第107話 故郷の残滓
テーブルに置かれた発光する不思議な古代の品。
「とりあえず、私が右藤殿達を連れて行こう。
このままにしては置けないからな。
右藤殿、この品を少し解析したいのだが許可いただけるか?」
右藤住職にそんな言葉をかけるアテナさん。
確かにもう数日は、何も飲食出来ていないであろう右藤住職達。
そう考えればよくこの程度で澄んだよなあ。
それを聞くと、
「不思議な話だが、
この数日、飲食はおろかトイレなどの生理現象もないんだ。
今までもこういう事には慣れていたのだが、
これは初めてのことだ。」
と、右藤住職自身が不思議がっている。
「はあ、それはここが異郷の道に浸食されているからですよぉ。
基本、不老不死な存在が旅する場所ですからねぇ。
そして、距離の概念と同じく時間とかの概念も薄いんですよぉ。
異郷の道は!」
「色々な世界があって、その法則も色々ですから、
そんな世界が入り混じって存在するのが異郷の道の特徴です。
そして、時間の概念もそれぞれになります。」
「そういう特徴を乗り越えられるのは、人や獣、植物なりの生命体のみです。
人の使う機械などは物理法則などの原則が違うため、道では使えません。
ある意味、あそこで兵器が使えるゴブリンが凄いんですよぉ。」
そんな天明さんの説明を聞き、
数日という時間の経過が影響していない理由は分かった。
なるほど、私も修行と称して、
やたらとあそこで戦っていたが、トイレの心配はなかった。
とはいえ、今もこの変な空間にいていい訳ではない。
身体に何かの影響があるかもしれないし。
アテナさんが先導し、各自、手を繋いで寺の社殿方向へと向かう一行。
私と天明さん、そしてオリンさんはこの不思議な品の調査に入る。
天明さんは、品を見て外へ出て行った。
と思ったら、すぐ帰って来た。
「そうですねぇ。
この広がっている空間自体は外からは観測できませんねぇ。」
と言ってくる。
私は少し興味があって、広がっている空間のほうへと進んでみた。
そして見えている壁と透けた空間の間に手を伸ばす。
しかし、壁を透けて空間が広がっているように見えたのだが、
その手は何かに阻まれた。
うん?
「天明さん、これ、例のヘッドバンドのやつと同じ効果ですよ。
こう見えて壁みたいなものがしっかりありますよ。」
私は今分かった事を報告した。
あのヘッドバンドは確かVR技術のようなことが出来た。
今見えているのは、本物の異郷の道ではない。
「ううん、やっぱりですかぁ。
そもそも、異郷の道は何処でも入ることが出来るわけではないんです。
多分、異郷の道に干渉はしているんでしょうが、
異郷へ進むことはできないんでしょうぉ。」
「後は何をするための道具なのか?ですよねぇ。」
再び、品を観察する天明さん。
「ふむ、貸してみよ。」
そんな言葉を掛けてくるオリンさん。
そう言えば、そのために着いて来てもらったんだった。
慎重に少しだけつついたりして、様子を見たものの変化はなし。
意を決して、その品を手に持つ。
すると、何かのイメージが頭の中に入ってきた。
見たことのない光景が脳裏に浮かぶ。
しかし、私はその光景に何か胸が詰まるような想いに駆られた。
「七果さん、七果さん!
大丈夫ですか?」
天明さんのその声に意識が戻った私。
今の感じは何なのだろう?
懐かしい何かを感じたが。
今起こった事を天明さんとオリンさんに伝えると、
「ふむ、貸してみよ。」
さっきと同じことを言い、
私の手に乗せられた品を取っていくオリンさん。
しばらく、見つめていると、
「この品は、我らは知らないものじゃ。
ただ人種族では一般的に使われているものに似ているみたいだ。」
「この品の原理は、帰郷の想い石というモノに似ているそうじゃ。
ただ、全く同じものではないらしい。
所謂、この世界のものではなく、これは異郷由来の品のようだ。」
オリンさんは、その手にその品を持ち眺めている。
その言葉に天明さんは、
「なるほどぉ。
そうなると、これは異郷の道で使うものですねぇ。」
えっと、具体的に何なのかな?
「これは異郷の道で迷ったり、
異郷の地から帰る時に補助する品ですねぇ。」
「ううん、異郷の道では十分な進化が見られない場合、
半ばで迷うことがあります。
色々な世界が混じるので変化に耐えられない者は進めなくなるんです。」
「そんな時、自身の出身世界へと帰るための道具の名を、
帰郷の想い石と呼んでいます。」
「ただ、こんな品ではないはずですが。」
天明さんはこの品の効果を見て、疑問を持っているようだ。
しかし、オリンさんの鑑定は正確なはずだ。
異郷の強者補正が効いているし。
ううん、確か、
エンキタンの列焼英さんに貸してもらった笛があったはずだ。
あれも異郷の道から素早く帰るための物だった。
しかし、確かに使ったことはあるが、こんな感じではなかった。
今目の前にある品は、どちらかというとテレビやモニターのように、
情報を共有するために行先を投影している感じだ。
「ふうむ、詳しくは分からないが、壊さず止めればいいのか?」
とオリンさんが手の中にある品を見つめながら、
言ってきた。
「できるんですか?」
思わず聞いた私に、
「それは簡単だ。」
少し目を細めると、発光する品から異様な気配が消えていく。
周りを確かめると、透けていた壁も広がる空間も静かに消えていく。
異変が起きていた蔵は元通りの姿を取り戻している。
「これの使い方は分かるんですか?」
オリンさんに再び聞くと、
「まあ、何となくじゃ。
こういう物は我らは使わぬから、言葉に表現するのは難しい。」
そう答えてくるオリンさん。
そう言って、手に持つ品をテーブルに静かに置く。
「帰るためのもの?
異郷由来で?」
今までの光景を思い出しながら、整理してみる私。
時間の概念は薄れるのに、時間が流れると強くなったり弱くなったり、
広がる空間の方向自体も変わると言う右藤住職の言葉。
情報を精査していって、思いついたのは、
「猿田彦さんのカラス?」
方向が変わるのは分からないが、どこかに連れて行くために、
この現象が起きていた。
そして、この品はあの舟に由来する。
あの舟、もしかして異郷の道も飛べるんじゃ?
そうなれば、この品は件の高天原の方向を示すものなのか?
アマノトリフネは確か高天原のものだったはずだ。




