第14話 (株)ガイア神話連盟という企業
招待状を私に渡した天明さんは、
クランベリーさんと共に会社へと帰っていった。
返答は、今すぐにしなくていいとの事。
ただ、会社の上司の都合もあるので、
1週間以内には、答えを出してほしいそうだ。
その際、”会社のことについて、よくわからないのだが?”
と天明さんに尋ねると
「ああっ、そう言えば、そうかもしれませんね!
日本の企業には沢山、出資しているはずですが、
一般の方には、良く知られていないかもです。」
「一応、わたしが勤めている会社は、
外資系で、エンターテイメントに力を注いでいますよぉ」
例のヘッドバンド用とは、別の鞄から取り出したパンフレットを、
私に渡してきた。
”いろいろ、会社が、出資している企業がのっていますよぉ”
”ぜひ参考にしてください”
天明さんたちは、そんな言葉を後に部屋を去っていった。
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部屋の掃除を再開した私だが、
よくよく見ると、ゴミ袋の中は、
カップ麺の容器と菓子パンの袋ばかりだ。
会社にいた時代は、外で食べることの多かった私だが
今は金もないし、本格的に自炊を考えた方がいいかもしれない。
ただ、自炊だから出費が抑えられると思うのは、早計だ。
ちゃんと材料の値段を見ながら、メニューを考えていかないと
逆に、出費が嵩む結果になる。
そう食べたいものを考え、メニューを立てるのではなく
今安い素材を選び、購入することで出費は抑えられる。
ぐつぐつと長時間煮込む料理なんかも、
無職な今なら出来るが、光熱費を考えれば、
それは無駄に当たる行為だ。
美味しいは、お腹は満足させられても、
財布と連動する心の寒さを癒せないのだ。
カップ麺は税抜98円、菓子パンも同じく税抜98円だ。
朝、食パンと水、昼はカップ麺、そして菓子パンを2つ齧る。
正直、栄養バランスや健康への影響は度外視している。
この節約生活は、あくまで後一か月のみ。
同僚2人が通う謎の企業から、
月末には報酬が得られるはずだ!
一応、研修という名の出張時には、
女性2人の趣向から、美味しい店での食事が得られている。
2人とも非常によく食べるので、
毎日、こんな生活で空腹なはずの私でも、
その量についていけないほどだった。
さて、掃除も終わり、
今日は近くのドラッグストアに行くとしよう。
普通のスーパーは、食料品で利益を出しているところが多い。
しかし、ドラッグストアは、安い食料品を目玉にして
お客を呼び寄せているところがある。
ドラッグストアの利益は、各種薬剤や日用品。
そもそも、薬剤を売って、
利益を上げていた街の薬局の発展形がドラッグストアなのだ。
最初は、メインである薬剤を売るために、
置いていた歯ブラシや歯磨き粉、さらにトイレットペーパー
だんだん、商品の幅が増えて、化粧品や日用品が追加され、
今ではお酒から生鮮食料品まで置いている。
もはや、総合スーパーと変わらない商品のラインナップ。
しかし、スーパーと違うのは、
それらは、あくまで薬剤を売るための客寄せであり
リピーターを作るための商品なのだ。
つまり、利益率が多少悪くとも、
価格を安価に抑えて売っている。
この物価高の世の中で、救世主的な存在なのだ。
ちなみに、大都市部には、
薄利多売で儲けを削ってくれる良心的な店も存在する。
しかし、私のいる市は、あくまで地方であり、
人口はそれほど多くない。
商品棚を一杯にして、売れ残る商品を毎日抱えては、
安くできるわけもない。
棚に必要な分だけ置けばいいって。
それはできない。
商品棚の空白は、
その店の経営事情が芳しくないと疑われる要因だ。
地方において、経営難が発覚し、
そんなことはないと信じたいが、
このお店、売れ残りの商品を置いていると思われたり、
この野菜やお肉、新鮮でないのでは?
なんて思われたら致命的である。
そんな素振りを少しも見せないように、
ちゃんと商品棚を埋めておく。
これが、地方の食料品店の鉄則である。
ちなみに、物がよく売れているお店は、また別なのだが。
繁盛している噂も、地方では早く伝わるので
そういう場合は、反対に棚が開いていてもいいわけだ。
それは、売れている証拠だから。
さて、食料品を今回は買ってきた。
バラの豚肉200gパックと白菜を2分の1サイズひとつ。
安売りだった。
米はない。あと1か月は買えないのだ。
さて、この二つの具材で、鍋にしよう。
一人なら2食分ある。
買ってきた食材を冷蔵庫に入れ、
改めて、天明さんが渡してきたパンフレットを見てみる。
(株)ガイア神話連盟 日本支部
ふむ、その事業主体は、
エンターテイメント業界をターゲットに展開しているようだ。
様々なアニメやゲームの制作会社大手や、
中小の零細企業にも投資している。
書籍出版事業等にも力を入れており、
音楽事業にも手を広げているみたいだな。
ただし、直接、自社で制作などの部門を
抱えているわけではないようだ。
つまり、(株)ガイア神話連盟は、
エンタメ系を主な投資先と据えている外資系ファンドなのだろう。
かなりの利益を得ているのか?
投資先には、おっさんな私でも、聞いたことがある会社がある。
ペラペラとパンフレットを捲っていくと、
デカいビルと会社理念とか書かれている。
ふむ、単なる利益目的の投資ファンドではなく、
日本のエンタメ業界を大きく
育成・支援することが目的のようだ。
赤字業務の立て直しなどに、無償資金提供をしているらしい。
ピンポーン、
その時、チャイムが鳴った。
外を見ると既に夕方のようだ。
「はーい!」
返事をして、玄関に行く。
最初の頃は、
よく「新聞と宗教はお断りだ!」というセリフが出ていたが、
近頃は、若い同僚が出来たので、私も丸くなった。
ドアを開けてみれば、
クランベリーさんが、ビールと何かの袋を持っていた。
「七福殿、今、お邪魔だろうか?」
そう切り出した彼女は、袋を見せて
「唐揚げを買ってきたのだ」と言う。
ついでに、ビールもあるそうだ。
「監査官殿に聞いたのだが、お金を持ち逃げされたとか。
酷いものだな!
それで、菓子パンばかりだったのか。」
と続ける。
なるほど、契約金や初回の月給の顛末を、
天明さんから聞いたのか?
「いや、なんでもない。
確かに、苦い思いをしましたが、今は割と楽しいですから。」
と返すと
「ふふ、それは良かった。」
珍しく柔らかい笑顔で呟いた彼女だったが、
「いや、お金の持ち逃げは、悪いことだぞ! もっと怒っていい」
と仕切りに訂正する。
続けて、
「それでは、夕食をどうだ?」と聞いてくる彼女。
それならと、こちらも鍋を提供することに
1時間後に、と示し合わせ、彼女は隣へと入っていった。
ううん、唐揚げがあるなら、熱いうちに食べたほうが良かったか?
そう思いながら、冷蔵庫から白菜と豚肉を取り出す。
少々小ぶりの鍋に千切った白菜を入れ、
豚肉を適当に切ったものを乗せる。
あとは蓋をして弱火で煮込むのだ。
水など入れずとも、白菜から水分が出て、豚肉の脂身と溶け合い自然と味が出る。
30分後、とろりと柔らかくなった白菜と豚肉の鍋が完成した。
テーブルを置き、皿は?
ああ、紙皿が余ってた、
少し後に、チャイムが鳴り、クランベリーさんが訪ねてきた。
唐揚げは、電子レンジで温めたようで熱々だ。
冷えたビールと鍋に、唐揚げ。
紙皿に、醤油と洋からしを入れ、混ぜる。
鍋の白菜や豚肉を、つけて食べるのだ。
唐揚げを食べながら、鍋をつつく私とクランベリーさん。
ビールを飲むのは、久しぶりだ。
まあ、あまり普段、酒は飲まないのだが。
クランベリーさんが、語る唐揚げを買った顛末は
面白いものだった。
どうやら、天明さんが、専門店を紹介したらしいのだが、
彼女は、配送サービスの届け先を、会社にしていたようで、
クランベリーさんは、唐揚げが届くまで、
会社で待つ羽目になったそうだ。
その行動に、本気で呆れたのか、
今日の彼女は、表情豊かに笑ったり、怒ったり。
天明さんとクランベリーさんは、結構長い付き合いなのか?
色々な彼女たちの昔話をしてくれた。
主に、天明さんの仕出かしたぶっ飛んだ話に、
付き合った結果みたいだが。
話題は、招待状に及ぶ。
そう言えば、この招待状、誰からなんだ?
ふと、封筒の差出人を見る。
会社であることは分かっていたが、
誰に会いに行くのかは、気にしていなかった。
差出人、エンターテイメント投資促進部 部長 鳴神 英雄
とそこには記入されていた。




