壊したくない
分かったあとも、
何も変わらなかった。
——変えなかった。
連絡は続く。
短いまま。
軽いまま。
でも、
前より少しだけ、
考えるようになった。
言葉を。
タイミングを。
距離を。
夜。
スマホ。
「暇」
ハル。
いつも通り。
「まぁ」
返す。
少し間。
前なら、
そのまま「出てきて」だった。
でも——
来ない。
分かってる。
来ない理由。
言わない理由。
どっちも。
「なにしてた」
送る。
どうでもいい質問。
でも、
必要な距離。
「仕事」
短い。
それだけ。
「そっちは」
「普通」
同じ。
でも、
前とは違う。
少しだけ、
丁寧な“普通”。
沈黙。
切れてもおかしくない間。
でも、
切れない。
続ける理由もないのに、
続いてる。
少しだけ、
安心する。
(これでいい)
そう思う。
前みたいに、
急に会って、
何も考えずに笑って、
それが一番楽だった。
でも——
今は少し違う。
あの距離を、
知ってしまったから。
あの光を、
見てしまったから。
簡単に近づくのが、
少し怖い。
壊れそうで。
この関係が。
理由も名前もないのに、
ちゃんと残ってるものが。
「なぁ」
ハル。
珍しく、
少しだけ長い。
「なに」
「今度」
一拍。
止まる。
(あ)
少しだけ、
分かる。
続きが来る前に、
頭が先に考える。
会う?
会わない?
外?
人?
全部。
少しだけ、
息を止める。
「やっぱいい」
来たのは、
それだった。
短い。
でも、
十分。
「そ」
それだけ返す。
深く聞かない。
聞けない。
聞いたら、
何かが変わる気がする。
このちょうどいい距離が、
崩れる気がする。
スマホを見る。
画面は静か。
でも、
終わってない。
「悪い」
ハル。
すぐ来る。
「別に」
送る。
指が止まる。
少しだけ考える。
でも、
結局同じ言葉になる。
「そのままでいいし」
送る。
既読。
少し間。
「だな」
それだけ。
それで終わる。
スマホを置く。
天井を見る。
静か。
何も起きてない。
でも、
何かを避けた感覚だけ残る。
ベッドの上。
白いTシャツ。
あの日のまま。
触る。
柔らかい。
軽い。
でも——
ちゃんと残ってる。
消えてない。
距離があっても、
続いてる。
会わなくても、
終わってない。
それだけで、
十分な気がする。
無理に近づかなくていい。
無理に変えなくていい。
このままでも、
壊れないなら。
むしろ——
このままの方が、
壊れない。
目を閉じる。
少しだけ、
楽になる。
(これでいい)
そう思う。
思ってるのに、
ほんの少しだけ——
“もしも”を考えてる自分がいる。
会ったらどうなるか。
隣に立ったら、
またズレるのか。
それとも——
戻れなくなるのか。
分からない。
分からないから、
やめてる。
選ばない。
踏み込まない。
その方が、
きっと正しい。
スマホが鳴る。
「寝る」
ハル。
短い。
いつも通り。
「おやすみ」
送る。
既読。
「おう」
それで終わる。
画面を閉じる。
静か。
でも、
前とは違う。
ちゃんと選んで、
この距離にいる。
近づけるのに、
近づかない。
それが今の、
一番安全な形。
壊したくないから、踏み込まない距離を選んでいる。




