安いのに、残る
会ったあとも、
何も変わらなかった。
連絡は続く。
短いまま。
軽いまま。
でも、
切れない。
「今日暇?」
夜。
突然くる。
「まぁ」
「出てきて」
雑。
でも、
断らない。
駅前。
人は多い。
でも、
迷わない。
探す前に、
分かる。
そこだけ、
流れが少し違う。
「おう」
「おう」
それだけ。
並んで歩く。
目的はない。
そのまま、
店に入る。
服屋。
安いところ。
明るい照明。
同じ形の服が並んでる。
どこにでもある。
「ここでいいの?」
思わず言う。
ハルはラックを見ながら、
「どこでもいい」
興味なさそう。
でも、
手は止まらない。
ちゃんと見てる。
紗月はTシャツを手に取る。
白。
小さいロゴ。
値段も、軽い。
「これどう」
ハルは見る。
一瞬。
「普通」
「それしか言えないの?」
「普通にいいって意味」
雑。
でも、
否定しない。
「じゃあこれにする」
レジに向かおうとすると、
「待て」
止められる。
「なに」
「それ、俺が買う」
少し止まる。
「なんで」
「なんとなく」
(またそれ)
少しだけ迷って、
「……じゃあいいや」
渡す。
レジ。
すぐ終わる。
金額なんて、
ほとんど残らない。
でも、
それ以外が残る。
店を出る。
袋を持って歩く。
少しだけ、
軽い。
「着る?」
ハルが言う。
「今?」
「今」
変わらない。
雑。
でも、
嫌じゃない。
「……いいけど」
更衣室。
鏡。
白いTシャツ。
普通。
どこにでもある。
なのに——
(なんか違う)
外に出る。
ハルが見る。
少しだけ間。
「いいじゃん」
短い。
でも、
ちゃんと見てる。
「今の普通じゃないじゃん」
「たまにはな」
少しだけ笑う。
そのあと、
カフェに入る。
適当に座る。
適当に話す。
中身はない。
でも、
途切れない。
時間がそのまま流れる。
気づくと、
結構経ってる。
(早)
でも、
それがちょうどいい。
帰り道。
夜。
少しだけ静か。
「じゃ」
「おう」
それだけ。
振り返らない。
でも、
そのまま終わらない気がする。
家。
袋を置く。
Tシャツを出す。
安い。
どこにでもある。
タグを見る。
現実感がある。
でも——
(これ、捨てないな)
理由は分からない。
スマホが鳴る。
「着た?」
ハル。
「着た」
少し間。
「似合ってた」
それだけ。
でも、
残る。
紗月はスマホを置く。
ベッドに倒れる。
天井を見る。
(なんだこれ)
考えても、
答えは出ない。
でも、
一つだけ分かる。
あの時間も、
このTシャツも、
全部——
ちゃんと残ってる。
白い布一枚なのに、
軽くない。
むしろ、
少しだけ重い。
嫌じゃない重さ。
目を閉じる。
少しだけ、
思う。
(また会ってもいいかも)
そのくらいが、
ちょうどいい。
安いのに、ちゃんと残っている。




