第16話 警告
昨日、天明さんから、彼女の職場への訪問を提案され、
私は、とりあえず、その誘いを受けることにした。
短い間ながら立て続けに、
不可思議な事件に巻き込まれた私だが、
その一因になっているのが、彼女が所属する組織ではないか?
と思ったからだ。
実際、私は彼女たちと会う前は、
こんなオカルトめいた話とは無縁だった。
まあ、私が勤めていた会社自体も、
おかしかったのではないか?
そんな気もするがな。
とにかく、今日は、天明さんの職場に、
訪問することになった。
果たして、どんな職場なのだろう?
朝、身嗜みを整え、朝食の食パンに嚙り付き、
カップに注いだ水で飲み込む。
うん、何かカスカスと乾燥しているパンだな、
しかも何か薄くなったようだ。
朝食に対し、率直な感想が頭に浮かぶ。
後1か月の我慢だ!私は、そう自分に言い聞かせる。
食事を終えた私は、歯ブラシ片手に、
朝のニュース番組を視聴する。
山火事に、殺人事件、そして
相変わらず石油不安が話題に上がっていた。
それにしても、最近、火事多いな。
何か、水不足とか言っているし、
そもそもから纏まった雨が、降っていないようだ。
木なんかが、乾燥して燃えやすくなっているのかもな。
しばらく、テレビを見ていた私だったが、
スマホで時刻を確認すると
今は、午前8時30分、天明さんとの待ち合わせまで、
あと少しだ。
そう思っていると、隣の部屋に、訪問者が来たようだ。
相変わらず、
どんどんどんっというドアを叩く音がする。
まあクランベリーさんのところに、
訪ねてきた天明さんだろう。
何か話声がして、我が家の前に移動してくる気配を感じた。
再び、乱打されるドア。今度は我が家だ。
どんっどんっどんっ。
しかし、天明さんはいつの時代の人なのだろうか?
今時、チャイムはおろか、
セキュリティの高いところなら、
モニター付きインターホンなんかが付いている。
ドアを叩いて、訪問を告げる場所なんて、今は少数派だ。
頭を振って、玄関のドアを開ける私。
「おはようございます、天明さん。
ドアを叩く前にチャイムを鳴らしましょうね。」
やんわりと皮肉を混ぜた私の挨拶に、
「おはようございます!
七福さん、迎えに来ましたよぉ
今日はよろしくです。」
何が楽しいのか、元気に挨拶を返してくる彼女。
「おはよう、七福殿。」
と彼女の隣から朝の挨拶をかけてくるクランベリーさん。
「おはようございます、クランベリーさん」
続けて、朝の挨拶を返した私に、
天明さんが今日の予定を切り出してきた。
「七福さん、今日は職場見学ということで、
これから電車で移動します。」
「実は、今聞いたんですが、
今日アテナは、所用で他県に出張になるそうで
同行できないそうです。
今回は、わたしがしっかりご案内しますので、
どうかよろしくお願いします。
身辺警護に各種サポート、何でもお任せくださいね。」
”ふふん、わたしもやればできるんです”と胸を張る天明さん。
「七福殿、すまない。
今日は、名古屋のほうで、
我が社の重役による会議があるんだ。
最近起こっている事件について、意見交換するためのもので、
警備の専門家として、現場の話も参考にしたいということなんだ。
私も一応、警備部門で主任を務めているしな。」
”それに、最近、不可思議な事件に関わっただろう、
アレについての報告もあるんだ”
とは、クランベリーさんの言葉。
「それでは、出発しますよぉ!
じゃ、アテナも気を付けて。
七福さんはこっちです。」
私と天明さんは、歩きで最寄りの駅へ、
クランベリーさんはまだ出かけないで
アパートへと帰っていった。
駅までそんなに距離はない。
定期券を持つ天明さんは、
私に電車の切符を渡してくる。
行先は、”京都府 京都市内”。
切符から読み取れる情報から、今日は京都に行くようだ。
語呂がいいとか思うのは、私がおっさんだからか。。。
それほど待たずにホームへ乗車する電車は、やってきた。
大都市とは違って、朝の満員電車などとは、
無縁な我が第2の故郷。
しかし、京都が近くなると乗客が、徐々に増えてくる。
学生は少数いるが、時間的に大丈夫なのか?
一番多いのは、やはりサラリーマンだろう。
これから出勤とは時間が少し遅いし考えにくいが、
取引先へ行くのなら、丁度いいのかもしれない。
京都駅で下りた一行は、ここで乗り換えだ。
天明さんが、ここから地下鉄に乗るというので
彼女の後ろを着いていく。
混雑するホーム、
丁度入ってきた電車から人が溢れてきた。
人の流れに巻き込まれた私は、一時的に彼女を見失う。
ザワッ_____
妙な感覚と共に、人の動きが止まった。
モノクロに色を失ったホームで、
しっかりとこちらを見つめる目に、気が付いた私。
眼差しの主は、サラリーマンや観光客で
溢れるホームでは浮いて見えるだろう
古風で豪奢な着物を身に着けた女性だった。
十二単だったか、
平安貴族の装いを思わせる着物が目に入る。
全体的な印象が、朧気で、
衣装は比較的はっきり認識できるが、
それを身に着けている女性の印象が曖昧で捉えられない。
しかし、私を見つめるその目は、強烈な存在感を放っている。
”フフフ、コンナトコロニ、オカシナニンゲンガオルワ”
”イヤ、オカシイノハ、コノモノニツイタウンメイカ”
”マコト、フビンヨナ”
頭に直接話しかけられているような?
こういうことに、少し慣れてきたと思っていた私だったが、
いきなり起こった出来事に、背筋にヒヤリとした感覚を覚えた。
”マレビトヨ、ヨクヨクキヲツケルコトダナ”
”コンナトキニ、コノチヲオトズレルハ”
”マコトフビンジャ”
サァァァァァ___
辺りに清浄な風が流れ、ホームに人の気配が戻った。
混雑するホーム。
人の波をかき分けて、私を見つけた天明さんが寄ってきた。
「七福さん、大丈夫ですか?
顔色が悪いですよ、どうかしたんですか?」
心配そうに、言葉を掛けてくる天明さんに、
「ちょっとな、、」と被りを振る私。
相談した方がいいだろうと思う私だったが、
周りに人の目がある今、この場所は適切ではないだろう。
そのまま、地下鉄に乗り、終点で下りた一行。
歩いて、天明さんの職場へ向かう。
繁華街を過ぎた山側にある閑散とした場所の一角に、
目指す場所はあった。
「ここですよぉ。」と、天明さんが指し示すその場所は、
3階ほどの高さの広く長方形な建造物、
そして、それに加えた駐車場。
工場ほどではないが、それなりの敷地を持つ施設だった。
そう、「施設」なのだ。
その名も
「古代人類史社会理科学研究所 京都支部」
社会科学は聞いたことがあるし、
歴史について調べる考古学科もあるだろう。
しかし、この施設には、
それらをミックスさせたような名前が付けられている。
「また、おかしな所に連れてこられたなあ」
この時、ホームの出来事を、私は忘れていた。
それは、この地で起こることを知らせる、
大事な前触れだったにもかかわらず。




