表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない関係  作者:
25/27

切らせない

朝。


静か。


でも、それは“嵐の前”の静けさだった。



スマホ。


画面を開く前に分かる。



来てる。



開く。



通知。


一気に増えてる。



昨日とは違う。



“方向が揃ってる”。



記事。


トレンド。


タグ。



“ハル 女性 特定”



(……早)



スクロール。



写真。



昨日の。



雨。


駅前。



ハル。


そして——



自分。



はっきり写ってる。



(終わったな)



コメント。



「やっぱこいつ」

「売名確定」

「ハル利用してる」

「潰せ」



(潰せって何)



指が止まる。



DM。



知らない名前。



「消えろ」

「調子乗んな」

「どこの誰?」



息を吐く。



(あー)



ついに来た。



“対象”の意味。



スマホが鳴る。



ハル。



「見たか」



短い。



「見た」



既読。



すぐ。



「動くな」



またそれ。



でも今度は、


“お願い”じゃない。



“決定”。



紗月は少しだけ笑う。



「無理でしょ」



既読。



一瞬。



「俺が止める」



(は?)



画面を見る。



初めての言葉。



“俺が止める”。



紗月は少しだけ息を止める。



「どうやって」



既読。



少し長い。



そして——



「関係を切る」



その一行で、


全部止まる。



(あ)



一瞬で理解する。



一番シンプルで、


一番効く方法。



“切る”。



紗月はしばらく動かない。



指が止まる。



(そっか)



当たり前。



これ以上広がる前に、


切ればいい。



そうすれば、


全部終わる。



元に戻る。



普通に。



……たぶん。



スマホがまた鳴る。



ハル。



「それが一番早い」



続けて。



「お前も楽だろ」



その一言で、


少しだけ胸が引っかかる。



(楽?)



確かに。



楽になる。



見られない。


言われない。


巻き込まれない。



全部、終わる。



紗月は目を閉じる。



少しだけ考える。



昨日の雨。



あの言葉。



“全部どうでもよくなる”



思い出す。



(じゃあ)



ゆっくり目を開く。



打つ。



「それでいいの?」



既読。



長い。



今までで一番長い。



数十秒。



1分。



2分。



そして。



「よくない」



短い。



でも、それで全部分かる。



(ああ)



紗月は少しだけ笑う。



「じゃあやめれば」



送る。



既読。



一瞬。



「でも切らないと守れない」



矛盾。



でも本音。



紗月はスマホを見たまま言う。



「守らなくていいよ」



送る。



既読。



止まる。



「無理」



即答。



(はや)



少しだけ笑いそうになる。



でも続ける。



「私、そんな弱くないし」



既読。



間。



「知ってる」



それだけ。



でも、そのあとに来る。



「でも関係ない」



(は?)



「俺が無理」



一瞬、息が止まる。



(それ)



それは、


“守る理由”じゃない。



“ただの感情”。



紗月はスマホを握る。



少しだけ強く。



「じゃあどうすんの」



既読。



今度はすぐ。



「切らない」



(え)



次の一行。



「止める」



紗月は眉をひそめる。



「だからどうやって」



既読。



少しだけ間。



そして。



「全部使う」



(……全部?)



その言葉の意味が、


遅れて来る。



影響力。


名前。


立場。



“ハルが持ってるもの全部”。



紗月は少しだけ息を吐く。



(バカじゃん)



でも、


嫌じゃない。



むしろ——



少しだけ安心する。



その時。



通知。



別のニュース。



記事。



“ハル、異例の声明へ”



(は?)



開く。



まだ中身はない。



でも分かる。



動いてる。



本気で。



スマホが鳴る。



ハル。



「出す」



短い。



「何を」



既読。



一瞬。



「お前のこと」



心臓が止まる。



(は??)



「ちょっと待って」



送る。



既読。



「名前は出さない」



続けて。



「でも関係は否定しない」



(それ一番やばいやつ)



紗月は立ち上がる。



部屋の中。



落ち着かない。



「炎上するよ」



既読。



「もうしてる」



即答。



(確かに)



言い返せない。



少し沈黙。



紗月はゆっくり打つ。



「それでいいの?」



既読。



今度は迷わない。



「いい」



一拍。



「切るよりいい」



その言葉で、


全部決まる。



紗月はスマホを見たまま、


少しだけ笑う。



(ほんと、バカ)



でも——



嫌じゃない。



むしろ。



“選ばれた”感じが、


少しだけする。



数分後。



通知が一気に増える。



記事更新。



動画。



SNS。



全部。



“ハル、関係を否定せず”



コメントが爆発する。



「は???」

「マジかよ」

「なんでだよ」

「終わった」



世界が一気に動く。



でも。



紗月はベッドに座ったまま。



スマホを見る。



ハルからの最後のメッセージ。



「守る」



短い。



それだけ。



でも今は、


それが一番重い。



目を閉じる。



少しだけ、


呼吸が楽になる。



外はうるさい。



でも中は、少しだけ静か。



切ることは簡単だった。



でも、選ばなかった。



その代わり、


全部を敵に回すことを選んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ