第108話 古寺を慕う者
謎の品による異常現象は、オリンさんのお蔭で収まった。
今は、オリンさんの手から離れ、テーブルの中央に置かれている。
さて、この品については改めて右藤住職に聞くとして、
とりあえず、アテナさんの元へ行こう。
右藤住職達のことも心配だ。
蔵を離れ、中央の社殿のほうにやってきた。
しかし、アテナさんの姿も右藤住職の姿もない。
周辺を見回す私だったが、
「いなさそうですねぇ。
まあ、あんなことがありましたし、
母屋のほうじゃないでしょうかぁ?」
天明さんのそんな言葉に蔵の反対側の建物に目をやる。
うーん、確かに今の状態じゃ寺の仕事とかしないよなあ。
ここにはいないようだし、そちらを見に行こう。
母屋へ行くと、中から人の気配がする。
いや、普通に超感覚とかではなく、人が動く音がするのだ。
「すみません、七果です。
入ってもいいでしょうか?」
少し大きな声を出して、
中にいるはずの右藤住職やアテナさんに聞いてみる。
すると、右藤住職が顔を出した。
「おお、天明殿に七果殿、先程は助かった。
あの品はどうなりましたか?」
そんな右藤住職の言葉に、
「あの道具なら今は収まった。」
と、簡潔に答えるオリンさん。
「それは良かった。
ううん、天明殿。
こちらの方は?」
そう言えば、オリンさんの紹介はまだだったか。
「こちらの女性は、研究所のお客様でオリンと言います。
さっきのようなことに詳しい方です。」
天明さんの紹介を受け、
「右藤殿か、よろしくな。」
とオリンさんの短い挨拶が続く。
右藤住職もオリンさんに自己紹介を返していると、
奥からアテナさんがやって来た。
「右藤殿、簡単な食事を用意した。
ただ、一応病院に行った方がいい。
今回は職員の方たちも巻き込まれたようだしな。」
「かかりつけ医などはいるだろうか?
食事が終わったら、私が車で送って行こう。」
そんなアテナさんの申し出に、
「いえ、そこまでしていただく訳には。
車ならありますし、タクシーを使えば。」
右藤住職は遠慮しているのか、そう答えてくる。
「いや、今回の事で何かあると大変だ。
ああいう事は、身体の衰弱も心配だが、
精神の疲れも出るはずだ。
変な幻視を見る症状も出ることがあるからな。
本人達だけで行かない方がいい。」
アテナさんは少し強引に話を通す。
「しかし、寺の方を空けるわけには、、」
右藤住職の言葉に、
「それじゃ、わたし達がお留守番をしますよぉ。
長くかかっても夕方頃までですよねぇ。」
天明さんが留守を任せろと言い出す。
確かに、私達の用もあるし、
このまま、右藤住職達を放っておくわけにもいかない。
とりあえず、影響がないか、
お医者さんに診てもらった方がいいのも分かる。
初めは遠慮していた右藤住職もその必要性は認めているようで、
食事の後は、アテナさんの車で病院に行くことになった。
ちなみに食事を作ってくれたのは、アテナさんだった。
意外にも手際良く、人数分のうどんを作って振舞ってくれた。
材料は寺にあったようだ。
うどんは乾麺から茹でたものだったが、
出汁は、昆布や鰹節、醤油で作ったようだ。
うむ、最近は暑くなってきたが、それでも衰弱しているだろう、
右藤住職たちには温かくて、食べやすいもののほうがいいだろう。
あと、簡単なものといってはいたが、結構美味しい。
その後、アテナさんは右藤住職と職員さん達を連れて、
総合病院へと向かった。
さて、私達はお留守番だ。
お寺の仕事って何かあるんだ。
とりあえずは社殿の掃除とかかな?
まあ、留守番と言ってもそこまで期待はされていないだろうが。
母屋から社殿に移動した私達居残り組。
右藤住職達の感覚が確かなら数日間は放置されていた寺。
素人ながら、お寺の業務といえば朝早くに掃除とかあるはずだ。
天明さんにお寺の表方向の掃除を任せ、
社殿の雑巾がけをすることにした私。
オリンさんは社殿へと私の後をついてきた。
オリンさんと言えば、あの子犬?だが、
今は所長室に陣取って遊んでいたりする。
小野寺所長は気安い人であり、動物などにも詳しい。
フィールドワークではよく動物に出会うらしいし、
その扱いにも慣れているそうだ。
ううむ、この寺は重要文化財か何かだろうか?
この古くて重厚感のある廊下とか水拭きしていいのだろうか?
下手な素人知識で実行すると後が大変かもしれない。
ここは雑巾で乾拭きするか、、
とりあえず、ホコリとかを拭き取れれば及第点だろうし。
社殿の雑巾掛けを始めた私と社殿奥にある仏像に見入るオリンさん。
仏像を拭かないでいいのかって?
それこそ、素人が触ったら大変なことになる感じしかしない。
しばらく、掃除を続けていると、
外のほうで天明さんが参拝者の相手をしている声がする。
そして、
「七果さんー。
ちょっと来てくれませんかー。」
大きな声で天明さんが私を呼ぶ。
一体何事なのか?
声の方向に行くため、雑巾を置いて外側へと出ていく。
天明さんは、参拝者と思われるお爺さんお婆さんと話をしている。
「どうしたんですか?」
天明さんのところに近寄り、声を掛ける私。
「来ましたよぉ。
それではさっきの事を言ってみてくださいねぇ。」
と参拝しに来たであろうお爺さんたちに言い出した。
ううん?
何をやっているんだろう?
まだ戸惑っているお爺さんたちの中で、
一人のお婆さんが意を決したように、
「娘さん、お願いを聞いてくれるだろうか?
私達の孫が病気でな。
娘があちこちの病院を回っておるんじゃ。
どうか治してやってくれないか?」
と語り掛けてきた。
はああ、一体何のことなのだ。
そこで天明さんが、
「ほら、七果さん。
”願い、承った。良き知らせを待て”
ですよぉ。」
えっ、何言ってるの?
「早く、早く!」
そう急かす天明さん。
「ええと、
願い、承った。良き知らせを待て」
と言ってみるが、
「もっと力を込めて!」
と駄目出ししてくる天明さん。
はあ、何が何だか、、
私は精神を集中してみる。
すると、暑い空気を押し流し、清涼な風が吹くのを感じた。
何となく今だ、と思い再び声を発した私。
” 願い、承った。良き知らせを待て ”
それは声ならぬ頭に直接響く言葉となった。
その言葉を聞いたのか、お婆さんがハッとした顔をしている。
その近くで見ていたお爺さんたちも驚いている。
というか、私自身がびっくりしているのだが。
事情を聞くとこのお爺さんたちはご近所さんらしい。
そして、このお寺には不思議な事があると昔から評判だそうだ。
そんな中で娘さんの窮状を聞き、ここを参拝したそうだ。
駄目で元々、そんな感じではあったらしいのだが、
困ったな、あれは少し期待させたのではないかなあ。
何故か、拝まれてしまった私は天明さんと参拝者さんを見送る。
「どうするんですか!
私に病気なんて治せませんよ!
あの方たち、期待しちゃったんじゃないですか!」
と天明さんに少しきつく言葉を掛ける。
「ええ、七果さんは管理権限者ですよぉ。
わたしもですけど。
こういう地元の窮状などにも目を向けないと。」
答える天明さんの口調は軽い。
私が何か間違っているのか?
「はあ、自覚がないようですから言っておきますが、
七果さんは以前とは違うんですよぉ。
管理権限を持つ者は、人の運命を左右します。」
「所謂、幸運を呼び寄せ、願いを叶える感じの事が出来るんです。
皆がしている願い事ですが、
神がいちいち手順を踏んで対応できるわけないじゃないですか。
あれは権力者の鶴の一声と同じです。
管理権限を持つ者が便宜を図ると言えばそうなるんですよぉ。
それこそが幸運を呼び込む一声なんです。」
そう天明さんが答えてくるが、
「それって神様だからできるんじゃ、、」
と私は反論しようとして、
「アテナは、地球じゃ主神クラスの神様ですよぉ。
もちろん管理権限者ですねぇ。
一時的にこの地を離れたからその力が弱まってただけですよぉ。」
との丁寧なお言葉を天明さんからいただいた。
そうだった、、
神が実在するんだった。
というか、実感はなかったが今は私もお仲間だったかあ。
すると、さっきのあれって叶うのか?
「もちろんですよぉ!」
その天明さんの驚愕の回答。
途方に暮れる事実を受け止めかねる私だった。




