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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第8章 八百万が集う、歴史から秘されし島
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第111話 人を護る力の真価 後編

私の術を無効化し、今だ隙なく構えるご本尊。


恐らく、人払いの術の影響で、

この寺の周辺は不可思議な深い霧に覆われた。


武術では敵いそうもないし、術も効かない。


この状況を覆すには、私も獲物を出すしかない。


しかし、超常の力を使ってはいるが、

相手は武器を持っているわけではない。


更に、このご本尊はその身ひとつで私と戦っている。


私の選択は、、


再び、拳を固め、私は慣れない武術の構えをとった。


長年、会社勤めで武道の経験などあるはずもない。


学生時代に遡ってもスポーツならまだしも、

本格的な武術など習ったこともない。


しかし、今までの経験と何となくであるが、

体捌きなどはそれなりにできている。


この身体には恐らく戦闘経験があるのだろう。


習ったこともない戦いに際しての構えや身のこなし、

何より決定的な場面での勘が働くのだ。


このご本尊は、今だ自ら攻撃には出ていない。


初めにこの場へと投げを打ったのは、

やはり場を移すためだろうか?


どちらにせよ、目の前のこのご本尊を退けるには、

攻撃を当て、無力化するしかないだろう。


活路を見つけようと観察しているが、

今の私の倍はある身長差と5対ある両腕の手数、

そして、3つの顔にある6つの目はあるゆる攻撃を見切るだろう。


正直、ご本尊の上半身への攻撃は無謀だ。


狙うは足元。


霊のような非物質に傾いた身体ではなく、

今は肉を纏うその身体。


3つの顔と10本の腕、

そして、それを支えるのは鍛えられて太くはあるが、

2本の脚である。


どう見ても、上半身にその重心が傾いている。


ただ、両足への攻撃を行っても大打撃は与えられない。


しかし、隙は出来るはずだ。


私は心を落ち着け、少しずつ間合いを詰める。


恐らく相手は私の攻撃時に起きる予兆を見ているはずだ。


更に武術の心得まであるみたいだ。


だが、今は超常的な能力を出さずにいる。

こちらに動きの予兆を見せないため。


ジリジリと間合いの限界を見極める私。


ご本尊からの攻撃は今だない。


そして、私は行動した。


身体の瞬発力を上げて、前方に構える左足へと攻撃を仕掛ける。


足払いを掛けようと放った私の蹴りを、

読んだように、すっと静かに足を引いて躱したご本尊。


そのまま、上半身を私の方へと傾けてくる。


手を伸ばし、覆い被さるような体勢になったご本尊に対し、

私は再び術を放った。


「 風の撃、打ち貫け! 」


” 風撃乱打 ”


至近距離からの風の乱打。


投げを打つため、

屈みこんだ状態でその攻撃を受けることになったご本尊。


そもそも、風撃乱打という術は至近距離専用の術だ。


中遠距離では、威力を減じるし、

そもそも幾つもの風の打撃を正確に制御するのは無理がある。


至近距離で手数に任せて、相手を圧倒する。


威力を上げ、手数を上げるために集中はするが、

その打撃は基本的に術者が意図する前方へと放たれるのみ。


ゆえに、覆い被さるようになった体勢はこちらに有利となる。


次々と襲い掛かる風の乱撃を、その多腕で捌こうとするご本尊。


しかし、その身体の大きさに見合った長さを持つ腕で、

しかも今の前傾姿勢では対処が間に合わない。


術ならではの打撃の発生場所。


細かな制御はできないが、

風の塊の幾つかは、相手の防御の内側で発生し襲い掛かった。


術は基本、拳による打撃のように振りかぶるような予備動作は不要。


その打撃は術であるため、予備動作がなくとも威力を減じない。


数発の直撃を受けたご本尊は、その体制を崩すもすぐ立て直そうと、

術の攻撃範囲から逃れるためか後ずさった。


しかし、その背後から私は蹴りを放つ!


もともと、あの風の乱打は体勢を崩すためのもの。


そして、その行動に隙を生むために放ったのだ。


風の打撃を被弾し、相手は体勢を崩した。


そして、私にとってそれで充分、

その隙をついて、私はご本尊の背後へと足元をすり抜けたのだ。


ご本尊の護りは鉄壁だった。


肉体の急所である顔を含む頭部分。


それを狙うにも、私の体格ではある程度の跳躍が必要だ。


そして、ご本尊の上半身はその5対の両腕による圧倒的な手数により、

完璧な守りを誇る。


さらに、足元は武道を身に着けている者にとって基本的な守りがある。


足捌きなどで私の急ごしらえの作戦が通用するわけもない。


私にあるのは、あくまで力を上乗せした身体能力と術なのだ。


ゆえに、再度、術によるはったりを仕掛けた。


本命は、その腕が届かぬ背後からの一撃。


背後に回り込んだ私は、完璧な体勢ではなかったが、

肉の身体であり、殊更にこちらの攻撃を避けていたご本尊。


体勢不備でもこの蹴りで、充分な効果があるはず!


6つの目も捉えられない背後からの奇襲。


しかし、その蹴りは届かなかった。


ご本尊は体勢を崩す中、その10ある手で印を結ぶ。


金色の光がご本尊を包み、


「 法力・異力導伝_解 」


そんな言葉が、発せられる。


その瞬間、背後で蹴りを放った私を幾多の風の乱打が襲った。


なっ!!!


それは、さっき吸い込まれた風撃か!


私は撃ちこまれる打撃に、意識を刈り取られた。




ーーーーーーーーーー




気が付くと、

お寺の社殿内に寝かされていた。


「起きましたよぉ!

 オリンさん。」


天明さんの間延びした声が辺りに響く。


私を診ていてくれたらしい天明さんと、

近くに座っていたのかオリンさんも顔をのぞかせた。


仰向けに寝かされていた私は、上体を起こす。


あいたた、、


ぐっ、最後のはキツかった。


身体の痛みは、異郷の道で負った傷ほどではないが、

それなりにダメージがあった。


辺りを見回すと、

ご本尊らは全て元通りの像に代わっていた。


”ふん、それなりに頑丈な娘だな。

ただ、力にまだまだ振り回されているようだ。”


”まあ、武器を抜かず、

相手に合わせる気概はまずは合格だ。”


”我らの相手は、あくまで力で推し通ってくる。

我らに必要なのは、排除するのではなく、

分かり合い、和を広げること。

それ無くば勝てぬ。”


”お主以外は、戦うこともしておらぬ”


”まだまだ、未熟よな。娘よ”


はああぁぁぁ!


私のこの傷は一体何のために負ったんだぁぁぁ___


心の叫びが、空しく響く。


聞こえているのは私だけだが。

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