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名前のない関係  作者:
24/27

初めて、ズレた

夜。


雨。


音がうるさいのに、頭の中はもっと静かだった。



スマホ。


鳴らない。


珍しい。



ハル。


既読もつかない。



(仕事か)



そう思おうとするのに、


少しだけ引っかかる。



昼のこと。



“そっちの世界”



あの言葉のあとから、


何かが止まってる気がした。



夜。



通知。



一件。



ハル。



「今どこ」



短い。


でも、いつもより硬い。



「家」



送る。



既読。



すぐ。



少し間。



「出てこい」



(またそれ)



でも今回は違う。



軽くない。



命令でもない。



“焦り”に近い。



「雨だよ」



送る。



既読。



少し長い。



そして。



「関係ない」



その一言で分かる。



(何かあった)



迷う前に、送る。



「どこ」



既読。



すぐ。



場所。



さっきのスタジオでもない。



ホテルでもない。



もっと“外”。



車で動いてる位置。



(移動中?)



「行く」



送る。




外。



雨。



傘。



意味ないくらい降ってる。



駅前。



そこにいる。



ハル。



でも今日は違う。



一人じゃない。



スタッフ。



車。



止まってる。



空気が張ってる。



ハルが先に気づく。



こっちを見る。



その目が——



少しだけ、いつもと違う。



「来るなって言っただろ」



低い。



でも怒りじゃない。



焦り。



紗月は一瞬止まる。



「なんかあったの」



ハルは答えない。



その代わり、少しだけ視線を逸らす。



その瞬間で分かる。



(やばい方)



スタッフが小声で言う。



「この子、外していいですよね?」



空気が一瞬止まる。



ハルが振り返る。



その目。



初めて見る。



“冷たい”じゃない。



“止める目”。



「触るな」



短い。



一瞬で空気が変わる。



スタッフが止まる。



誰も動かない。



雨の音だけ。



紗月は少しだけ息を止める。



(え、今の)



ハルが一歩近づく。



紗月の前。



距離、ほぼゼロ。



「来るなって言った理由、分かるか」



紗月は首を振る。



「分からない」



ハルは少しだけ目を伏せる。



そして——



「お前が見られてるからだ」



(……は?)



一瞬止まる。



「見られてるって」



ハルは雨の中を一度見る。



「もう“関係”じゃない」



「“対象”になってる」



紗月は息を止める。



(対象)



その言葉の意味が、


少し遅れて来る。



ハルが続ける。



「お前を使おうとしてるやつがいる」



雨音が遠くなる。



「俺を崩すために」



(……は?)



紗月は一歩だけ後ろに下がる。



「意味わかんない」



ハルは少しだけ笑う。



でも、それは笑いじゃない。



「そうなる」



短い。



確定みたいな言い方。



その時。



車のドアが開く。



スタッフの声。



「ハル、時間です」



ハルは動かない。



初めて。



呼ばれても、動かない。



紗月を見る。



雨の中。



その目。



今までで一番、まっすぐ。



「お前が来ると、面倒になる」



紗月は少しだけ笑う。



「今さらじゃない?」



ハルは一瞬止まる。



そして——



「違う」



初めて、はっきり否定する。



一拍。



「俺が、壊れる」



その言葉で、


全部止まる。



雨。



音。



スタッフ。



空気。



全部。



紗月は目を見開く。



(今、何て)



ハルは少しだけ視線を逸らす。



初めて。



“逃げた”。



「……お前は関係ないはずだった」



低い声。



でも震えてる。



(震えてる?)



ハルが一歩下がる。



「巻き込むつもりなかった」



紗月は少しだけ前に出る。



「じゃあなんで呼んだの」



沈黙。



長い。



雨が全部埋めるくらい。



そして。



「……止まらなかった」



それだけ。



感情。



初めて“制御されてない言葉”。



紗月は息を飲む。



(あ)



ハルが初めて視線を戻す。



「お前が来ると」



少しだけ間。



「全部、どうでもよくなる」



その瞬間。



空気が変わる。



スタッフの声が遠くなる。



世界が一瞬だけ止まる。



(それって)



紗月は何も言えない。



ハルは小さく息を吐く。



「だから来るな」



でもその言い方は、


“拒絶”じゃない。



“必死”。



車のドアがまた開く。



今度は強い声。



「ハル、行きますよ」



ハルは一瞬だけ目を閉じる。



そして。



紗月を見る。



最後の一瞬。



「……またな」



それだけ。



車に乗る。



扉が閉まる。



雨音だけになる。



紗月はその場に立ったまま動けない。



(なに今の)



初めて。



ハルが感情で動いた瞬間。



理屈じゃなくて、


“止められない側”の言葉。



ベタベタじゃない。



でも確実に。



線が一本、変わった。



スマホが鳴る。



ハル。



「巻き込む」



「でも」



一拍。



「もう遅い」



それだけ。



既読。



紗月は雨の中で少しだけ笑う。



「なにそれ」



小さく声が漏れる。



でも胸の中は静かじゃない。



(もう遅いって何)



終わらない。



これはもう“関係”じゃない。



選ばれたとかでもない。



巻き込まれたまま、


戻れない方向に動き始めてる。

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