価値が壊れる
数日後。
何気なく、
動画を上げた。
音楽。
いつもの。
ハルの曲。
深く考えてない。
白いTシャツ。
あの日のやつ。
そのまま着て、
そのまま踊った。
部屋。
いつもの場所。
スマホ一台。
それだけ。
投稿。
終わり。
特に気にしない。
いつも通り。
数時間後。
スマホが鳴る。
通知。
多い。
いつもより。
でも、
気にしない。
放置。
さらに時間が経つ。
また鳴る。
止まらない。
(うるさ)
開く。
コメント。
増えてる。
異常に。
「え、なにこれ」
「この人誰?」
「踊りやばくない?」
「この服どこの?」
(服?)
スクロール。
同じコメント。
何回も。
「そのTシャツどこの?」
「ブランド?」
「特定班頼む」
(なんで)
タグを見る。
誰かが書いてる。
店の名前。
値段。
安い。
すぐ分かるレベル。
コメントがさらに増える。
「え?これそんな安いの?」
「嘘でしょ」
「他のやつ全部高そうなのに」
(他のやつ)
関連動画。
開く。
ハル。
ステージ。
別のダンサー。
ブランド。
ロゴ。
高い。
分かりやすい。
画面を戻す。
自分。
白いだけ。
何もない。
でも——
コメントは止まらない。
「なんでこれ?」
「逆にかっこいい」
「センスえぐい」
(意味わかんない)
DM。
知らない人。
増えてる。
通知が埋まる。
スマホが熱い。
その時。
メッセージ。
ハル。
「見た?」
短い。
「なにが」
「お前」
雑。
リンクが送られてくる。
記事。
タイトル。
“謎のダンサー、急浮上”
開く。
自分の動画。
スクショ。
載ってる。
(は?)
読む。
“高級志向の中、あえての低価格”
“価値観を壊す存在”
“誰なのか”
(誰なのかって)
少しだけ笑う。
意味が分からない。
ただ踊っただけ。
ただ着ただけ。
それだけなのに。
「どうすんの」
送る。
既読。
すぐ返る。
「別に」
軽い。
いつも通り。
「お前は?」
少し考える。
スマホを見る。
通知。
まだ増えてる。
でも、
怖くはない。
むしろ——
少しだけ、面白い。
「そのまま」
送る。
既読。
「だな」
それだけ。
それで終わる。
スマホを置く。
白いTシャツを見る。
同じ。
何も変わってない。
でも——
価値だけが変わってる。
周りの見方が、
勝手に変わってる。
(これ、なんなんだろ)
考えても分からない。
でも、
一つだけ分かる。
あの人の隣にいると、
こうなる。
普通だったものが、
普通じゃなくなる。
静かに、
全部がズレる。
スマホがまた鳴る。
通知。
止まらない。
画面を伏せる。
少しだけ笑う。
(まぁいいか)
白いTシャツを手に取る。
軽いはずなのに、
少しだけ重い。
でも、
嫌じゃない。
むしろ——
ちゃんと残ってる。
価値なんて、簡単に壊れる。




