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名前のない関係  作者:
9/28

選ばれる側じゃない

昼のあのあと、


何かが大きく変わったわけじゃなかった。


むしろ——


何も変わらなかった。


それが一番、引っかかった。



通知は増えてた。


フォロワーも増えてた。


昼の動画。


切り抜き。


コメント。


全部、勝手に進んでいく。


でも自分の生活は、


昨日と同じだった。


ベッド。


スマホ。


白いTシャツ。


それだけ。



夜。


スマホが鳴る。


ハル。


「帰った」


短い。


いつも通り。


「帰った」


送る。


すぐ既読。


「そっか」


それだけ。


会話は終わる。


でも、


切れない。



(昼のこと)


頭のどこかに残ってる。


カフェ。


視線。


スマホ。


撮られてた気配。


でもハルは、


何も言わなかった。


自分も、


止めなかった。



普通じゃないのに、


普通みたいに終わった。


それが変だった。



しばらくして、


また通知。


ハル。


「さっきのやつ」


「見た」


(昼のこと)


分かる。


「うん」


送る。


少し間。


「どうでもよくね」


軽い。


いつも通りの言い方。


でも——


その軽さが少し違う。



“気にしてない”んじゃなくて


“最初から対象にしてない”感じ。



紗月は画面を見る。


(そういう人だっけ)


少しだけ思う。


でも答えは出ない。



「まぁね」


それだけ返す。



また沈黙。


でも今日は、


前みたいに怖くない沈黙だった。



(変わってないのに)


そう思う。


(いや)


違う。



変わってないのは自分だけじゃない。


ハルも、


多分変わってない。


でも——


“見え方”だけが変わった。



あの日、


一緒にカフェに座って。


同じもの食べて。


同じ空気にいて。


でも外は騒いでて。


撮られてて。


意味が勝手に生まれてて。



それでもハルは、


いつも通りだった。



(この人)


思う。


(ずっとこうなんだ)



何が起きても、


中心みたいな場所にいて、


でもそれを“特別”として扱ってない。



スマホが鳴る。


ハル。


「また昼みたいなのはやめるか」


短い。



少し止まる。



やめる。


それは簡単。


でも——



「別にいいけど」


送る。


一拍。


続ける。


「もう起きたし」



既読。


少し間。



「だな」



それだけ。



画面を閉じる。



ベッドに倒れる。


天井。


静か。



(変なの)


小さく思う。



バズって。


見られて。


騒がれて。


意味が増えて。


普通じゃなくなって。



なのに、


生活は続く。


この人と。



“選ばれた”とかじゃない。


“近づいた”とかでもない。



ただ——


そこにいるだけ。



でもそれが一番、


説明できなかった。



白いTシャツを見る。


あの日のやつ。


まだある。


まだ着る。



(これでいいのかも)



そう思うのに、


どこかで分かってる。



これはまだ、


途中だ。



“選ばれる側じゃない”


それはもう過ぎた。



次はたぶん、


それ以外の話になる。


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