するその姿は、
眼前の僧侶たちには、明らかな脅威だろう。
リンドヴルムとかいうあのモンスターはどのくらい危険なんだ?
あの僧侶たちが、倒せるような代物なのか?
”種族:空を駆ける竜族”
”脅威度:B”
”神兵の1部隊に匹敵する能力を誇る”
”現在の地域で、当該個体と争うのは極めて困難”
ええと、つまり今、戦っている僧侶たちでは敵わない
ということなのか?
「こりゃ、駄目だな。
ふぅ、こんな奴がまだいるとは、思ってなかったぜ。
楽な仕事なんてないんだな。」
”まあ、ここで恩を売っておけば、交渉もやりやすくなるか”
そんな呟きが近くから聞こえた。
声の主だろう、外国人に目を向ける。
しかし、そこには誰もいなかった。
「 Judgment 」
目前では、妖たちに押され後退する僧侶の集団がいる。
そんな騒ぎの中、何故か静かに響く声。
その声の元を探して、空を見上げると
咆哮を上げ、僧侶たちを威嚇していた竜の、
更に上空に、背に翼を持った光を放つ人型が現れていた。
天使?
私はあまり宗教に詳しくないが、
その人型は漫画とかゲームなんかに、出てくるような姿だ。
そして、今しがた聞こえた声に合わせたように、
光る何かが、十数体出現する。
現れた天使よりも、小さい何かは竜を包囲すると
明滅を繰り返し、強烈な光を竜に向かって解き放った。
ビームのような光を受けて、宙で藻掻くリンドヴルム。
包囲を崩すためか、巨体を使って周囲を薙ぎ払う竜だったが、
その動きを読んだかのように躱しながら、
光の照射を続ける小さな何か。
ガァァァ___
怒り狂った竜の姿が震え、強烈な圧を周囲に放つ!
瞬間、爆発的な衝撃波が、辺りを薙ぎ払った。
「チッ、こんなのの相手はやっぱりキツイぜ!」
この口調と声、あの天使のものか?
さっきまで、一緒にいた外国人と同じ声色だ。
小さな何かは、今の衝撃で消し飛ばされていた。
竜は、天使を敵と見なしたのだろう、
巨体に見合わない速度で、空中を駆け抜ける。
鉤爪を振るい、口を大きく開けて噛みつこうとする竜。
それに対し、天使は何処からか取り出した光る剣を振るう。
激しい空中戦を繰り広げる二つの存在。
ーーーーー少し時間を遡る
地上では、門を破壊された衝撃で、
十数人いた僧侶たちは、なぎ倒されていた。
金剛と大鬼の戦いは、今だ互角。
もう一体の金剛は、異形の巨人と大天狗を相手に苦戦している。
金色の光を放つ僧兵たちと幽鬼たちの戦いは、
僧侶たちの援護が途絶え、僧兵側に不利になっている。
大きな鎧武者の振るう太刀が、僧兵を切り倒す。
念仏により何等かの制限を受けていたと思われる幽玄の軍団。
しかし、今その実力は、存分に発揮されている。
「ふふふ、右藤どの。
今宵は、そなたの負けじゃな。
そろそろ、命乞いをしてはどうじゃ?」
”もう、その手品も飽き飽きじゃ”
と、軍団の主であろう女性が語り掛ける。
「はあ、はあ、そうか、
貴女のその自信は、あの竜だったか。」
”他の勢力と手を組んだか”
と呟く右藤。
「皆、立つのだ!
この寺に、一歩も入れてはならぬ!」
倒れている僧侶たちを鼓舞する彼だったが、
状況は芳しくない。
それでも、数人の僧侶が立ち上がり、読経を始める。
苦戦を強いられる僧侶側だったが、
その時、上空の竜が、強力な衝撃波を放った。
敵味方双方が、この衝撃波により打ち倒される。
「くっ、何をしておるのじゃ。」
空を見上げる十二単の女性。
上空では、天使と竜が激しい戦いを繰り広げている。
「 法力・闇暁縛鎖 」 気迫のこもった大きな声が響く。
右藤が放った何等かの術が、この軍団の主たる女性を襲う。
「ぬ、くっ、動けぬ!」
また、門の破壊で倒れていた僧侶たちは、竜の衝撃波に対し、
安全な体勢を取れていたのだろう。
異形のモノより早く立ち直った僧侶たちは、再び経典を読み上げる。
僧兵たちは、半数を打ち取られていたが、
緩慢になった幽鬼たち相手に、再び大立ち回りを始める。
ーーーーー
ふう、これはついていけん!
銃とかはないが、この集団戦に入っていったら
あっさり、やられるだろう。
何か僧侶側が負けるとまずいようだが、
どうしようもない。
私に出来ることは、警察に連絡することぐらいだ。
正直、警官隊でどうにかできるとは思えんが、
それなら、自衛隊が出てくるだろう。
さすがに重火器持った戦闘部隊なら、何とかなるだろう。
空中戦を繰り広げる天使と竜を見ながら、
何とかなると思いたいな、、、
一進一退の攻防戦を繰り広げる双方の陣営。
この状況を一変させる出来事は、空から始まった。
竜というか、ドラゴンが天使を下方において、
大きく舞い上がったのだ。
そして、空中の天使を見下ろしながら、息を吸い込む。
それを見た私を、ヒリヒリする嫌な感覚が襲う。
隣で状況を見ていた天明さんが、何かを叫ぶ。
その瞬間、竜の吐息が解き放たれた!
強烈な稲妻が、上空の天使に向かって襲い来る。
予め、その動作から予期していたのだろう天使は、
間一髪、回避に成功。
しかし、目標を外した息吹は、地上に着弾。
通りに立ち並ぶビルや商店、家屋を、稲妻が薙ぎ払う。
窓ガラスは割れ、ビルの壁等が損壊、家屋からは炎が噴き出した。
これはヤバい!
「七福さん、ふせていてください!」
その声に隣へ目を向けると白いオーラに包まれる天明さんが。
瞑想を始める彼女。
白天明さんであっても、これはどうにもできないぞ!
空の様子は怪獣大決戦だ。
寺の前も混乱の極みである。
動きを封じられたあの平安貴族の女性、
どうやら、竜の制御ができなくなったらしい。
それまでより、竜の暴れ具合が激しくなった。
天使に向かって、再び襲い掛かっている。
混沌とした戦況の中、竜と天使が下降してきた。
予想以上に飛行速度が速い竜と
小回りを利かせてそれを躱す天使。
再び、息吹を溜める動作に入った竜に、
させじと渾身の一撃を叩きこむ天使。
竜は高度を落し、通り付近へとやってくる。
「此度こそ、終わりぞ!」
と、軍団の主たる女性がその手に暗い力を集め始める。
しかし、そこに瞑想中だった白天明さんの声が響き渡る。
” 闇命流転 ”
サァァァァァァ___
不可思議な光が消え去り、自然の光が舞い戻る。
暗い夜が終わり、朝が来たのだ。
幽玄の軍団が、輪郭を失いはじめる。
口惜しそうな女性の声が、聞こえる。
「次はこうはいかぬぞ。
そして、お前たちのことも忘れぬ!」
私達を見つけたのか、そんな言葉と共に消え去る十二単の女性。
グォォォォォ___
こちらに向け、大きな咆哮を上げる竜が飛来する。
まずい、この怪物はあの女性とは別物か!
そんな考えが頭によぎる。
少しずつ、存在感が薄れていっているが、
まだまだ、私達くらいはやれそうだ。
くそっ、天明さんを連れて逃げるぞ!
大きな力を使ったのか、息が乱れている天明さんの手を握り、
建物の奥へと引っ込む私達。
ヴァサァアァ___
飛行しながら、こちらを見つけようとする竜。
そんな中、さっきまで戦っていた天使が、準備を整え終わっていた。
”敵性個体の撃滅に、砲撃を申請する”
”管理権限保持者、ミカエルの代理として承認コードを送る”
「Code:Banishment」
そんな一連の呟きと共に、天使である彼に返信が送られてきた。
”申請者の霊性個体識別”
”権限代理の使命を確認”
”霊装の使用承認コードを確認”
”一致”
”霊子エネルギー収束砲、砲撃準備”
”砲撃対象を補足”
”軌道砲撃に備えよ”
”霊子収束”
”発射”
衛星軌道上に突如現れた巨大な船から、
圧倒的な力を伴った光線が、発射された。
光は雲を割き、地上に到達。
空中を飛行する竜の身体に命中した。
爆発こそ起きなかったが、
強烈な光は、私たちのいる建物をも照らす。
しばらくして、外を覗うと、もう竜は影も形もなかった。
寺の方は、幾人もの負傷者が出ているようだったが、
死人が出ている様子はなかった。
まあ、実際に戦っていたのはどこかから呼ばれた巨人や僧兵だったし、
門を破壊されたとき以外は、攻撃の前面に立っていたわけではない。
ようやく、長い夜が終わったのだ。
今回、主人公たちは、準備不足で横から見ているだけになっています。
章の中盤に当たるこのお話の解決編では、活躍するはず。たぶん。




