第18話 歴史と伝承
変なことを言いだした小野寺所長。
天明さんは、はじまったかぁと呆れ顔だ。
「日本国の発祥、
それは確かに邪馬台国を盟主とした紀元3世紀頃の国家群だ。
当時は倭という名だったが、
主は邪馬台国を率いた卑弥呼の名で知られる女王だ。
彼女は、鬼道に通じ、数多の不可思議を扱ったとされる。」
「そして、6世紀頃になってヤマト王権が、この島国で覇権を握り、
国の名を「日本」と改め、その王は、天皇を名乗るようになった。」
「君も知っているだろうが、日出る国から、云々の逸話はこの辺りの時代だ」
しかしな!と勢いよく、こちらに身を乗り出し語る小野寺所長。
「ここで、ある古文書がある。
日本書紀や古事記といった文書だ。」
「当時の王権を確かにするための物だと考えられているが、
なぜ、系譜や治世の様子まで必要なのか?
疑問ではないかね?」
「そもそもから、当時の識字率は低いものだろう。
王権を主張するために、漢文で発布するにしても
当時の地方豪族たちが読めるのかな?
そして、読めたとして何か影響があると思うかね。
当時は、今のような情報社会ではないのだよ。
間諜はいただろうが、その内容にどんな意味があるのかね。
民草は字を読めず、大儀など、その書から読み解けない。
大量に写本するとして、誰に何のために発行するのかな?
当時は、確かに情報社会ではないし、字も普及していない。
しかし、豪族たちや民草の口伝自体はあったはずだ。
王たる者が、どこの出身か?
そんなことは、近隣の者たちなら、誰もが知っていただろう。
現在のような遠き未来ではない、当の王は今そこに生きていたのだからな」
「また諸外国に対し、律令を重んじる国家であり、
国主としての天皇の正当性を主張する。」
「なるほど、まだ、他が歴史の浅い部族の集まりなら別だが、
当時、近隣国家として、中華文明の一つにあたる隋や、
朝鮮半島では、高句麗、新羅、百済の三国が相争っていた。
彼らは、当時の日本を凌ぐ国家だ。
海を渡らなければならないが、それでも交流があったはずだ。
故に、突然現れた隣国の王に、呆れていたかもしれん。
なにせ、国を興したかと思えば、
30代に渡る治世を記した文書が出てくるわけだからな。
初代神武天皇から30代、そんな古き血統なら、
今まで多少の付き合いがあったはず。
確かに、他国は動乱の時代を経ている。
だが、それゆえに、他国の動向には気を配ってきたはずだ。
それにだ、そもそも簡単には行き来できないがゆえに、
他国での日本の情報は、最新ではないものだ。
つまり、探せば、以前付き合いのあった倭国の書状が出てくる。」
「これでは、王の血統の正当性を示す!という大儀が逆に悪用されかねない。
そう、今まで語ってきたことは、逆に受け取れば、
天皇の出自が疑われ、反逆の徒を生み出しかねない。」
「そう、王は力を持って、王となった!
その主張で当時は良かったはずだ。
王とは、神からその力を授かった者。
統治を任された初代であり、その血を繋ぐ開祖。
これが本来の、王権神授なのだからな。」
「しかし、なぜか、天皇を名乗った初代の大王は
自身の系統に当たる先祖を、開祖とした。」
「ふむ、血統が続いていることは分かるが、
それが神に連なる血統と呼ぶのはどうだろうか?
日本を統治していた歴史?
他国にそれを語るのは、無謀ではないかね。」
「明らかに、卑弥呼女王などが、いるわけなのだ。過去にはな。」
と並々ならぬ熱量を持って語る小野寺所長。
「正直、国内向けとしても、近隣諸国向けとしても、少し矛盾する資料だ。
神代からの治世など、
他の豪族や、当時既に文明が開けていた諸外国に対して
受け入れられるものとは思えない。」
「当時はまだ、今と違って、
その真偽を立証できる文書等が多く残っていたはず。」
そこで、ここからが、私独自の研究成果なのだが、と息を整えながら続ける彼。
「私は、例え時代が古くとも、人は見たもの以外は信じないと思っている。
そう、柳の下に幽霊が!というが、そもそも、それは見間違えとはいえ
誰かが目撃したものだ。」
「そう実際に見たから信じたのだ。
他の者は笑っただろうがな。」
「当時の天皇が、その血筋が、本当に神に通じると思わせる
何かを所持していたならば、
なんでもいい、当時の人間を納得させる何かを、
その口から疑問が上ることのない何かをもって、
神の血筋を正当化したならば」
今まで饒舌に語っていた小野寺所長は、手をを振り、所長室を出る。
着いてこいというのか?
あああ、と面倒くさそうな天明さん
私と彼女は、小野寺所長の後に続く。
3階奥にエレベータがあった。
全員乗ったあと、小野寺所長は、自身の身分証をセンサーらしきものに翳す。
すると、エレベータが動き出した。
地下2階で止まり、再び歩き出す彼に、黙って付いていく私達。
防護服を着た何人かの研究員が見える。
何か近未来的な場所だったが、
先頭を行く小野寺所長は振り向きもせず、奥の頑丈な扉の元へ。
二重扉を抜けた先には、周りに各種センサーが取り付けられ、
中央に固定された物体。
そこには、金属の台座に固定された、
古風だが、目を引きつけて離さない輝きを放つ、
一振りの刀があった。
小野寺所長が、再び言葉をかけてくる。
「九州のある古代遺跡で発見された。
いくつかの文献と共に、安置されているコレを見たときは
驚いたよ。」
「古文書によれば
かつて旅人が、鬼を切ったとされるものだそうだ。」
「銘も綴られていた。」
「名を 八門雪花・鬼童切 と言うそうだ」
小野寺所長の声と同時に、少し、刀が煌めいた!
気がした。
小野寺所長については、こういう人と言うことでお願いいたします。
あと、作中の㊙な刀はオーパーツの一種です。
今良く知られている反りのある刀は、平安時代中期から出てきた古刀というものです。




