選ばれるはずじゃない
夜。
静かすぎる。
逆に不自然なくらい。
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スマホが鳴らない。
通知も来ない。
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(逆に怖い)
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そう思った瞬間。
画面が光る。
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ハル。
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「今から来れるか」
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短い。
でも、いつもと違う。
軽さがない。
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紗月は少しだけ止まる。
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(またか)
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でも今回は、直感で分かる。
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“いつもと同じじゃない”
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「どこ」
送る。
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既読。
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すぐ。
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場所。
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見覚えがない。
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スタジオでもない。
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ホテルでもない。
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少しだけ“奥”。
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(嫌な予感)
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でも止まらない。
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「行く」
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送る。
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外。
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夜。
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駅から少し離れた建物。
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入口からして違う。
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静かすぎる。
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警備。
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人の気配。
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(これ何)
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中に入る。
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すぐ分かる。
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空気が“仕事の空気”。
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普通の場所じゃない。
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エレベーター。
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上。
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ドアが開く。
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そこにいる。
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ハル。
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でも、いつものハルじゃない。
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周りに人。
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スタッフ。
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マネージャー。
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空気が張ってる。
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誰も軽くない。
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「来たか」
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ハル。
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でも、その声は紗月に向いていない。
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“その場全体”に向いている。
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紗月は少しだけ違和感を覚える。
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(なにこれ)
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スタッフの一人が小声で言う。
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「この子ですか?」
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ハルは一瞬だけ間を置く。
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そして。
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「……ああ」
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それだけ。
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その一言で、
空気が変わる。
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(ああ、って何)
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紗月は少しだけ息を止める。
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周りの視線が一斉に集まる。
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“確認”の目。
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評価の目。
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値踏みの目。
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(なにこれ)
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ハルが紗月を見る。
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初めてちゃんと見る。
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でも、その目はいつもと違う。
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少しだけ遠い。
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少しだけ“仕事の目”。
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「ちょっとだけ話す」
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ハル。
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紗月は頷く。
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部屋の奥。
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個室。
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扉が閉まる。
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静か。
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でもさっきより重い。
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ハルは一度座らない。
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窓の外を見る。
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少し間。
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「なぁ」
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紗月。
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「なに」
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ハルは振り返らないまま言う。
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「俺、しばらく動かされる」
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(動かされる)
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「どういうこと」
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ハルは少しだけ笑う。
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でも軽くない。
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「会社が決める」
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紗月は一瞬止まる。
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「今までは違ったの?」
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ハルは少し黙る。
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それから。
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「今までは、俺が決めてた」
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(あ)
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その一言で、全部が少しだけズレる。
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紗月は気づく。
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さっきの“空気”。
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スタッフ。
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この場所。
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全部。
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「つまり」
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紗月。
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「これからは違うってこと?」
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ハルはようやく振り返る。
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目が合う。
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一瞬だけ。
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そして。
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「そうなるかもしれない」
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曖昧。
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でも“確定”に近い。
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沈黙。
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重い。
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紗月は少しだけ笑う。
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「私、ここにいる必要ある?」
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ハルは少しだけ止まる。
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その問いにだけ、少し遅れる。
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「……本来はない」
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正直。
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(だよね)
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でも次の言葉が続く。
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「でも、呼んだのは俺」
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その一言で、
空気が変わる。
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スタッフの声が遠くなる。
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世界が少しだけ静かになる。
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紗月は小さく息を吐く。
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「めんどくさいね」
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ハルは少しだけ笑う。
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「だな」
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それだけ。
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でも、その“だな”には重さがある。
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扉がノックされる。
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時間。
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ハルは立つ。
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最後に一言。
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「しばらく、こうなる」
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紗月は頷く。
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「うん」
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それだけ。
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外に出る。
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さっきの空気。
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視線。
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全部が少し変わっている。
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ハルの隣に“いること”が、
もう軽くない。
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歩く。
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スタッフが動く。
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誰かが言う。
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「やっぱりこの子……」
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その言葉は途中で消える。
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でも意味は残る。
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(やっぱり、って何)
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外。
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夜風。
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ハルが止まる。
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「悪い」
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短い。
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紗月は少しだけ笑う。
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「別に」
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一拍。
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「もう慣れたし」
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ハルが横を見る。
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ほんの少しだけ、昔の目に戻る。
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「慣れるなよ」
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それだけ。
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でも、その言葉は優しい。
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駅。
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別れる。
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いつもより重い。
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でも、終わらない。
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家。
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ドアを閉める。
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静か。
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スマホ。
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通知は少ない。
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でも“意味”は多い。
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白いTシャツを見る。
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ただの服じゃなくなったもの。
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スマホが鳴る。
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ハル。
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「今日は悪かった」
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紗月は少しだけ止まる。
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そして打つ。
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「別に」
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少し間。
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続ける。
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「そっちの世界なんでしょ」
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既読。
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長い間。
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それから。
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「……まだそっちにいさせるつもりはない」
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その一言で止まる。
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(あ)
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初めて。
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“距離の話じゃない言葉”。
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紗月は少しだけ息を吐く。
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画面を見る。
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静か。
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でも確かに変わってる。
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関係が、
“ただの距離”じゃなくなった。
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選ばれていたのは、
自分じゃないと思っていた。
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でも違った。
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少なくとも、
あの瞬間だけは。




