表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない関係  作者:
22/27

止められない側

朝。


起きた瞬間に分かる。


昨日とは違う。


静かじゃない。



スマホ。


振動じゃない。


鳴ってる。


ずっと。



画面を開く。



通知の数が、もう意味を持ってない。



DM。


コメント。


メンション。


全部同じ方向。



「やばい」

「また出てる」

「炎上してる」

「ハルの女って誰だよ」

「調子乗ってるだろ」



(あー)



頭が少しだけ冷える。



来たか。



スクロール。



記事。


動画。


まとめ。



“世界的アーティスト・ハル、謎の女性と継続的接触か”



“同一人物か?”



(いや同一人物って何)



勝手に形が作られていく。



知らない自分が、知らない場所で増えてる。



通知。


また。



ハル。



「見んな」



短い。



(遅い)



もう見てる。



「見た」



既読。


すぐ。



「外出んな」



またそれ。



今度は少しだけ強い。



命令に近い。



でも紗月は、すぐには従わない。



「なんで」



既読。



少し間。



「面倒になる」



(面倒)



それだけ。



理由じゃない。



ただの結果。



スマホを置く。



ベッドに座る。



窓の外。



普通の朝。



なのに、外の世界だけ違う。



自分だけ、少し浮いてる感じ。



(私、何したんだっけ)



ただ歩いて。


ただ会って。


ただ隣にいた。



それだけ。



なのに。



世界のほうが勝手に意味をつけてくる。



昼。



出る。



理由はない。



でも止まらない。



駅。



人がいる。



視線がある。



昨日より明確。



「……あの人じゃない?」

「ハルの」



全部聞こえるわけじゃない。



でも分かる。



空気がそう言ってる。



(あー、もういいや)



逆に落ち着く。



カフェに入る。



ドアが閉まる。



少しだけ静か。



でも完全じゃない。



中でも見られてる。



座る。



スマホ。



また鳴る。



ハル。



「どこ」



「外」



「だから出んなって」



少しだけイラついてる。



珍しい。



紗月は少しだけ笑う。



「もう遅くない?」



既読。



少し長い。



「今から行く」



(は?)



即座に返そうとして止まる。



来る。


この流れ。



いつもより早い。



理由がある。



数分後。



店の空気が変わる。



扉。



開く。



一瞬で分かる。



ハル。



いつも通り。


帽子。


マスク。



でも今日は違う。



“見られてる前提”の歩き方。



真っすぐ来る。



ざわつく。



「え」

「本物じゃん」



視線が一気に集中する。



ハルは止まらない。



紗月の前に立つ。



「出るなって言ったろ」



低い声。



でも怒ってるというより、抑えてる。



紗月は少しだけ肩をすくめる。



「出たけど」



ハルは一瞬だけ黙る。



そして、短く息を吐く。



「……そういうとこな」



それだけ。



でもその一言に、少しだけ重さがある。



店の外。



人が増えてる。



スマホ。



完全に撮られてる。



ハルが視線を動かす。



一瞬。



空気が変わる。



(やば)



さっきまでとは違う“圧”。



人が一歩引く。



誰も近づかない。



でも逃げもしない。



ただ、見てる。



紗月はそれを見て思う。



(これが“中心”か)



隣にいるだけで、


世界の流れが変わる。



「帰るぞ」


ハル。



紗月は少しだけ笑う。



「うん」



外。



歩く。



さっきより静か。



いや、静かじゃない。



“押さえ込まれてる”。



人が避ける。



でも、見てる。



完全には消えない視線。



「なぁ」


紗月。



「なに」



「これ、毎回?」



ハルは少しだけ横を見る。



「最近はな」



それだけ。



(最近)



つまり、昔は違った。



少しだけ、その意味が残る。



駅。



別れ際。



少し止まる。



いつもより長い。



ハルが何か言いかける。



でもやめる。



紗月も気づく。



(まただ)



言わないやつ。



でも今日は、少しだけ違う。



ハルが先に言う。



「巻き込んでるな」



紗月は一瞬だけ考える。



でもすぐに答える。



「別に」



少し間。



「もう巻き込まれてるし」



ハルが見る。



ほんの一瞬。



そして小さく笑う。



「……だな」



それだけ。



離れる。



でも今日は、背中が遠くならない。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホ。



まだ鳴ってる。



でももう怖くない。



むしろ少しだけ、慣れてきてる。



ベッドに座る。



白いTシャツを見る。



もうただの服じゃない。



“意味のあるもの”。



スマホが鳴る。



ハル。



「悪かった」



紗月は少しだけ止まる。



そして打つ。



「別に」



少しして。



「巻き込まれてるのは最初から」



既読。



長い間。



それから。



「……そうか」



それだけ。



画面を閉じる。



静か。



でも今日は違う。



関係が“見つかった日”。



隠せなくなった日。



それでも、


終わらなかった日。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ