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俺は人生を捧げない、私は全てを取り戻す!  作者: ふりがな
第7章 行き交う者、理想郷を繋げる道標
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第96話 神々の里帰り

はあ、はあ、幾度目かのゴブリンたちの襲撃を退けた私達。


何かとても身が軽く感じる私だったが、

ふと今何時なのか気になった。


「そろそろ、昼食の時間ですか?」


アテナさんに聞いて見ると、


「うん?

 そうだな、しかしこの道にいる間は、

 時間の経過など関係ないぞ。」


と答えてきた。


「そうですねぇ。

 ここだとお腹も空きませんからねぇ。」


あの食いしん坊な天明さんまでがそんな答えを出してくる。


そう言えば、今の身体に死はない。


というか、魂自体が身体になっているので、

食べると言う行為自体がいらない状態だったのだ。


うん?


少しだけ気になったので、聞いて見ることにした。


「アテナさんは、お肉大好きですよね。

 高級ステーキを良く食べてますし。

 あと天明さんも何か凄く食にこだわりを持っていますし。」


「私、普通に日常だったので、不思議に思わなかったんですが、

 不老不死の存在まで進化したのに、なんで食通になったんですか?」


そんな私に、彼女たちは目をそらしながら、


「そうだな、地球での生活が普通の七果には不思議かもしれないな。

 他の進化した種族は知らないが、

 少なくとも私は、食事という行為を楽しんでいるぞ。」


「その昔は私達一族も今の地球のように衣食住のいる生活を営んでいた。

 もう数万年前のことだがな。

 私が生まれた頃はまだそんな状態だった。

 しかし、少しして進歩が加速した。

 今の地球の状態より霊性が解放されていた私達の時代。

 技術の進歩と相まって、人は霊的高等生命へと進んでいった。

 最後にはこの地を離れ、この道の開拓を行い一族の拠点は移った。」


「ただ、私は時々、その昔の生活を懐かしく思うことがある。

 その感情はこの星に戻ってきてから強くなった。

 まだ食が必要だった時のあの味を思い出すのだ。」


アテナさんはそう言って、遠く届かぬ地を見ているような眼差しをした。

遥か昔を思い出しているようだ。


「そうですね、わたしの場合はちょっと事情が違いますが、

 食べることを懐かしむことは、同じですね。」


「今の日本人でも故郷の味というのは懐かしいでしょう?

 アテナの場合、懐かしい味どころではないんですよ。

 もう、数万年前のことですから。

 故郷を遠く離れ、その必要性が無くなると、

 食という文化も失われます。」


そう天明さんが引き継ぐ。


眼差しを戻したアテナさんが、


「異郷の地は決して楽園ではないのだ。

 確かに平和な地ではある。

 この道で襲撃してくるゴブリンたちのような者も、

 渡った地では暴れることはない。

 彼らも進化した種族であり、分別はあるんだ。

 誰かが住む郷を荒らす真似はしない。」


「この道で襲ってくるのは、あくまで修行者であるためだ。

 そんな彼らは同じようなレベルの者と戦う。

 道を行くための実力を双方が得られるという暗黙の了解のもとに。」


「私達も一度は通ったものだ。」


「ただ、見れば分かるが疑似的な死を繰り返す行動だ。

 この道には強大な獣も存在するからな。

 実力を上げると同時に、

 そういうことにも慣れなければならない。

 しかし、その行為によって情緒と言うものが失われていってしまう。

 今なら分かるが、進化はしたがその分失ったものも多い。

 そして、真っ先に失われたのが食文化なんだ。」


「ゴブリンたちを見れば分かる通り、

 彼らは何も食事をしていないだろう。

 この道は広大だ。

 食材を携帯できるはずもなく、

 ここでは何も食となる獲物を得られない。」


「ここを進むには、ある種の人間性を捨てざる負えない。」


「そうやって、安住の地を見つけ出した時、

 食文化やある種の娯楽は失われている。」


「ある者は死という最大の恐怖もなく生活できる楽園と

 呼ぶかもしれない。

 もはや星の頂にすら手が届くその地は正しく天界だろう。」


「しかし、私達は今になって思うことがある。

 進化を果たし、生命の楔からも解き放たれた。

 ただ、それによってそれまで大事にしてきたものを失った。

 だから、皆、あの星を心底楽しんでいる。」


「私達が遥かな過去に置いてきたものが詰まった地球という星。

 あまりにも遠く、もう手に入らないと思っていた、

 あの日々に帰って来たようで。

 それは昔々に別れた両親を恋しがる子供のような心境だ。」


「すべてが懐かしく新鮮だ。

 今、幾つもの巣立った種族が帰還しつつある。

 ある意味、今なお心に残るあの刻に再び帰るために。」


ああ、と珍しく悲し気でどこか楽しそうなアテナさん。


「あの召使いという者たちが、何故こんなにも拘るのか?

 少し分かる気がする。

 彼らは私達がいると分かっていても何もしてこない。

 彼らにとって我らは不穏分子のはずなのにな。

 案外、彼らもそんな郷愁を抱えているのかもしれない。」


「失って分かる大切な宝物。

 彼らの言う進化はそれを大事に守りながら進むものなのかもな。」


そんな言葉で締めくくるアテナさん。


ううむ、私にはまだ分からない境地だが、

アテナさん達が地球に戻ってきた理由の一端は分かった気がした。


高次存在の里帰り、

ここを離れた彼ら彼女らの幾千幾万年ぶりの帰郷だったのだ。

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