表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前のない関係  作者:
21/28

名前がつく

朝。


スマホの振動で目が覚める。


止まらない。


通知。


連続。



(なに)



画面を開く。



数字。


増えてる。


異常に。



コメント。


DM。


タグ。



見覚えのある場所。



昨日の——公園。



写真。


動画。



暗い。


でも分かる。



自分。


ハル。



並んでる。



(……は?)



スクロール。



「誰?」

「またこの女?」

「例のダンサーじゃん」

「なんでこいつなんだよ」

「売名?」

「近づくなよ」



指が止まる。



(来た)



どこかで分かってた。



来るって。



でも、思ってたより早い。



記事。


リンク。



“世界的アーティスト・ハル、深夜に謎の女性と目撃”



(雑すぎ)



でも、拡散は速い。



コメントはもっと速い。



「特定した」

「この前バズったやつ」

「Tシャツの人じゃん」

「なんで選ばれてんの?」

「意味わかんない」



(選ばれてるって何)



笑えない。



通知がまた鳴る。



ハル。



「見た?」



短い。



「見た」



既読。


すぐ。



「悪い」



一瞬、止まる。



(またそれ)



でも今回は違う。



軽くない。



「別に」


送る。



でも、指が少しだけ止まる。



(別に、じゃない)



でも、それ以上の言葉が出ない。



「外出んな」



ハル。



短い。



少しだけムッとする。



「普通に出るけど」



既読。



少し間。



「気をつけろ」



それだけ。



命令じゃない。



でも、距離が出る言い方。



(ああ、そっち側か)



スマホを置く。



ベッドに座る。



頭の中が少しだけうるさい。



外。



昼。



出る。



いつも通り。



でも違う。



視線。



明らかに増えてる。



止まる目。



スマホを向ける人。



「……あの人」



聞こえる。



(うわ)



でも、足は止めない。



歩く。



コンビニ。



入る。



店内でも同じ。



距離。


視線。



“認識されてる”



昨日までは違った。



(めんどくさ)



レジ。



少しだけ店員が見る。



でも何も言わない。



それが逆にリアル。



外に出る。



空気が重い。



スマホが鳴る。



知らない番号。



無視。



また鳴る。



DMも増える。



「大丈夫?」

「気にしないで」

「応援してる」



混ざる。



悪意と善意。



ぐちゃぐちゃ。



その中で。



ハル。



「今どこ」



短い。



「外」



既読。



少しして。



「近くいる」



一瞬止まる。



(は?)



場所が送られてくる。



近い。



歩いて数分。



(行くの?)



少しだけ迷う。



でも——



「行く」



送る。



既読。



「おう」



それだけ。



歩く。



さっきより視線が増える。



分かる。



“セット”で見られてる。



(だる)



でも止まらない。



角を曲がる。



いる。



ハル。



いつも通り。



でも今日は、少しだけ空気が張ってる。



「おう」



「うん」



距離は同じ。



でも周りが違う。



明らかに見られてる。



スマホ。



向けられてる。



(来たな)



ハルが小さく言う。



「やっぱやめとくか」



紗月は一瞬だけ考える。



周り。


視線。


音。



全部、重い。



でも——



「いい」



短く言う。



ハルが見る。



一瞬。



「いいのか」



「もう遅いし」



少しだけ笑う。



それだけ。



ハルは少しだけ息を吐く。



「そっか」



そのまま、並んで歩く。



人が避ける。



でも今日は違う。



避けるだけじゃない。



“見る”



そして、“撮る”。



音が増える。



シャッター音。



小さな声。



「やば」

「ガチじゃん」

「隣いる」



(うるさ)



でも、足は止めない。



ハルも止まらない。



ただ、少しだけ近い。



いつもより、半歩。



それだけ。



でも、分かる。



(守ってる)



カフェ。



入る。



店内。



一瞬で空気が変わる。



視線。



静かになる。



でもスマホは動いてる。



座る。



向かい。



沈黙。



その中で、紗月がぽつり。



「すごいね」



ハルは少しだけ首を傾ける。



「なにが」



「全部」



周り。


視線。


状況。



ハルは少しだけ笑う。



でも、その笑いはいつもより薄い。



「慣れただけ」



紗月は少しだけ息を吐く。



(そりゃそうか)



自分はまだ、慣れてない。



この“名前がついた感じ”。



ただ隣にいただけなのに。



関係に、


意味が乗る。



ラベルがつく。



勝手に。



帰り道。



人。


視線。



さっきより強い。



でも——



怖くはない。



「なぁ」


ハル。



「なに」



「気にすんな」



短い。



でも、今度は軽くない。



紗月は少しだけ笑う。



「別に」



一拍。



「ちょっと面白いし」



ハルが少しだけ見る。



それから、ほんの少しだけ笑う。



「変なやつ」



「そっちでしょ」



そのやり取りだけで、


少しだけ軽くなる。



駅。



別れ。



「じゃ」



「おう」



でも今日は、


少しだけ距離が残る。



見られてる距離。



でも——



それでも、


並んでいた距離は消えない。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホ。



通知。


止まらない。



でももう、さっきほど気にならない。



ベッドに座る。



白いTシャツを見る。



同じ。



でももう、


完全に“ただの服”じゃない。



スマホが鳴る。



ハル。



「今日はありがと」



紗月は少しだけ止まる。



それから、



「別に」



送る。



少しして。



「またな」



「うん」



それで終わる。



画面を閉じる。



静か。



でも今日は、はっきり分かる。



もう“ただの関係”じゃない。



名前がついた。



勝手に。



望んでないのに。



それでも——



切る理由にはならなかった。



むしろ、


少しだけ、


はっきりした。



何もなかった関係に、初めて“意味”が乗った日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ