第99話 格上への挑戦
天明さんが術の行使に瞑想する中、
アテナさんと私は熊の魔獣目掛けて疾走する。
アテナさんとの事前相談も走りながら終えている。
もちろん、天明さんと離れるルートを通っている。
じゃないと、例の火炎が天明さんを襲うから。
ただし、今回のが上手くいけばそうはならないだろう。
距離目算で約15メートル、もはや両者の距離は目前だ。
そこで大きな盾と槍を持つアテナさんが、
思い切った行動に打って出た。
足を止め、手に持つ槍を振りかぶり、豪快に魔獣へと投擲したのだ。
稲妻を纏い、投擲された槍はとんでもない速度で魔獣へと迫る。
さすがに魔獣もこれは予想していなかったようだ。
そして、先程のゴブリン戦を受け、
飛び道具に対しての油断があったのだろう。
堅固な自身の装甲を過信したのか?
投擲された槍の直撃を受けてしまった。
うん、まあ実際、アテナさんが足を止めたため、
魔獣は尚も迫ってくる私の方に気を取られた感はある
そして、魔獣にとっての大きな誤算は、
ゴブリンの武器とは大きく威力が違うことだ。
その槍は、神話に語られるほどの力ある代物だった。
実際のところ、槍は魔獣の骨の鎧を貫通し肩の部分を串刺しにした。
魔獣は真っ直ぐこちらに突っ込んできていたため、
位置的に胸部を外れてしまった。
しかし、その後にも槍の並外れた力が示された。
魔獣の肩部を串刺しにした槍が、強烈な稲妻を放ったのだ。
驚愕の二段構えの攻撃だ。
神話級の武器はゴブリンのものとは桁違いの威力を持っているのだ。
閃光に包まれ、走っていた脚をもつれさせた魔獣目掛けて、
私は最後の突進を敢行する。
「 風舞跳躍 」
アテナさんの攻撃で意表を突かれた魔獣は混乱し、
場の力を掌握できなくなっていた。
そのため、術の発動も今この瞬間は容易い。
私は緊急避難用に使ってきた術を今度は自身の加速に使った。
姿勢を立て直そうとする魔獣に一気に接近する私。
手に持つ太刀を勢いに任せ、思い切り目標へと突き立てる。
狙うは頭部の額にある第3の目である。
狙いは少しずれたが、私の太刀はフルーレなどの細い突剣ではない。
その切っ先は頭部の右側を抉った。
しかし、それでも魔獣は倒れない。
グォォォ___ォォ___
凄まじい咆哮を上げ、その身を立ち上がらせる魔獣。
太刀を引き抜こうとしていた私は、その勢いで空中に投げ出された。
攻撃の先触れが、私の落下地点に重なる!
くそ、それでも!
「 風の撃、打ち貫け!! 」
” 風撃乱打 ”
普段、戦闘時に使っている術に場の力を乗せる。
魔獣が混乱している今、私にとっても好機といえるのだ。
いつもより強力な風の砲撃が次々と発生し、魔獣を襲う!
それでも、自慢の装甲で風の砲弾を弾きながら腕を薙ぎ払う魔獣。
その一撃を私は真面に喰らってしまった。
宙を吹き飛ばされた私は、地面に叩きつけれる。
ハア、ハアァァァ__
事前の観察で、魔獣の防御は硬すぎることに気づいた。
場の力が相手に味方しており、普通の攻撃も術も効果が薄い。
何とかしたいところだったが、
あの防御を正面から抜けるのはアテナさんの槍だけだった。
神話級の武器であり、強大無比な槍の一撃だったが、
生憎とその使用には制限があるそうだ。
現時点ではまだ全力近い一撃は一発くらいが限界。
だからこその弱点狙いだった。
頭部か?胸部か?
熊のような魔獣だから、どちらかを貫けば勝てるはず。
そんな作戦を交わしていたのだが。
少し、甘かったかっ
アテナさんの胸部への攻撃は外れたが、
その代わり、場の力が乱れ防御は著しく下がった。
額の中心にある第3の目を狙ったが、貫いたのに生きている。
しかも攻撃までしてくるとは。
強烈な一撃に頭がクラクラする。
とにかく、追撃から逃れなければ___
そんな思考にかられ、顔を上げ魔獣を捜す。
すると、私の少し前で大きな盾を前面に構えたアテナさんが、
魔獣と私の間に割って入っていた。
魔獣の動きは何かに束縛されているのか止まっている。
はははっ、クマとは因縁深い何かがあるのだろうか?
これでは以前の再現だ。
しかし、
「立て、七果!」
アテナさんのその言葉に、
守られるだけの私はもうお終いなのだと気づけた。
「はい!」
咄嗟に腕で魔獣の攻撃を防御していたのか?
右腕が物凄く痛むが、
それでも歯を食いしばって立ち上がった。
魔獣は私への追撃のためか、低い姿勢をとっており、
恐らくそこでアテナさんに止められたのだろう。
頭の位置が低くなっている。
はあ、はあ、私は力を振り絞り、
顔の額、3つ目のすぐ傍にささる半身たる太刀に跳びつく。
右腕の動きが悪い、、
痛みもある。
左手だけでは、太刀が引き抜けない。
ならば!!!
太刀の柄を左手でしっかり握り、太刀に対して術を行使した。
「刃に螺旋を! 貫き、駆け抜けよ!」
風鈴二閃・改
”風鈴・回天螺旋紋”
太刀そのものから発生した二つの刃が螺旋を描き、
刀身に纏わりつく。
如何に場の力を掌握しても、如何にその装甲が硬くとも、
既に貫かれた身体を守ることはできない。
そして、今その身体を貫いているのは、我が半身たる太刀だ。
力を通わすのに、何も邪魔にはならない。
突き刺さる太刀を芯として発生した術による螺旋状の刃が、
回転しながらその傷口を深く抉っていく。
私はその身に残る全ての力を術に注ぎ込む。
風の刃は更に勢いを増し高速で回転しながら、
ドリルのように魔獣の頭部を穿つ。
グワァァァ__ァァ___
鋭い悲鳴のような鳴き声が辺りに響き渡った。
そして、風の螺旋は遂に魔獣の頭蓋を貫通、
力を解放し終えた太刀は、その柄を握る私の元へ落ちてきた。
盾を構えたアテナさんも自身の槍を魔獣から引き抜き、
身体を盾ごと押し込む。
すると、盾に突っ込んでいた熊の魔獣が後ろへと倒れる。
終わった??
しかし、アテナさんは
「七果、離れろ!」
と警告してきた。
く、私は痛みを堪えて後方へと下がる。
アテナさんは相変わらず、私の前を守りながら後退している。
はあ、はあ、はあ、息がしづらい。
そんな中、現状を確認しようと、魔獣を見る私。
すると、魔獣は破壊された頭部を抱えながらも、
その身を立ち上がらせる為、身体を踏ん張る様子が伺える。
例の血管のような紅い光は、弱弱しく明滅を繰り返しているが、
まだ戦う気なのか?
「鏡に写るは、影か真か?
素の先、映すはこの鏡なり!」
いつの間にか後方から接近していた天明さんが、
いつかの術を再びこの地で発動させた。
天明さんの正面に光り輝く鏡面が現れ、
熊の魔獣の姿を捉える。
” 鏡永像砕 ”
輝く鏡面が粉々に砕かれ、対象となった魔獣にも効果が及ぶ。
今度こそ熊の魔獣は全身を破壊された。
その身体からは存在自体が薄れていき、感知していた風が治まった。
気が抜けた私は、その場にばったり座り込んだ。
キツかった!!
今回の感想はその一言に尽きる。
アテナさんも構えを解いて、ほっと溜息をついている。
天明さんが、深刻な顔でこちらを見て、
私とアテナさんの無事を確認する。
「はあ、危なかったですね。
七果さんの怪我は術を使った方がいいですね。
アテナのほうは大丈夫ですか?」
私の怪我の具合を確かめ、アテナさんの方も確認する。
「ふう、少し手を捻ったくらいだ。
すぐ良くなる。
七果のほうはどうなんだ?」
そう聞き返すアテナさんに、
「良かったですね、七果さん。
その身体じゃなかったら、もう一回死んでましたよ。
多分、ゴブリンとの戦闘もその程度の怪我で済んだ要因ですね。」
笑いごとじゃないが、本当に良かった!
死ななくて!!
まだ痛みは襲ってくるが、
何故か徐々に身体が治癒していくのが分かる。
はあ、こんな戦闘をゴブリン達は続けているのか?
正直頭が下がる思いだ。




