第100話 功績
一時窮地に陥った私だったが、
何とか無事戦いを終えることが出来た。
攻撃を受けた右手を確認すると、酷い傷を負っていた。
ただ思っていた骨が見えてとかの傷ではなかった。
魔獣の爪により抉られた右腕の傷。
しかし、どうやら風の術が何とか威力を相殺してくれたらしい。
更に幸いかどうか引っ掻きに連動していた炎は、
アテナさんの槍による衝撃で力を失い、
私への攻撃に使えなかったらしい。
全身の打撲もある。
ただ傷からの出血等は見られなかった。
出血の代わりに何かの光が傷から撒き散らされているが。
一通り天明さんが傷の具合を診てくれた。
応急処置的な術も掛けてくれ、痛みは激痛とまではいかなくなった。
「はあ、この道では身体の状態が常にエネルギー体になっています。
魂に血など流れていませんから。
今までゴブリンをはじめ、
あの熊の魔獣も血が流したりしなかったでしょう?」
「この道では身体の損傷はエネルギーの喪失といった形で、
現れます。
ちなみに、地球でその怪我を負えば出血しますよ。
ただまあ、死ぬことはないですが。
身体の損傷が致命的な場合、その傷が癒えるまで非実体化して、
眠りにつくことになります。」
「進化した存在に死が無い理由は、
魂そのものが身体として機能するからです。
どんな世界へ行っても、その魂が適応して身体を創ります。
ただし、相応の傷を負うと活動停止に追い込まれ、
数十年単位の眠りにつくこともあります。」
「これは活動している時より眠りについた時の方が、
治りが遅いせいです。
地球の生物は眠りによって傷を早く治していますが、
魂の身体の場合は反対で、
活動している状態では、より多くのエネルギーを得られるため、
傷の治りが速くなるんです。」
「この逆転現象は、
地球の生物の眠りとは魂の力の活性化を意味していることによります。
進化前の状態だと魂は半分眠った状態なんです。
なので、生物は物質的身体を眠らせ、魂の状態をシフトさせるんです。」
そこまで天明さんが解説した後、
アテナさんが、
「今回、七果が致命的な攻撃を受けた場合は、私達の前から消え、
数年単位の眠りについていただろう。
死にはしないが、気を付けた方がいいのは間違いないんだ。」
「あとゴブリン達も進化体だが、恐ろしく回復力が速いんだ。
まあ、どの固体も一緒に見えるから本当はどうなのか分からないが。
恐らく回復についての技術もあるのだろう。」
「七果の傷から出ているのが、
身体の代わりになっている魂のエネルギーだ。
一応、攻撃による損傷だけではなく、
傷を与えた攻撃のエネルギーを今排出している状態だな。
そこのところは細菌類を身体に入れないようにする、
血液の反応に似ている。
ある程度の応急処置も済んだ。
今回は術での強制治療はやめておいた方がいい。
あの魔獣の意思が悪影響を与える可能性もあるしな。」
「傷の見た目は程なく治るが、
魂のエネルギーが減ってしまっているので十全に力は振るえないぞ。
まあ、大物を倒したからな。
魂の格が上がったかもしれない。
七果、今の調子はどんな感じだ。」
と聞いてくる。
「右腕はまだ痛いですが、何かの力が湧いてきて、
身体自体は前より軽くなりました。」
そんな答えを返す私。
「それなら、今回の事にも意味があったみたいだな。」
アテナさんは柔らかく笑い、そんな言葉を掛けてきた。
天明さんも、それに同調して、
「多分ですが、あの獣を倒したことで魂の器が育ったのでしょう。
それとこの地で無法に暴れていた存在を排除したので、
この地に住む存在から、例え無意識下でも、
一定の信頼を勝ち得た可能性があります。
これからは地球での活動でも制限が緩和され、
より大きな力を使えるようになるでしょうね。」
「とにかく、価値ある勝利でしたよぉ。
さあ、今度こそ帰りましょうぉ。」
私達3人は、猿田彦さん達のいる庵へと引き返す。
例の倒した熊の魔獣は、その姿を急速に崩壊させていた。
本質的な死ではないが、これほどの力を持つ存在が死に戻るのだ。
回復するため、特別な場合を除いて、
数十年は眠りにつくことになるそうだ。
さて、戻る時のカラスは?
そう言えば、この道は思い描けばちゃんとその場に到達するらしい。
まだ腕の痛みは残るが、歩くのに支障はない。
更に不思議なのが、服だった。
あれだけの傷を受け、右腕の袖は盛大に破けてしまった。
だが、今、既に元の状態に戻っている。
天明さんによれば、服自体が魂の力を通して復元されたそうだ。
力ある何かだと、こうはいかないらしいが、
服程度なら修復は簡単なのだと。
道を進むと地面に叩きつけられて出来た、
服の汚れや傷みも修復された。
ただし、地球で同じことはできないらしい。
確かにアテナさんや天明さんが衣装を変えたりしているが、
あれは本当に慣れが必要だそうだ。
要らぬ常識を捨て去らなければ、変身など出来ない。
正直、今の段階では私には到達できない境地に思えた。
カラスの案内なしでも、帰るのは簡単だった。
「よお、活躍したようじゃなあ。
遠見の術で見ておったよ。
ただ、少々無茶じゃったかな。」
と獣な人が猿田彦さんにも聞こえるように大声を出した。
「はあ、すまぬなあ。
まさか、あの見た目であそこまでしぶといとは思わんかった。」
「案外、オーガになりかけていたのかもしれぬな。」
そう詫びてくる猿田彦さん。
そんな彼に、
「見た目で実力って分かるんですか?」
と聞く私。
「そりゃそうじゃぞ。
そもそも、出身地によるが、常識外れな姿を持つ奴なら、
その力も常識が通じないんじゃ。」
そして、労いの言葉と何か果物を出してくれる猿田彦さん達。
「大変じゃったなあ。
少し休んでいくといいぞ。
これはとっておきの美味じゃ。」
「儂が持ってきた土産じゃが、この辺りでは食べられんぞ。」
そう二人が勧めてくる。
その果物はなにか黄色くグレープフルーツほどの大きさだった。
「有難うございます。
いただきます。」
とお礼をして、
皮を剥こうとすると、
「そのまま齧るんじゃ。」
と獣の人が、食べ方を教えてくれた。
言われた通り、嚙り付くと、、、
あま~い、ジューシー、柔らかい。
そう、その食感は熟れた桃に近いが、糖度は高い。
おまけに種がない。
程よい酸味もあり、
食べ飽きることもないという俄かに信じがたい果物だった。
マンゴーか、桃か、表しがたく、
しかし、その味は天上の果物そのもの。
食べた天明さんが、何処で採れるのか?
しつこく聞き始めた。
苦しい戦闘だったが、最後にこんな驚きが待っていた!
多分、遠方からのお客さんだろう獣の人。
私の手が届くものではないだろう。
素晴らしいお味でした!!




