会わない
バズったあとも、
生活は変わらなかった。
——はずだった。
通知は増えた。
フォロワーも増えた。
名前も、
少しだけ知られた。
でも——
実感はない。
画面の中だけ。
外に出れば、
いつも通り。
のはずなのに。
視線が増えた。
すれ違いざま、
一瞬だけ止まる目。
小さな声。
「……あの人じゃない?」
気のせいじゃない。
スマホを見る仕草も、
少しだけ増えた気がする。
白いTシャツ。
ただの布だったはずなのに、
今は少しだけ、
意味を持ってる。
夜。
スマホが鳴る。
ハル。
「元気?」
軽い。
いつも通り。
でも、
少しだけ遠い。
「普通」
送る。
少し間。
前ならすぐ返ってきたのに、
一拍ある。
「そっちは」
「普通」
同じ。
でも、
同じじゃない。
画面越しに、
距離がある。
見えない何かを、
測ってるみたいな間。
少しだけ、
引っかかる。
「会う?」
送る。
自分から。
既読がつかない。
少し長い。
(あ)
分かる。
たぶん、
同じことを考えてる。
外。
人。
視線。
意味。
全部。
数秒。
それだけなのに、
少し長く感じる。
既読。
少しして、
返信。
「やめとく」
短い。
その下に、
何か打ちかけて、
消したような間。
理由はない。
でも、
十分。
(やっぱり)
納得する。
するのに、
ほんの少しだけ、
胸に引っかかる。
スマホを見る。
画面が暗くなる。
前は、
もっと雑だった。
「今から」
「来いよ」
それだけで、
成立してた。
何も考えずに、
会って、
どうでもいい話して、
それでよかった。
今は——
外に出るだけで、
意味がつく。
隣にいるだけで、
見られる。
写真を撮られるかもしれない。
勝手に、
“何か”になる。
それを、
分かってる。
ハルも。
自分も。
ベッドに座る。
白いTシャツを見る。
あの日のまま。
何も変わってない。
タグも、
形も、
値段も。
でも——
これを着て外に出れば、
“普通”じゃなくなる。
(めんどくさ)
小さく息を吐く。
少しだけ、
静かになる。
「悪いな」
ハル。
また通知。
短い。
それだけ。
画面を見る。
ほんの少し、
考える。
指が止まる。
(別にいいけど)
そう思うのに、
少しだけ、
遅れる。
「別に」
送る。
一拍。
まだ足りない気がして、
続ける。
「またでいいし」
既読。
少しして、
「だな」
それだけ。
会話は終わる。
でも、
切れてはいない。
完全には。
スマホを置く。
天井を見る。
静か。
前と同じ静けさ。
でも、
少しだけ違う。
前は、
“何もなかった”。
今は、
“何かを避けてる静けさ”。
少しだけ、
遠い。
少しだけ、
物足りない。
でも——
その距離があるから、
壊れない気もする。
無理に詰めたら、
たぶん、
何かがズレる。
あの人の隣は、
普通じゃいられないから。
(まぁいいか)
小さく思う。
ちょうどいい距離。
近すぎず、
遠すぎず。
会わない理由があるくらいが、
ちょうどいい。
そう思うのに、
ほんの少しだけ——
次に会う時を、
考えてる自分がいた。




