それでも進む
変えないって、
決めてた。
あの距離。
あのまま。
壊さないために。
でも——
止まってるわけじゃない。
少しずつ、
何かが動いてる。
自分の中で。
夜。
スマホ。
「今日」
ハル。
短い。
それだけ。
「なに」
返す。
少し間。
「近くいる」
止まる。
(近く)
考えるより先に、
指が動く。
「どこ」
既読。
すぐ。
場所が送られてくる。
知ってる駅。
歩いて行ける距離。
心臓が、
少しだけ速くなる。
(行くの?)
考える。
少しだけ。
でも——
もう決まってる。
「行く」
送る。
既読。
「おう」
それだけ。
外。
夜。
人は多い。
でも、
前とは違う。
視線。
意味。
分かってる。
分かってて、
出てる。
歩く。
少しだけ、
速い。
止まらない。
駅。
人。
流れ。
その中で、
やっぱり分かる。
そこだけ、
ズレてる。
帽子。
マスク。
でも、
分かる。
近づく。
目が合う。
一瞬。
「……どうも」
「おう」
同じ。
でも、
違う。
前より、
少しだけ重い。
隣に立つ。
距離は同じ。
でも、
空気が違う。
「来たな」
「来たね」
それだけ。
少しだけ、
沈黙。
でも、
嫌じゃない。
むしろ——
落ち着く。
「どうする」
ハル。
「なんでも」
雑。
でも、
それでいい。
歩き出す。
並ぶ。
人がいる。
視線もある。
でも——
止まらない。
避けない。
そのまま歩く。
前は、
無意識だった。
今は、
分かっててやってる。
少しだけ、
覚悟がある。
店に入る。
適当な場所。
席。
座る。
向かい。
近い。
でも、
遠いままじゃない。
「久しぶり」
ぽつり。
紗月。
ハルが少し見る。
「そうでもない」
「そう?」
「連絡してるし」
軽い。
でも、
少しだけ違う。
言葉が、
ちゃんと届く。
沈黙。
でも、
前とは違う。
逃げない沈黙。
選んだ距離の中の沈黙。
「なぁ」
ハル。
「なに」
「別にいいのか」
少し止まる。
「なにが」
「こういうの」
周り。
人。
視線。
全部。
一瞬だけ、
考える。
でも、
すぐに答えは出る。
「別に」
短い。
でも、
本音。
「いいの?」
逆に聞く。
ハルは少しだけ笑う。
「まぁ」
曖昧。
でも、
嫌じゃない。
そのまま、
時間が流れる。
話す。
どうでもいいこと。
変わらない。
でも——
確実に変わってる。
距離が。
避けてたものを、
少しだけ越えてる。
帰り道。
夜。
並ぶ。
前と同じ。
でも、
同じじゃない。
「じゃ」
言いかけて、
少し止まる。
「またな」
ハル。
短い。
でも、
前より近い。
「うん」
頷く。
それだけ。
離れる。
歩く。
振り返らない。
でも、
分かる。
さっきまでの距離が、
ちゃんと残ってる。
家。
ドアを閉める。
静か。
深く息を吐く。
(やっちゃった)
少しだけ思う。
でも、
後悔はない。
むしろ——
少しだけ、
軽い。
怖かった距離。
壊れるかもしれなかった関係。
でも、
壊れなかった。
むしろ、
少しだけ近づいた。
ベッドに座る。
スマホを見る。
通知。
ハル。
「帰った?」
「帰った」
すぐ返す。
既読。
「よかった」
短い。
それだけ。
でも、
ちゃんと残る。
画面を見たまま、
少しだけ笑う。
(大丈夫だ)
そう思う。
壊れない。
このままでも、
進める。
少しずつ。
無理しなくても。
踏み込みすぎなくても。
それでも、
ちゃんと変わっていく。
静かに。
ゆっくり。
でも確実に。
それでも、少しずつ進んでいる。




