初めて、ズレた
夜。
雨。
音がうるさいのに、頭の中はもっと静かだった。
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スマホ。
鳴らない。
珍しい。
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ハル。
既読もつかない。
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(仕事か)
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そう思おうとするのに、
少しだけ引っかかる。
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昼のこと。
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“そっちの世界”
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あの言葉のあとから、
何かが止まってる気がした。
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夜。
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通知。
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一件。
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ハル。
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「今どこ」
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短い。
でも、いつもより硬い。
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「家」
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送る。
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既読。
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すぐ。
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少し間。
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「出てこい」
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(またそれ)
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でも今回は違う。
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軽くない。
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命令でもない。
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“焦り”に近い。
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「雨だよ」
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送る。
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既読。
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少し長い。
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そして。
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「関係ない」
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その一言で分かる。
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(何かあった)
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迷う前に、送る。
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「どこ」
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既読。
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すぐ。
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場所。
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さっきのスタジオでもない。
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ホテルでもない。
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もっと“外”。
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車で動いてる位置。
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(移動中?)
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「行く」
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送る。
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外。
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雨。
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傘。
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意味ないくらい降ってる。
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駅前。
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そこにいる。
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ハル。
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でも今日は違う。
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一人じゃない。
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スタッフ。
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車。
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止まってる。
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空気が張ってる。
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ハルが先に気づく。
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こっちを見る。
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その目が——
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少しだけ、いつもと違う。
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「来るなって言っただろ」
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低い。
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でも怒りじゃない。
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焦り。
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紗月は一瞬止まる。
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「なんかあったの」
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ハルは答えない。
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その代わり、少しだけ視線を逸らす。
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その瞬間で分かる。
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(やばい方)
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スタッフが小声で言う。
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「この子、外していいですよね?」
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空気が一瞬止まる。
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ハルが振り返る。
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その目。
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初めて見る。
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“冷たい”じゃない。
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“止める目”。
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「触るな」
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短い。
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一瞬で空気が変わる。
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スタッフが止まる。
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誰も動かない。
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雨の音だけ。
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紗月は少しだけ息を止める。
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(え、今の)
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ハルが一歩近づく。
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紗月の前。
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距離、ほぼゼロ。
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「来るなって言った理由、分かるか」
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紗月は首を振る。
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「分からない」
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ハルは少しだけ目を伏せる。
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そして——
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「お前が見られてるからだ」
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(……は?)
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一瞬止まる。
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「見られてるって」
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ハルは雨の中を一度見る。
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「もう“関係”じゃない」
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「“対象”になってる」
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紗月は息を止める。
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(対象)
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その言葉の意味が、
少し遅れて来る。
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ハルが続ける。
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「お前を使おうとしてるやつがいる」
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雨音が遠くなる。
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「俺を崩すために」
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(……は?)
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紗月は一歩だけ後ろに下がる。
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「意味わかんない」
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ハルは少しだけ笑う。
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でも、それは笑いじゃない。
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「そうなる」
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短い。
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確定みたいな言い方。
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その時。
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車のドアが開く。
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スタッフの声。
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「ハル、時間です」
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ハルは動かない。
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初めて。
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呼ばれても、動かない。
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紗月を見る。
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雨の中。
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その目。
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今までで一番、まっすぐ。
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「お前が来ると、面倒になる」
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紗月は少しだけ笑う。
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「今さらじゃない?」
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ハルは一瞬止まる。
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そして——
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「違う」
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初めて、はっきり否定する。
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一拍。
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「俺が、壊れる」
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その言葉で、
全部止まる。
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雨。
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音。
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スタッフ。
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空気。
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全部。
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紗月は目を見開く。
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(今、何て)
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ハルは少しだけ視線を逸らす。
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初めて。
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“逃げた”。
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「……お前は関係ないはずだった」
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低い声。
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でも震えてる。
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(震えてる?)
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ハルが一歩下がる。
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「巻き込むつもりなかった」
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紗月は少しだけ前に出る。
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「じゃあなんで呼んだの」
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沈黙。
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長い。
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雨が全部埋めるくらい。
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そして。
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「……止まらなかった」
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それだけ。
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感情。
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初めて“制御されてない言葉”。
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紗月は息を飲む。
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(あ)
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ハルが初めて視線を戻す。
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「お前が来ると」
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少しだけ間。
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「全部、どうでもよくなる」
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その瞬間。
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空気が変わる。
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スタッフの声が遠くなる。
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世界が一瞬だけ止まる。
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(それって)
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紗月は何も言えない。
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ハルは小さく息を吐く。
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「だから来るな」
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でもその言い方は、
“拒絶”じゃない。
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“必死”。
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車のドアがまた開く。
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今度は強い声。
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「ハル、行きますよ」
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ハルは一瞬だけ目を閉じる。
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そして。
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紗月を見る。
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最後の一瞬。
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「……またな」
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それだけ。
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車に乗る。
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扉が閉まる。
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雨音だけになる。
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紗月はその場に立ったまま動けない。
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(なに今の)
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初めて。
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ハルが感情で動いた瞬間。
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理屈じゃなくて、
“止められない側”の言葉。
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ベタベタじゃない。
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でも確実に。
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線が一本、変わった。
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スマホが鳴る。
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ハル。
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「巻き込む」
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「でも」
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一拍。
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「もう遅い」
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それだけ。
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既読。
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紗月は雨の中で少しだけ笑う。
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「なにそれ」
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小さく声が漏れる。
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でも胸の中は静かじゃない。
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(もう遅いって何)
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終わらない。
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これはもう“関係”じゃない。
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選ばれたとかでもない。
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巻き込まれたまま、
戻れない方向に動き始めてる。




