第101話 業務完了
しばらくの間、庵で休ませてもらった私達。
思わぬ歓待に気分も和らいだ私だったが、
そろそろ京都の研究所へと帰らなくてはいけない。
うむ、私は企業に勤めている身分なのだ。
謎の果物について、聞き出そうと、
天明さんが張り切る中、アテナさんに目配せする私。
「うん?
なんだ、七果。
このフルーツは私の分だぞ?」
アテナさんまで訳の分からない主張をするとは!
確かに美味しいし、この先、ほぼ手に入らないだろう果物だ。
いつになく、大事そうに手元の果物を味わっているらしいアテナさん。
女性の心理なのか、もしくは個人の趣向なのか?
そういう所は私には理解できない。
私も美味しいものは食べたいと思うし、
できるなら腹いっぱい食べたいと思う。
しかし、私が味音痴なのか、
食事自体は高級肉のステーキとかじゃなくても、
極端な話、カップ麺でも腹が膨れればいいと思ってしまうのだ。
そして、今の日本でなら余程でない限り、食事に満足できると思う。
そこに高級とか貴重とかは関係ない感じなのが私の食事への想いだ。
何か駄目な部分があるのだろうか?
「天明さん、アテナさん。
そろそろ、研究所へ帰らないと。
このままだと加賀崎さんに送ってもらえなくなります。
私達、今、車がありません。
早めに事情を説明しないと。」
そういう私に、
「ふうむ、お前さん達、日本に帰るんじゃったな。
この間の場所に行くのか?」
と猿田彦さんが聞いてくる。
「そのつもりです。
今回入ったのは東京なんですが、そこには戻れなくて。
今あっちでは何時くらいでしょう?」
そんな言葉を返す私だったが、
「ふむ、そうじゃったか。
向こうの時間はちょっと分からんのう。」
と答えてくれる猿田彦さん。
「アテナさん、まずいですよ。
あっちでは今日一日、私達は行方不明ですよ!
早く京都へ帰らないと。」
「天明さんも所長に報告しないといけないんじゃないですか?
今、夕方頃だとこれ以上ここにいると帰りの電車が無くなりますよ。
あの遺構には私達の分の食事を用意する余裕はないはずです。
今日は晩御飯も抜きになりますよ。」
その言葉に素早く反応する天明さん。
「それはまずいですねぇ!
アテナ、帰りますよぉ。」
アテナさんと違って、天明さんの分の果物は既に彼女のお腹の中だった。
お土産の出どころを知るため、粘っていたが、
昼食だけでなく、夕食も抜きという事実は彼女にとって重大だった。
というか、朝食もままならず東京を離れたのだ。
今日一日食事抜きはそれなりにキツい。
結構戦闘もあったし、傷も負った。
皆、力の限り戦ったのだ。
それまでと打って変わって、その場をお暇しようとする天明さん。
それを見ながら、アテナさんは落ち着いて、
「猿田彦殿、あっちにある都に帰りたいのだが、
近くに出口はないかな?」
と言い出した。
「ふむ、都か?
確かに人が多く集まる場には、
近くにこの道への出入り口がある場合が多い。」
「して、どの辺りじゃ?」
そう答えてくる猿田彦さん。
「京都だな。
平安の都だそうだぞ。」
とアテナさんが答える。
ううむ、猿田彦さんは確かにここが長い。
だが、日本の現状は知らない可能性もある。
平安京まで時代を遡る必要があるのか。
ただ日本の国名を知っているみたいだが、
どの辺りまで遡らないといけないのかが分からない。
日本の歴史で長らく京都は首都だったが、
天孫降臨とかの時代まで遡ったら、その位置はさっぱり分からない。
「うむ、それなら分かるぞ。
ちょっと前に通った奴がその辺りへ降りたからのう。
この道に入る場所は山の中が多いのじゃが、
何か大きな寺社がある場所だったはずじゃ。
そこに行きたいのなら、案内を付けるぞ。」
そんな言葉を返してきた猿田彦さんは、その大きな手を空に向ける。
すると一羽のカラスが飛んできた。
「さあ、帰りますよぉ!
今日はがっつり食べます!」
さっきまでとは違い、今夜の夕食に夢を膨らます天明さん。
ふう、と果物を食べ終えたアテナさんがその様子に溜息をつく。
「世話になったな、猿田彦殿。
そこの御仁にも礼を言う。
この調子ではまた会うこともあると思うが、
今回はここら辺でお暇させてもらおう。」
丁寧に頭を下げるアテナさん。
私もお礼を言い、深々と頭を下げる。
いや、私の場合、猿田彦さんには世話になりっぱなしなのだ。
お礼を言い足りないくらいだ。
天明さんもお礼を言い、早速出発しようとしている。
「またのう、お嬢さん方。
儂らはしばらくここで見物しておるから、
会いたくなったらいつでも歓迎するぞ。」
「ふむ、若いのの成長と言うのは著しいのじゃ。
見ていて清々しいものじゃて。
またいつでも来るんじゃな。」
そう二人は別れを言って、送り出してくれた。
カラスを追って、再び道を進む私達。
それから10分かそこらで目的地へと着いた。
早いな!
まあこの道、目的地が分かっていれば距離の短縮は可能みたいだ。
ちょっとした石碑が道の脇に見える。
それを観察した私達は、そっと石碑に触る。
ちょっとした眩暈と共に、周りの風景が一転した。
到着したその場所は、意外にも建物が立ち並ぶ市街地だった。
まあ、中心部の繁華街からは外れるし、
盆地である京都では山側と言える場所だ。
猿田彦さんが大きな寺社があるはずと言っていたが、
その場には、出入り口になる石碑と共に小さな祠が祭られている。
それを見つめる天明さんは、
「どうやら、この出入り口は封鎖されているようですね。
昔、何かあったんでしょう。
あちらからは通れますが、こちらから入れないようです。」
そんなことを伝えてくる。
スマホを確認すると時刻はまだ午後4時頃。
タクシーを呼んで、研究所へ帰ろう。
うむ、ここは研究所からは離れていて、
速やかに帰れそうもない。
まずは小野寺所長に報告しないと。
例の霊的災害対応室の件もあるし。
これで私達の今回の業務は、一応終わった形になる。
報告までが仕事なのだが。




