第106話 異変、謎の収蔵物
小野寺所長から新たな業務を任された私達は、
右藤住職に話を聞くため、加具茂寺へと向かう。
メンバーは、天明さんとアテナさん、
そしてオリンさんに私を加えた4人という構成だ。
オリンさんは、異郷を渡る強者として、
どんな言語であろうと読み解けるという世界からの優遇措置がある。
それはなんなんだ!
と言いたいところだが、異郷の道には世界を壊すような強者が存在する。
そんな強者がこの世界での待遇を理由に暴れたら?
たとえ、この世界を代表する者だったとしても、
勝てない存在はいるそうだ。
一応、実例があるそうだ。
例の神都を襲った存在はそこに住む全ての民、
もちろん都の主も含め皆を戦って破り、追い出したそうだ
そんなのが複数で行き交う道で、いらぬ事故を防ぐため、
そういう優遇があるそうだ。
どの道、一時的な滞在に過ぎないのだ。
機嫌良く立ち去ってもらうほうがいいに決まっている。
ということで、今回はどんな古代文字や謎であっても、
オリンさんが全て解決してくれる。
便利すぎるが、非常に有り難い。
アテナさんの車(現在も社用車であるが)で、
加具茂寺に着いた私達。
しかし、寺の内側から何やら異様な気配が漏れ出している。
うむ、異界の宇宙船やら龍神の宝物やら、
現代ではありえないような代物ばかり収蔵する謎の寺である。
また、変な事件が起こっているのかもしれない。
いつものように小さい駐車場に車を置き、
境内の中へと向かう。
これは、、、
正直あまり関わりたくない類の雰囲気を直に感じる。
とにかく、右藤住職が居そうな社殿へと向かう私達。
今の時間なら母屋ということはないだろう。
寺の業務に勤しんでいるはずだ。
勝手に社殿に入るわけにはいかないので、天明さんが呼びかける。
「こんにちはー。
誰かいませんかー。」
かなり間延びした天明さんの声が辺りに響く。
ううむ、周りを見渡す私達、特に反応はない。
はあ、仕方ないので、
異様な雰囲気を漂わせる高床式の蔵へと近づいてみる。
この寺は前に言った通り、そんなに大きくはない。
他に大きな寺や神社が京都にはあるし、
それに比べれば何という事はないだろう。
とはいえ、平安京が出来る前からあるという古寺だ。
収蔵庫らしき建物が複数あるし、社殿の大きさも並よりは大きいだろう。
かつてはガルムが暴れまわった経緯もある。
しかし、その蔵の周囲は明らかに異常だった。
見ていると方向感覚や奥行きといった視覚に多大な違和感を感じるのだ。
何がって明らかにその方向にはそんな広さはないだろうという思うのに、
それに反してかなり広い空間を感じるのだ。
天明さんは溜息をつく。
そんな中、アテナさんが、
「これは救助が必要のようだぞ。
その建物の中に複数の人がいる。」
と言い出した。
えっ!
すると、オリンさんも、
「ふむ、確かにそこの建物に何人かおるな。
大分弱っているみたいだが、まだ息はある。」
「どうやら、ここは異郷の道が侵食しているようだ。
助けてやった方がいいだろう。」
そんな言葉を発して、蔵へと進みだす。
一緒に5メートルくらいを進む私達。
ううん、確かに目の錯覚みたいなものを感じるし、
何か異様な雰囲気だが、建物自体は目の前だ。
「はあ、我らは道を行けるからな。
しかし、本来、道は力ある者が通るものだ。
世から出られぬ者では進めぬ。」
そうオリンさんが疑問に答えてくる。
そして、アテナさんも、
「七果、道というのは目的地があって通る場だ。
道を通るにはそもそも、それを道に伝える能力も必要なのだ。
それは意志の力によるもの。
その力が無ければ、その道を堂々巡りして力尽きる。
今この場は何らかの理由で異郷の道が侵食している。
そんな中で普通の人では数メートル先にも進めないのだ。」
と詳細を続けてくれる。
そうなるとこの寺の住人はこの蔵に閉じ込められているという事か?
一体いつから?
事の重大さにようやく気付いた私。
アテナさんが念入りに辺りを監視する中、
天明さんが中に声を掛けた。
「誰かいますかあ?
住職さんは中に居られますかぁ?」
そんな言葉に、
「おお、その声、天明殿か、、」
弱弱しい右藤住職の声が聞こえてきた。
「右藤住職さん、扉を開けますが大丈夫ですか?」
そう私が中へ呼びかけると、
「ああ、気を付けてください。
何かの仕掛けが動いている。」
そんな答えが返ってくる。
ふむ、そんな言葉に躊躇していると、
「では、我が開けてやろう。
我ならこの程度の惑い問題ないからな。」
オリンさんはそう言って中への扉を開けた。
私達はそれに続き、中へと入って行く。
中では異様な事態が起こっていた。
蔵は収蔵庫らしいが、収蔵品の手入れなどに使うのか、
テーブルが2つほど置かれていた。
あれ、おかしい?
ここは蔵の内部なのだが、入った右側の壁が一部無く、
広大な空間が広がっている。
壁が破壊された訳ではなく、
ただ何かの影響で壁の数メートルが消えている感じだ。
ちなみにその他の壁面には収蔵棚がビッシリと敷き詰められている。
本来ならその広がっている空間の方にも棚とか壁とかあるはずだ。
良く観察すると、テーブルの何かから光が漏れ出て、
その光が照らす方向がその空間になっているようだ。
何だ、これ?
「大丈夫か、右藤殿?」
アテナさんが近寄り、安否を確認する。
テーブルの近くに疲れた様子の右藤住職と
倒れている職員の人たちがいる。
どうやら職員らしき人たちは眠っているようだ。
右藤住職はその横で危険が無いか見張っていたらしい。
「クランベリー殿か、天明殿も。」
天明さんは、テーブルの上にある何かを見て、
「何があったんですか?」
と手短かに質問する。
右藤住職たちを早く避難させたいが、
この何かを止めないと駄目な気がする。
「ううむ、実はサンエンタングル殿との約束を終えたので、
収蔵品の整理をしていたのだ。
その中に縁深いものがあって、手入れしていたのだが、
何が切っ掛けか?
動き出したのだ。」
「そして、この有様だ。」
「ちょうど数日前なのだが、私が戻らないので、
寺の皆が探してくれたのだが。
この場に来てくれた皆も帰れなくなったのだ。」
そう説明してくる右藤住職。
「ふむ、この道具が何であれ、
この状態では普通の者はここまで来れんはずだが?」
オリンさんがそう指摘する。
その質問に、
「それが、この壁が透けた場所は時間が経つにつれ、
方向が変わるのだ。
そして、影響の強さも変わるらしい。」
「初めはここまでの変化はなかったのだが、
今はここまで広がっているのだ。
それに時間が大分経っているにもかかわらず、
誰も気が付かなくなった。」
「寺の皆が気が付いたのは、この異変から数時間。
夕方頃のことだ。
そして、今3日目。
外では多くはないが参拝の方たちもいるはずなのだが。」
そう答えてくる右藤住職。
「ふむ、我らは気づいたが、他の者には察知できなかった。
というより、恐らく危険を無意識に感知して、
ここの出入りをしなくなった。
異郷の道に通常の者は立ち入れないのじゃ。
ここに来る者はこの場所を無意識に避けたのじゃろう。」
「して、これは何じゃ?」
そうオリンさんが予測し質問を返すと、右藤住職が答えを返す。
「これはサンエンタングル殿との約束の品に所縁ある品だ。
あちらはこれは使わないということだった。」
サンエンタングル殿って?
「ああ、あの天使殿だ。
ラファエル・サンエンタングル殿だ。」
ラファエルさん!
そうなるとこれはあの舟関連か?
何か分からない物品だが、さてどうすれば収まるのか?
時間が経つにつれ、方向や周りへの影響が変化する謎の品。
改めてみると何かの首飾りのようにも見えるが、
それは革紐が付いているからかもしれない。
実際、古い木のテーブルに置かれているのは、
円盤状の10センチくらいの宝石に見える。
その宝石の縁を何かの文字で書かれた木の飾りが覆っている。
宝石を見つめると、ほのかな発光が見られ、
何かの幻を見せられるような不思議な感覚を感じる。
そして、その感覚は何かの幻視を見せようとするように、
強くなったり弱くなったりしている。
これは一体何なのか?




