神じゃないです
通知は、なんとなく開いた。
つまらない夜だった。
深夜。
スマホの光だけが浮いてる。
知らないアカウント。
「これ見て」
リンク。
開く。
暗転。
音が落ちる。
光。
男が一人。
——一瞬で分かる。
(違う)
うまい、とかじゃない。
目が離れない。
動きは軽いのに、
空気が重い。
引っ張られる。
見てるだけなのに、
呼吸が合う。
(こういうの、嫌いなはずなのに)
終わる。
指が止まる。
そのまま、戻れない感じだけが残る。
(……なにこれ。ちょっと、嫌なのに気になる)
再生数。
桁が意味を持たない。
コメント。
「legend」
「king」
「he’s unreal」
スクロール。
ライブ映像。
歓声が“音”じゃない。
圧。
押される。
画面越しなのに、
距離が潰れる。
「HARU!!」
名前が揺れる。
空間ごと、そっちに傾いてる。
戻る。
DM。
「誰?」
既読。
一瞬。
「神」
(は?)
「いや神じゃないです」
少し止まる。
「ハル」
軽い。
軽すぎる。
さっきまでの全部と、
噛み合わない。
「なんで送ってきたの」
「なんとなく」
でも、
閉じない。
やり取りが続く。
中身はない。
でも、
切れない。
ある日。
テレビ。
「世界的アーティスト——」
映る。
同じ男。
でも、
遠い。
ステージ。
会場。
埋まってるんじゃない。
飲まれてる。
空間ごと。
中心が、そこにある。
スマホ。
「今テレビ出てる?」
「出てる」
軽い。
同じ。
でも、
別物。
「言えよ」
「別にいいだろ」
テレビの中。
歓声。
スマホの中。
「腹減った」
(ズレてる)
少しだけ笑う。
数日後。
「会う?」
唐突。
(は?)
「日本」
「行く」
軽い。
でも、
来る。
そういう確信だけある。
「いいよ」
送る。
送ったあと、
少しだけ静かになる。
当日。
人混み。
探す前に、
分かる。
そこだけ流れが違う。
視線が寄ってる。
帽子。マスク。
でも、
分かる。
近づく。
目が合う。
「……どうも」
「おう」
それだけ。
隣に立つ。
距離は近い。
でも、
遠さが消えない。
「腹減った」
「さっき食べた」
「少しは空けろよ」
軽い。
普通。
でも、
隣にいるだけで、
周りが少しズレる。
音の流れ。
人の動き。
人が、無意識に道を空ける。
距離が、勝手にできる。
「思ってたより普通だね」
言う。
ハルが少し笑う。
「神じゃないしな」
その一瞬だけ、
人っぽい。
それで十分だった。
——多分、もう戻れない。
——普通じゃない。
それだけは、はっきりしていた。
まだ、名前はない。




