第105話 古えを収蔵する寺
所長室から天明さんの研究ラボに帰ってきた私達。
「はあ、高天原?
それって完全に神話ですよね?
アテナさんは確かに神話になっていますし、
この間は天照さんとかスサノオさんも加勢してくれました。
でも、さすがに所長の言うようなことはないのでは?」
いつになく饒舌だった小野寺所長?
いや、普通にいつもあんな感じだったか。
うむ、正直、小野寺所長の言い分だと、
古代の日本人が他の異世界からこの地に移住してきたことになる。
しかし、異郷の道は大人数が通れるほど甘くはない。
今、ゴブリン一族が相応の数、行き交っているが、
彼らは相当なレベルに達した種族ということだ。
それに比べ、古代日本にそれほどの文明があったなど、
その後の歴史には出てこない。
飛鳥奈良時代などの文献もあるのだ。
邪馬台国が存在し、崩壊に至ってから現れ主流になった、
古代天皇の一族とその国。
確かに良く分からない時代はあるものの、
それを挟んでも高度な文明が衰退するほどの時間は経っていない。
まず他世界からの移民はないだろう。
多分、邪馬台国の衰退に伴い、当時の地方の豪族の中から、
新進気鋭の勢力か、あるいは由緒正しき血統の一族が取り纏め役に、
治まったのではないか?
所長には悪いが、私はそう思うのだ。
確かに日本の歴史を紐解くと文献から神代の時に遡るが、
それは取り纏め役の系譜を大袈裟に書いたか、
あるいは、その業績自体が讃えられるものだったか。
まあ、確かに神と呼ばれるほどの高等生命が、
先祖という可能性はなくはない。
しかし、その文献と現実の歴史に大きな乖離がある。
この日本の地に降りた高等生命がいて、
最終的に統治に関わった可能性はある。
ただ高等生命は既に不老不死などの域に達しているはずだ。
少なくとも、異郷の道を行き交うにはそんな力が必要なのだ。
そうなると現状が良く分からないことになる。
まずその古代文献を編纂した人たちはどうやって、
それを知ったのか?
初代天皇は既に神代の存在だが、
その系譜や伝承を纏めた人物は何を根拠にしたのか?
文献の最初で高天原からの使者がこの地を治めることになる。
しかし、その存在の相手をしたのはこの地で栄えた別の神の一族だ。
詳細を知る者はこの地に生きる人間ではなく、
当時の天皇ご自身か、この地の古き神だけなのだ。
まさか政権の主に聞くわけにもいかないはずだし、
神と呼ばれる存在に簡単に会えるわけもない。
当時は移動手段は徒歩か馬だろう。
さて、私が何故こんな事を語っているのか不思議だろう。
そりゃそうだ。
私は研究者でも何でもないし、正直歴史に詳しい訳でもない。
しかし、現代というものはとても便利だ。
少し調べれば、色々な事が分かってくる。
まあ真実かどうかは別として。
うん、まあはっきり言えば右藤住職に何を聞けばいいのか?
スマホで調べているのだ。
素直に所長の言うアマノトリフネについて聞いたら?
その疑問はもっともだが、あの話には天使な外国人が絡んでいる。
右藤住職は彼らと何かの契約を交わしている可能性があるのだ。
一応相手は天使であり、世間一般で言う悪魔などではない。
というか、あの天使な人達は異星人、
要するに一般的に言われる悪魔な存在などいないのだ。
それはいいのだが、契約事には守秘義務とかある。
右藤住職の人柄から信義に厚かったりするかもだから、
聞き込みには慎重を要するかもだ。
私達が本当に知りたいのは高天原についての情報だ。
しかし、そこに至るには取っ掛かりとなるモノが必要。
唯一の情報が、所長が指摘する異郷を彷徨う島のくだりだ。
島という言葉から陸地との地続きではないとも考えられる。
そして、この間見た空を飛ぶ舟?
舟なのか、鳥なのか?
今だ分からないことだらけだが、異郷を越えてきた存在のはずだ。
あのようなものがこの地球にあるわけがない。
あれは異郷由来のものだろう。
そして、日本の神話にも登場している。
ううむ、ここまで来るのにそれほど時間はかからなかった。
しかし、この内容では、
空飛ぶ舟と高天原が島な可能性しか見いだせない。
高天原とは何なのか?
どうやってそこに至るのか?
それを右藤住職が知っているとは思えない。
アマノトリフネに関して、聞くしかないのだが、
それって可能なのだろうか?
加具茂寺の一件は、ちょっと前の事だが、
あの一件の協力者が天使たちだった。
そして、あの霊的災害対応室と天使たちは、
同じ計画に携わっている。
つまり、あの舟については極秘だったのかもしれないのだ。
私達が知りたい情報は舟のほうではない。
だから、聞き方を考えなくては。
あの舟に関わる何かをあの寺は収蔵していた。
由緒正しき寺社であるから、
何か由来のある品か文献が他にあるかもしれない。
ううむ、天皇所縁の品なんて国宝だろうし、
他の品も一般公開されていないものがありそうだ。
そもそも、金剛などという代物もあったりするのだ。
考えてみると随分秘密が多い寺社だった。




