第103話 文献が語る謎の理想郷
いつもお読みいただき、本当に有難うございます。新章スタート!高天原編。まだ構想段階ですが見切り発車しています。とりあえず次向かう先だけは決まりました。塔に行くのはまだまだ、月の方はまだ数年は修理が待っている。ある程度短縮はしようかと思っていますが。ということで日本神話に目を向けました。
研究所に戻って数日、
すっかり身体も良くなり朝のランニングも再開した私。
実際のところ、前より遥かに身体能力が上がったのを感じる。
具体的にはどれだけ走っても、息が乱れない。
まあそこまでの距離を走っていないのだが、
10kmくらいは走っている。
そして、この10kmという距離を朝の5時に起きて、
約30分程度で走り切ることが出来る。
時速20kmくらいの速度が出ているが、
これでも軽く走っているだけなのだ。
うん、普通に走っていて、道路交通法とかに引っかかりそうだ。
朝早いのと研究所は市内の繁華街から遠く外れている。
遠いと言っても知れているが。
朝の日課を終わらせ、ジャージをクリーニング用の袋に入れる。
シャワーを浴び、例のリクルートスーツを着て身支度を整えたら、
朝のテレビの出番だ。
今日も朝から天気予報は猛暑の予報を出している。
今日も暑くなりそうだ。
そんな感想を抱きながら、備え付けの冷蔵庫を確認する。
ううん、麦茶とかの在庫が減ってきたな。
一応、所内や寮には自動販売機が備えられている。
だが、売店とかがあるわけではない。
この施設は特殊だから業者に入ってもらうわけにはいかない。
例えば社員食堂だが、
実際のところ、研究所の正規職員が運営している。
うむ、食べるかどうかも分からない食事を用意して、
作り甲斐がないと文句が出ないのは、自身も何かの研究者だからだそうだ。
食堂と言っても、高級レストラン並みのメニューが揃っている。
しかし、その中には奇抜なものもある。
例えば、その昔食べられていたとかいう郷土料理の数々。
今既に改良されて当時の味をすでに超えている商品を、
敢えての昔の味の再現。
製法から味付けまでを当時の手法で作ったとか。
誰が食べるのかしらないが、
そんな食文化へのこだわりを社員食堂に取り入れているのである。
私も最初はあり得ないと思っていたが、
利用する研究員のほうも皆常識外れである。
食べる時間帯もまちまちで、
そもそも研究を続けながらパンを齧ったり栄養ドリンクで賄ったりする。
ここにいる皆が、何らかの研究者なので、
何があっても苦情は出ないのだ。
まさにお互い様なので。
朝走ったときにコンビニでお茶買ってくればよかった、、
そんな反省をして、テレビを消し自室を出て食堂へ向かう。
今日のおすすめは、何か卵かけご飯だそうだ。
お味噌汁に卵かけご飯、そして漬物。
頼んでみると、生卵ではなく半熟たまごが付いてきた。
そして、ご飯はこだわりの逸品らしい。
お味噌汁や漬物にも何かあるらしい。
私は何も詮索せずに食べることにした。
美味しい!
まあこのおすすめメニューには
独特のこだわりがある事で研究所では知られている。
どんなこだわりか?
それはその時の担当者で決まる。
詮索してはいけない、
現実というものは知らないほうがいいこともあるのだ。
少しゆっくりしてから、天明さんのラボへと向かう。
午前8時30分、そろそろ一般の会社なら業務開始時間だ。
昨日は、確かアテナさんとお酒を飲んでいたはずだ。
オリンさんも誘っていたから、相当飲んだだろう。
私はそれが始まる前にラボを追い出された。
お酒は例の焼き鳥を求めて繰り出した時に、
購入してきていたらしい。
彼女たちは少々の荷物、苦も無く運べる。
インターホンを押して、扉を開けてもらう。
むう、お酒の匂いが充満しているその室内。
迎えてくれたのは、オリンさんだった。
天明さんとアテナさんは、何かの相談をしているようだ。
「おはようございます、オリンさん。
あと、天明さんとアテナさんも。」
と朝の挨拶をする私。
室内の皆から「おはよう」の挨拶が返ってきた。
そして、私を加えた4人で今日の予定を話し合う。
擬態した子犬は文献の上でまだ眠っている。
ちょっと観察すると漫画じゃないようだ。
「さて、今日の予定ですが、七果さんはまだ知らないですよねぇ。
昨日の飲み会での話ですし。」
「一応10時に所長室に呼ばれています。」
と天明さんが口を開く。
お酒のビン類は既に纏められ、隅に並べられている。
後で回収用のボックスに出すのだろう。
そして、アテナさんがその何かについて話してくれた。
「私達が東京へ行っている間に、
加賀崎殿が興味深い発見をしたそうだ。」
天明さんがその話を引き継ぎ、
「発見というのは、例の邪馬台国の時代より後の資料でして。
あちらで解析を進めていたようですが、
重要なものとして加賀崎さんが持ち帰ったんですよぉ。」
「時代背景から日本の神々のルーツに関係する書物のようです。
この間、天照を名乗る女性に会いましたよね。
あの方が何処から来たのか?
そんな秘密に迫る文献です。」
その言葉にオリンさんが、
「我に言語などの事前知識は不要じゃ。
ちょっとその文献とやらを読んで見せたら、
小野寺という男が興奮しよってのう。」
と顛末を語ってくれた。
で、一体何が分かったのか?
そんな大発見なのか?
不思議に思っていると、
アテナさんが、
「私達一族がオリュンポスと呼ばれる地に拠を構えていると、
伝わっているだろう?
実際には異郷の道を進むことで辿り着ける場所なのだが。」
「あと、オーディンが治める神都の噂も聞いたはずだ。」
と話を続ける。
更に詳しいことを話してくれたのはオリンさんだ。
「ふむ、その書はエンキタンとやらが書き記したものでな。
異郷の地より新たなる存在が来訪し、この地の主権を譲り受けた。
そんな内容が書かれておった。
その者たちは、高天原と呼ばれる異郷を彷徨う島から来たそうだ。」
うん?
島が彷徨うってなんだ?
そんな疑問に、
「まあ、意味が分からないかもしれませんが、
アテナは日本でも有名ですよねぇ。
でも、前までの事件では、本来なら日本の神々とされる存在が、
介入してきてもいいはずなのです。
でも、一部を除き、
日本の神々と呼ばれる存在は沈黙を守っています。」
「そして、古き神々とされる者が帰還する中、
その出自が分かっていないのが、日本の神々なんです。」
と天明さんが語る。
「この前はスサノオと言う御仁が加勢してくれたが、
御使いの尖兵を優に圧倒する実力者だった。
また異郷であった猿田彦殿も相当なものだ。」
「全ての者ではないにしろ、そんな存在が八百万と伝わっている。
例のラファエル殿に接触していたらしいが、
この地の神々が何を考えているのか?
それが分からない。」
アテナさんもそう言い出す。
もう9時50分、もうそろそろ所長との会議の時間だ。
「そして、高天原という地には、異郷の道を辿っても、
誰も辿り着いていないのだ。」
どんな異郷にも行けるあの道をして、辿り着けない地。
再び、私の前に神秘の世界が広がろうとしていた。




