第1話 降ってわいた借金と総理の椅子
驚愕のあまり虫の息になった私に、
再び、スーツ姿の女性、天明かぐらは声をかけてくる。
「何か行き違いがあったようですが、総理の役目を降りるのであれば
今回の取引でお支払いした契約金と今月分のお給料の返還を求めることになります。」
はあぁぁぁ、金など貰っとらんし、
そもそも私は今無職なのだが。
「俺は知らん!
そんな戯言、誰も認めんぞ。
大体、国会議員ですらない俺が、なんで総理なんだ!
詐欺だなっ 詐欺だろ!」
喚く私に困った顔を向けてくる天明さんは
「そうですねぇ、私達の正体はともかく
これは正式に会社のプロジェクトとして認可されていますよ。」
と言って、何やらいくつかの書類をこちらに突き出してきた。
ーーーーー契約文書 署名通知 参加者への通達 プロジェクトNo12026
我が社の社会調査プロジェクトにご参加いただき大変有難うございます。
本プロジェクトは「人が社会的制限を取り払った場合、どんな行動をするのか?」を
1年という期間を経て、観察するものです。
人は社会を形成する生物ですが、仮にある程度の制約を取り払った場合
(厳密には可能な限り、法の制約を取り払った場合ですが)
人の行動は変化するのか?人の善性などに変化は生じるのかを私達は見たいのです。
そこで参加者には国家元首の地位に立ってもらい、人と他の生物に行動の違いが現れるのか?
国家が他生物における縄張りの延長ではないのか?
人が社会的地位の上昇により、存在そのものの核が揺らぐことはありえるのか?などを
検証したいと思っております。
本プロジェクトには我が社の最新テクノロジーが使われていますので、正規参加者には
守秘義務を設けております。違反した場合は・・・・・・・・・・・・
(株)ガイア神話連盟 日本支部
当研究プロジェクトに参加いただける場合は相応の契約金を事前にお支払いいたします。
また1年を通して、月払いの報酬とプロジェクトの進展による特別報酬をご用意しております。
最後の確認をいたします。
ご同意いただけますか? はい / いいえ
ーーーーーーーーーーー
読み進んだ私の前に、七福源治丸のサインと今時古いハンコが押されている同意書があった。
こんな書類にサインした覚えはないぞ、、
うん?
これは会社の決済書類で使っていたハンコじゃないか?
零細だったから、電子決済の導入が遅れていた。
サインは私の筆跡じゃない、あまりにも似てないぞ!
そして、もう一つの個人情報が入った書類には
名義 七福源治丸 〇×#▽銀行 〇〇支店 口座番号〇〇×▽〇◇☆ーーーーー
という報酬受け取り口座が、自分とは違う筆跡で書かれていたーー
なんでこんなものが、
前職の給与受け取り口座じゃないか?
しかし、私の筆跡ではないのは確かだ。
私は怒りに震えながら、持っていた書類を天明と名乗る女性に突き出す。
「これはなんだ、
明らかに偽造だろ!」
「俺はこんなものにサインした覚えもないし、
契約金など受け取ってない!」
すると、「そうですかぁ?」と書類を見直し、何処かに連絡する天明。
しばらくして
「ええと、契約書を持っていった担当者によると、
あなたの会社の社長だと名乗る方が、自社で積極的に業務として遂行するように
しますとおっしゃっていたようで。
その時点で七福源治丸さんの立場をフリーランスの契約社員に変更されたようです。
自社が責任をもって仲介するし、報酬も自社で出すので心配無用だということだったようです。
その際、仲介料を幾ばくか取る可能性を示唆されていましたが、必ず説得すると言うお話だったので
七福さんの契約をお任せしたようです。
なにか貴方に我が社の契約書とか所属する会社から連絡を受けていませんか?」
いや、まさか!
思い当たらないぞ、、
うん?たしか㊙の取引で何か書類を提示されたような?
破談になったはずだが、
その後何もないしなぁ
ちょっと待てよ、会社対応の取引でなく私個人への書類だったら・・・
フリーランス??
「俺はとっくに解雇されてて、個人事業主扱いだったてか!
仲介料だとぉぉぉ」
「一体契約金っていくらなんだ!」
天明さんはちょっと慌てて、再びスマホに目を向け
「事前契約で3億円ですね。1年間でこれだけの金額を稼げるとはそうそうないですよ!
おすすめですよ」
とニコニコ笑いながら、さも、おめでたいことのように言った。
私はわなわなと震えながら、
「宝くじ1等直撃か!」と叫び、
「俺はこんな話は受けていないぞ!
騙した社長に差し戻す。
契約はなしだ!」
と続ける。
ちょっと困った顔を浮かべる天明さんは、「ちょっと法務部へ連絡します。」と言ってスマホで連絡を取り始める。
またしばらくの間があく。
その間、私の頭の中で会社の同僚や上司の顔がぐるぐる回る。
スマホでのやり取りを終えた天明さんが再び口を開く。
「今回の件ですが
我が社の見解としては、七福様はフリーランスとして
我が社のプロジェクトに参加したことになっています。
契約的には、七福様の前職である〇〇社を仲介者としたものであり、○○社でのやり取りでは
この時点でフリーランスへの雇用形態の変更に本人の同意は取っているとのこと。
書類等も我が社の人事部が確認しています。」
「フリーランス契約への移行は、会社として一社員に多額の報酬を与えることはできないため
本職を一時的な休業として副業を認める措置を取るとのことでした。」
「また本プロジェクトへの参加は、あくまで当人の意思を確認する必要性があり、本業としての業務
にあまりにも差異があるため、会社として責任は取れないとのこと。
なので、あくまで会社は仲介するだけであり、その場合、少々の仲介料を取ることもあると説明された
ようです。
ただ、会社にとって大事な社員である七福様を放り出すのは、無責任すぎると言われかねないため
会社の経理部門がバックアップします。多額の所得税などが発生するも、あくまで限定的な期間。
会社への復帰時に齟齬が生じないよう配慮したい。その点で一時的に契約金の受け渡しを会社が担当
すると新たに制作した仲介契約書には書かれています。」
「また我が社としても、今回のプロジェクトは失敗できないものであり
より万全を期して、確実と思われる仲介者を通したそうです。」
「今回のプロジェクト参加には、なんらかの悪意が関与しているようですが、
当社としては、個人事業主である七福様に契約の履行をお願いしたいと考えています。」
「法的な対応としましては、我が社は善意の第三者としての認識であり、
契約の不履行に対しては、事前にお渡しした契約金と今月の給与手当分の返還を求めます。」
冷静に話す顔は穏やかだが、目には氷のような冷めた色が浮かぶスーツ姿の天明さん。
「そんな金はない!
くそ、今から社長に直談判だ!」
そして、月日が少し進み、
「いない、いないぞ!
どうなってる、会社が廃業したけど
社長はおろか、あの狸課長、同僚まで誰もいない・・・」
「どうなってるんだ!
会社が存在した痕跡がない、公的記録はあるのに、全員引っ越している。
行き先は、個人情報の保護が理由で答えてもらえない。
ばかな、、」
心の中に混乱の嵐が荒れ狂い、顔は真っ青な私に
「どうなっているのか、分かりませんが
我が社のプロジェクトに参加いただけるのでしょうか?
そろそろお答えいただかないとプロジェクトの開始期限が迫っていますので」
相変わらず惚けているのかクールなのか分からない天明さん。
騙された、、
というか、どうなってるんだ!
私の記憶がおかしいのか???
3億だとっ
払えるか!
というか、私のせいじゃないぞ!
連日、焦燥に駆られ動揺の大乱に見舞われていた私にも、限界が来ていた。
自分のせいではない借金だが、法律では支払い義務があるらしい、、
こいつら、グルじゃないのか!
しかし、契約書は揃っており、該当日にフリーランスの手続きすら終わっている、、
存在の痕跡がない会社の手続きなんて有効なのか???
相手は大会社らしい、訴えようにもこちらは無職、貯金もない、、
くそ、選択の余地がない。
「貴社のプロジェクトに参加させていただきます。」
そう苦々しい声で答えた私に
「惑星地球、人の可能性は星に到達できるか?
研究プロジェクト ”人の可能性を探求、あなたを総理にしてみました!”への
ご参加有難うございます。」
「本ご回答をもって、
プロジェクトを開始いたします。
なお、当プロジェクトにおいて、私がメインでサポートをさせていただきます。
名を天明かぐらと申します。改めて1年間よろしくお願いいたします。」
風雲急を告げる地球の情勢。
そこに新たな光が舞い降りる。
人の可能性を見つける旅路が密かに始まったのであった。
黒い蝙蝠の翼を持つ何か
「色々と工作したようだが、
それでも人間というものは、変わらんよ。」
光を放つ白い翼持つ誰か
「そうでしょうか?
今は暗く感じても、光を忘れない、
そういう特質を、人は持っていると思いますよ。」
” 慌てるな、答え合わせは、始まったばかりである。 ”




