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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第8章 八百万が集う、歴史から秘されし島
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第104話 アマノトリフネ

時間になったので、所長室へと向かう私達。

もちろん、オリンさんも同行している。


インターホンで所長に来た事を告げると、

「入りたまえ」という返事が。


相変わらず、文献が散らばる所長室の中。


所長の座るデスクには、一際古そうな巻物が積まれていた。


「やあ、おはよう。

 皆、ぐっすり眠れたかね。」


その所長の言葉にそれぞれ朝の挨拶を返す私達。


いかんな。

今まで意識したことが無かったが、所長は今や上司だった。


挨拶はこちらからするべきところだったな。


しかし、小野寺所長は上下関係に煩い人ではなかった。

これも研究者という職業が培ったものなのだろうか?


偉ぶる態度など微塵もなく、非常に気安く接してくる所長。


いや、これは小野寺所長の性格だろうな。


と思いなおす。


実際、研究者と言っても他に知り合いはいないが、

部下や仲間との接し方は人それぞれだろう。


良く考えれば、古代の文献や伝承の調査など、

フィールドワークが多く、人に話を聞くことも多いだろう。


そんな時、人好きのする大らかさや柔らかさは、

現地での調査を円滑に進める大きな武器になるだろう。


そして、一通りの挨拶が終わったところで、本題を切り出す所長。


「少し長くなるが、最後まで付き合ってくれると嬉しいよ。」


「さて、今回、貴重な情報を提供していただいたオリン殿のおかげで、

 ある事実が分かったのだよ。」


「これは皆知るところのエンキタンが書き記した文献から、

 読み解いたものだが。」


「知っての通り、先の事件で邪馬台国の主が出てきた。

 エンキタンと彼らの関わりは非常に複雑だが、

 今日の議題はそれではない。」


「エンキタンの一族は、東日本に居を構え、

 邪馬台国の連合と相対していたそうだね。

 しかし、一連の事件により、双方が和睦した。」


「女王卑弥呼の治世を経て、次代に引き継いだ邪馬台国は、

 その後、その権勢に支障が出て崩壊したと思われる。

 また、エンキタン一族も融和が進むものの、

 何らかの理由でこの地を離れた。」


「既に異世界への道については聞いているよ。

 いやはや、人類が空を制し宇宙への進出を果たした現在、

 まさか、他の星々に歩いて行ける通路があるとはね。」


「確かに科学の深奥を覗いたとしても、

 星の世界はあまりに広い。

 何故こんな手に届かない世界が広がっているのか?

 そんな疑問をもったことがあるが、人の進化が扉を開く鍵とはね。」


「ここで私の研究に少し貴重な情報が入った。

 私は知っている通り、日本の古代史について研究している。

 まあ、あまりにも荒唐無稽ゆえ、

 学会などには相手にされていないがね。」


「ふむ、私の課題はね、

 邪馬台国時代からヤマト王権への移行についての疑問の追求だ。

 知っての通り、

 日本の天皇の系譜において古くは神々の血筋と繋がっているとされる。

 その歴史は邪馬台国より古いと主張されているのだよ。」


「まあ、科学的にどうかは別として、

 その歴史的資料は存在している。

 当時の政権が編纂した文献だがね。」


「今の人なら、それを真に受ける人はあまりいないだろう。

 しかし、そこに疑問を挟むこともしないはずだ。

 それは天皇制に対する畏敬もあるだろう。」


「だがね、私はヤマト王権が編纂した文献には、

 ある一定の根拠があるはずと考えている。

 ヤマト王権の始り頃は、その首長を大王と呼んでいた。

 この勢力は邪馬台国の衰退とともに、その力を拡大させた。」


「うむ、まあ日本以外でも王権神授説なるものがあり、

 王は神よりその権利を信任されていると言う考えは一般的だ。

 そして、その系譜の歴史を偽ることは基本ない。

 そう、基本的に外の国では王の系譜というものは実在しているものだ。

 実在の王が系譜として記録に残される。

 王が神であるとされる場合もあるし、そこを偽る必要性もないのだ。」


「我が国の記録は、編纂時期から遡ると多くの神々に繋がっている。

 神代の時代にね。

 無神論者が多い現代日本人において、信じがたいことだ。

 ヤマト王権の前には邪馬台国の存在がある。

 編纂された古代史の文献にはあまりにも矛盾する事実だ。

 なら、その文献に何の根拠があるのか?」


「そこで今回の議題に入るのだよ。

 編纂には各地方の伝承なども関わっているそうだ。

 そして、その文献には数々の神代の人物が登場している。

 その文献が偽装されたものなのか?

 そんな罰当たりな疑問も出ては来るだろう。

 しかし、そんなことをして当時の誰が信じるのか?

 邪馬台国もその力を失い、消え去った。

 国の興亡というものはそんな簡単なものではない。

 海を隔てた大陸の国では幾度もの勃興が繰り返された。

 そう、王権の正しさはどの国でも問われているし、

 新勢力台頭の大儀にも使われている。」


「うん、王の系譜に疑惑を持たれてはならない。

 ましてや、天皇制は神々の血筋が入り込んでいる。

 では、邪馬台国の存在と矛盾しないのか?」


「長くなってしまって申し訳ないが、

 今回の挑戦は、古の血筋の探求にある。

 日本に伝わる古代史が本当だとしたら、

 それはもしかして、

 この日本の地で起こったことではないのではないか?

 他の国が興亡を繰り返す中、

 日本に天皇制が確固たる基盤を成したのは当時の民や豪族たちも、

 信じうる何かがあったと考えるのだ。」


「無論、国民性もあるかもだが、それは平民においてだ。

 基本的に力を求める豪族たちに嘘は大儀名分を与えることになる。

 だからこそ、その文献に嘘はないと言える。

 そう現代では疑わしく思う人もいるかもだが、

 その文献による古代史はもう1000年以上に渡り、

 存在感を放ち続けている。」


「私はね、日本史の資料に神々が出てくる理由とその信憑性は、

 かなり、正しく評価されていると思うのだよ。

 当時のヤマト王権には何かの根拠があった。

 編纂された古代史文献には、疑惑を伴うものが確認されなかった。

 要するに皆が知る事実が書かれていた可能性が高い。

 何故なら編纂された時点で、嘘があれば王統に傷が入るからね。」


「ならば、どこからそれは現れたのか?

 王となる系譜は他の地より現れた。

 そしてそれは当時知られていることだった。

 神々の名などすべてを偽装することなど不可能だし、

 それをする意味がない。

 だからこそ、本当にそれはあった。

 ただし、歴史的にそれは他の地域での話だった。」


「つまり、日本の神代の時代は異郷をルーツにしている。

 そう最初の血筋は他ならぬ神の地、高天原から齎された。

 異郷への道を知れば、それも納得のいけるものだ。

 ただ、その高天原は現在も確認できない。

 当初、それはこの日本の何処かにあると思われてきた。

 しかし、それでは古代史と相反する。

 だからこその外国などの他の地での出来事であると思うのだ。

 国譲りの伝承は他の地からの移住を意味し、

 平和的な王権の移り変わりもそこに正しさがあったから。

 今回、見つかった文献に、


 ”異郷彷徨えし島より、人が降りたつ。

 その者たちは瞬く間に増え、今の地を統べるようになる。

 かつての邪馬台は崩れ去った。

 我らはこの地を離れるとしよう。”


 そんな一文がオリン殿の協力で見つかった。

 国生みの神話で、日本の地を生んだ云々がある。

 もしもその島こそが、高天原なのだとしたら?

 そして、ヤマト王権の記録は有れど、

 邪馬台国について、私達は今だ何も知らない。

 存在した場所すら分からないのだ。

 大陸にまで知られたこの国の文明だったのにだ。」


「何がそこにあるのか?

 地球の各地には創世神話が残されている。

 いずれも世界を生んだ物語だ。

 しかし、我が国の神話ではあくまで、

 この日本という地を生んだというもの。」


「日の本という名が意味するのが、

 他より太陽が昇るのが早い、最も東の土地ではなく、

 太陽神が住む場所として、その所縁の地として呼ばれたなら。

 考え方次第で幾つもの可能性が出てくるのだよ。」


「そこで今回、調べてほしいのが君達が目撃した舟についてだ。

 あれ自体は天使たちに貸し出されたらしいが、

 異郷の道では動力のあるモノは動かないと聞く。

 アマノトリフネと呼ばれる存在はそれ自体が神だそうだ。

 要するにそこのオリン殿のような高等生命であり、

 鳥のような存在ならば異郷を渡れるのではないかな。

 そして、それが日本の地に祭られているということは、

 高天原に行く方法に関係するのではないか?

 君達にはその痕跡を追ってもらいたいのだよ。」


「アマノトリフネの貸与には、

 君達も知っている右藤住職が絡んでいる。

 ちょっと彼に話を聞いて来てくれないかな?」



日本史ってそんなに難しいものだったかな?

そんな感想しか出てこない私だった。

 

 

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