第11話 第2回研修2日目 VS地獄の猟犬
思いもよらぬ、敵とのエンカウント。
最初に動いたのは、ヘルハウンドのほうだった。
真っ直ぐに、一行の一番前にいるクランベリーさんに向かって疾走してくる。
一方、クランベリーさんは、巨大クマ戦で見せた不思議な光を纏い、
相対する敵を迎撃しようと、姿勢を低く保つ。
「七福殿、後ろは見るな!
私がアレを引き付ける。
合図したら、社に走れ。
建物に籠れば、野犬どもだけなら、そう簡単に襲ってこれない。」
「監査官殿、申し訳ないが、七福殿と社に!」
立て続けに、私達に指示を出すクランベリーさん。
「アテナさん、気を付けて!
無茶は止めてくださいね、
まだ本来の力は出ないのですから!」
天明さんはクランベリーさんに意味深なことを伝え、
私の手を握る。
接敵、、、
充分に近づいたヘルハウンドが、クランベリーさん目掛けて跳躍。
クランベリーさんは、拳を握り込み、襲ってくる敵に対してカウンターを決めようとする。
ズンッッ___
ヘルハウンドの顔を横殴りしたクランベリーさんだったが、
殴り飛ばすほどの威力はなかったらしい。
跳びかかった勢いを双方殺せず、一人と一頭は後ろへと転がり飛ばされる。
どうなったのか?
目を凝らして、クランベリーさんの無事を確認しようとした私だったが、
「行け、七福殿!」
彼女の叫ぶ声が聞こえる。
「行きますよ、七福さん!」
すぐさま反応した天明さんが、私の手を引く。
後ろで待ち構えていた野犬たちが、一斉に私達へ向かって走りだした。
社は、山頂にあり、三方が、切り立った崖か、急斜面である。
今まで進んできた山道側さえ押さえれば、袋の鼠になるため、
野犬たちは私達が不意を突いて、万が一にも横面をすり抜けたりしないよう、
走る速度を抑えながら、慎重に距離を詰めてきている。
統制が執れた野犬たちの行動が、今回は私たちに味方した。
クランベリーさんが無事なのか、気になるが、
今は彼女が作ってくれた隙を無駄にしないよう、必死に走り抜ける。
そんな私達は、何とか野犬たちに追い付かれる前に、社の中へと駆け込むことが出来た。
幸いにして、社の扉に鍵は掛かっていなかった。
中に入ると同時に扉を閉める天明さん。
向かってきた野犬たちの一頭が、扉にぶち当たり悲鳴をあげる。
この社殿、一般的な人のいる神社より小さく狭い。
社殿と言っても、ご神体を奉納しておくだけのスペースしかないようだ。
しかし、社殿そのものは、石造り。
扉も古いが、金属製らしい。
ヘルハウンドが襲ってくればあっさり壊されるだろうが、
取り巻きである野犬たちなら十分な壁となるだろう。
と、思っていた時期もありました!
ちきしょう!
野犬たちの体当たりで、錆びた扉の留め具が壊れそうだ!
一緒にいる天明さんは、何か息を整えて瞑想中のようだ。
くそ、どこかに武器になるものはないか!
罰当たりだが、その辺を物色していると
中心に奉納されているご本尊に目を引かれる。
長い古い木の箱を開けると、鮮やかに染め上げられた布があった。
取り出してみれば、布は何かを包んでいるようだ。
1mほどの長さがあるし、ずしりと重い。
手早く布を解いて行けば、鈍い光を放つ錫杖のようなものが出てきた。
”霊的エネルギーを確認”
”形状:ワンド 道具名称:登録なし:識別不能”
”スキャン開始:霊的残滓を検知”
”物体の詳細を推測”
・・・
”人界由来の旧式霊装のレプリカと判断”
”霊装の起動を試しますか?”
ガゴンッッ!
金属製の扉が倒れてきた!
くっ
野犬の中でもとりわけ大きなやつが、襲ってきた!
くそっ何でもいい、
「やれぇぇぇ!」
錫杖を振りかぶり、狂犬に向かって叩きつける!
バチンッ!
スタンガンのように、錫杖に青い電気が奔る。
「ギャンンン、、」
悲鳴を上げて、転げる狂犬。
しかし、破られた扉から社殿の中へと何匹もの狂える野犬が入ってくる。
まだだめだ!
再び、錫杖を振るうが、今度は何も起こらない!
”霊的エネルギーが枯渇しました。”
”霊装の機能消失を確認”
さっきから、色々なメッセージを送ってくるが、最後にこれかあああ。
「悪しきものよ、その名を告げよ。」
この最悪の状況で、見知った女性の声が響く、
社殿の奥、扉の反対側で瞑想していた天明さんか!
思わずそちらをみると、
かっちりとした高価そうな白いスーツを着込んだ長い髪の天明さんが、白い光を放っていた。
私達を襲おうと入ってきた野犬らは、低く唸りながら、ジリジリと後ろへ下がり始める。
「真名を述べよ!」
強く凛とした命令口調の白天明さん。
”チッッ___コンナトコロデ___ホロビルワケニハ___”
” 名乗れないのですね ” 静かな声がする。
「法則破りし、愚か者に裁きを!」
突然、旋風が巻き起こり、10匹以上いた野犬が吹き飛ばされる!
荒れ狂う風が、暗い空を疾走し乱舞する。
台風のような強風は、なぜか私や天明さんには影響がなかった。
春としては、蒼く澄み渡る快晴の空。
さっきまで闇が立ち込めていたのが噓のようだ。
ーーーーーー時間は遡る
カウンター気味に、拳を当てた私だったが、
この魔獣に対しては、威力不足だったようだ。
巨体に任せて、吹き飛ばされてしまった。
それでも
「行け、七福殿!」
と叫び、合図を送った。
監査官殿もいる。
あちらは、なんとかなるだろう。
しかし、こんな危険な状況で護衛対象の傍から離れることになるとは。
本来ならこの程度の魔獣など相手にならない。
しかし、この地を去り、その間に信仰を失った今の私では、十全な力は振るえない。
「ふん、それでも」
短い付き合いだが、今回のプロジェクトの対象である七福という男性は、なかなか面白い。
まだ監査官である天明や私に、心を開いているわけではないはずだ。
親しく接している天明にも、私にも敬語で接しているし、
そもそも、私達に対して懐疑的な行動も見受けられる。
ただ、今日、クマという原生生物との戦いでは、かなり驚かせてしまったはずだ。
そもそも、人間というものは、殊更に未知を嫌う。
例え、それが善性を帯びていたとしても、大きな力が、次に自分に向けられたら?
そんな憶測が、不安を呼び起こすらしい。
その昔、私たちを崇めた者たちも、その実、この力に恐怖を覚えて従っていた。
だが、今回、七福という人間は、私を怖がらなかった。
初めは畏怖というのか、そんな感情が顔から読み取れたが、すぐにそれらは消え去った。
押し隠したのではないようだ。
ふふっ、まさか私が、人に心配される日がこようとはな!
面白いことはあるものだ。
しばらくは付き合ってみよう。
さて、この駄犬に、神罰を下さなければな!
ヘルハウンドは、唸り声をあげてはいるが、及び腰だ。
私との力量差を今頃になって、感じているようだ。
寄りにもよって、私に恥をかかせるとは。
七福の護衛であり、不思議な力を持つ訳アリの金髪美女アテナ・クランベリー。
その姿は、今や明確な眩い光に包まれていた。
「まだまだだが、これで十分だな」
いつもの口調、輝く光を除けば、彼女の姿は変わってはいない。
しかし、その雰囲気は、凛々しき誰かに酷似している。
太古の昔、その姿を見たものがいれば、雰囲気からでも理解できるだろう。
今はもう見た者はいない。
「それ!」と振るった手から稲妻が奔る。
地獄の猟犬は、その一撃で四散してしまった。
その体躯は、塵となりどこかへ消えていった。
「ふぅ、少し力を使った。
ここの後始末をしないとな。
七福殿と監査官殿は無事だろうか?」
彼女は、今すぐ駆け付けるべきか?と思案するも
天明がついていれば大丈夫だろう と思いなおす。
しばらく、ヘルハウンドがなぜ現れたのか?辺りを探ってみる。
あの猟犬を倒したのに、闇が辺りを覆っている。
まだ、何かいるかもしれない。
七福にとって、野犬などより本当の危険が、まだあるかもしれないのだ。
護衛としては見過ごせない。
チ____
ぶわぁぁぁぁ!
激しい突風が、辺りを覆っていた闇を吹き散らしていく
ふむ、終わったか。
「さて、七福殿と監査官殿のところに行くか。」
ーーーーーー
青空の下、昼食を食べる私達。
あの後、丁度、見晴らしのいい社の近くに陣取って、一息入れることにしたのだ。
白天明さんはすぐに引っ込み、
いつもの天明さんは、へらへらと私の追及を誤魔化し続けている。
クランベリーさんは、あのデカい猛獣を倒したそうだ。
うん、当たり前のように無傷なのだが、
どういう人なのだろうか?
「美味しいですねぇ、七福さんも早く食べたらどうですか?」
大きな弁当を左手で保持し、右手には数々の具材を掴む箸を構える。
クランベリーさんは、本当に昼食なのか?
何か、ショートケーキや、限定プリンなどのデザートが、数多く並べられていた。
どんどん消費される甘い甘いデザートたち。
私は、一人、菓子パンを齧る。
今回は山道、過酷な登山を予想して荷物を軽くした私だったのだが、
これが若さというやつか!
ちなみに、色々な意味で、社を破壊してしまった私達。
地元の市役所に出頭するべきかな。
警察行きは勘弁してもらいたい。




