表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない関係  作者:
23/28

選ばれるはずじゃない

夜。


静かすぎる。


逆に不自然なくらい。



スマホが鳴らない。


通知も来ない。



(逆に怖い)



そう思った瞬間。


画面が光る。



ハル。



「今から来れるか」



短い。


でも、いつもと違う。


軽さがない。



紗月は少しだけ止まる。



(またか)



でも今回は、直感で分かる。



“いつもと同じじゃない”



「どこ」


送る。



既読。



すぐ。



場所。



見覚えがない。



スタジオでもない。



ホテルでもない。



少しだけ“奥”。



(嫌な予感)



でも止まらない。



「行く」



送る。




外。



夜。



駅から少し離れた建物。



入口からして違う。



静かすぎる。



警備。



人の気配。



(これ何)



中に入る。



すぐ分かる。



空気が“仕事の空気”。



普通の場所じゃない。



エレベーター。



上。



ドアが開く。



そこにいる。



ハル。



でも、いつものハルじゃない。



周りに人。



スタッフ。



マネージャー。



空気が張ってる。



誰も軽くない。



「来たか」



ハル。



でも、その声は紗月に向いていない。



“その場全体”に向いている。



紗月は少しだけ違和感を覚える。



(なにこれ)



スタッフの一人が小声で言う。



「この子ですか?」



ハルは一瞬だけ間を置く。



そして。



「……ああ」



それだけ。



その一言で、


空気が変わる。



(ああ、って何)



紗月は少しだけ息を止める。



周りの視線が一斉に集まる。



“確認”の目。



評価の目。



値踏みの目。



(なにこれ)



ハルが紗月を見る。



初めてちゃんと見る。



でも、その目はいつもと違う。



少しだけ遠い。



少しだけ“仕事の目”。



「ちょっとだけ話す」



ハル。



紗月は頷く。



部屋の奥。



個室。



扉が閉まる。



静か。



でもさっきより重い。



ハルは一度座らない。



窓の外を見る。



少し間。



「なぁ」



紗月。



「なに」



ハルは振り返らないまま言う。



「俺、しばらく動かされる」



(動かされる)



「どういうこと」



ハルは少しだけ笑う。



でも軽くない。



「会社が決める」



紗月は一瞬止まる。



「今までは違ったの?」



ハルは少し黙る。



それから。



「今までは、俺が決めてた」



(あ)



その一言で、全部が少しだけズレる。



紗月は気づく。



さっきの“空気”。



スタッフ。



この場所。



全部。



「つまり」



紗月。



「これからは違うってこと?」



ハルはようやく振り返る。



目が合う。



一瞬だけ。



そして。



「そうなるかもしれない」



曖昧。



でも“確定”に近い。



沈黙。



重い。



紗月は少しだけ笑う。



「私、ここにいる必要ある?」



ハルは少しだけ止まる。



その問いにだけ、少し遅れる。



「……本来はない」



正直。



(だよね)



でも次の言葉が続く。



「でも、呼んだのは俺」



その一言で、


空気が変わる。



スタッフの声が遠くなる。



世界が少しだけ静かになる。



紗月は小さく息を吐く。



「めんどくさいね」



ハルは少しだけ笑う。



「だな」



それだけ。



でも、その“だな”には重さがある。



扉がノックされる。



時間。



ハルは立つ。



最後に一言。



「しばらく、こうなる」



紗月は頷く。



「うん」



それだけ。



外に出る。



さっきの空気。



視線。



全部が少し変わっている。



ハルの隣に“いること”が、


もう軽くない。



歩く。



スタッフが動く。



誰かが言う。



「やっぱりこの子……」



その言葉は途中で消える。



でも意味は残る。



(やっぱり、って何)



外。



夜風。



ハルが止まる。



「悪い」



短い。



紗月は少しだけ笑う。



「別に」



一拍。



「もう慣れたし」



ハルが横を見る。



ほんの少しだけ、昔の目に戻る。



「慣れるなよ」



それだけ。



でも、その言葉は優しい。



駅。



別れる。



いつもより重い。



でも、終わらない。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホ。



通知は少ない。



でも“意味”は多い。



白いTシャツを見る。



ただの服じゃなくなったもの。



スマホが鳴る。



ハル。



「今日は悪かった」



紗月は少しだけ止まる。



そして打つ。



「別に」



少し間。



続ける。



「そっちの世界なんでしょ」



既読。



長い間。



それから。



「……まだそっちにいさせるつもりはない」



その一言で止まる。



(あ)



初めて。



“距離の話じゃない言葉”。



紗月は少しだけ息を吐く。



画面を見る。



静か。



でも確かに変わってる。



関係が、


“ただの距離”じゃなくなった。



選ばれていたのは、


自分じゃないと思っていた。



でも違った。



少なくとも、


あの瞬間だけは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ