言わなかった方の理由
夜。
いつもより少しだけ遅い時間。
スマホが鳴る。
ハル。
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「今から出れるか」
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短い。
でも、前とは少し違う。
命令でもないし、軽さもない。
ただの確認。
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紗月は画面を見る。
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(またか)
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でも、すぐに「無理」とは打たなかった。
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少しだけ迷う。
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ハルの“別にいいのか”が、頭のどこかに残っている。
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「どこ」
送る。
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既読。
すぐ。
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場所が送られてくる。
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見たことのない駅。
少しだけ遠い。
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(遠いな)
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でも、行けない距離じゃない。
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「行く」
送る。
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既読。
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「おう」
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それだけ。
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外。
夜。
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電車。
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窓の外は暗い。
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いつもと同じ景色なのに、少しだけ違う。
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(なんで呼ばれたんだろ)
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理由は聞かない。
もう慣れてる。
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ハルの「別に」は、だいたい“別にじゃない”。
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駅。
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降りる。
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空気が少し違う。
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静か。
というより、薄い。
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人が少ない。
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その中で、すぐ分かる。
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ハル。
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いつも通りの帽子。
マスク。
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でも今日は、少しだけ立ち方が違う。
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「おう」
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「うん」
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隣に立つ。
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歩き出す。
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言葉はない。
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でも今日は、いつもより沈黙が長い。
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カフェでもない。
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店でもない。
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ただ歩く。
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住宅街。
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明かりが少ない道。
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「ここ」
ハルが止まる。
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小さな公園。
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誰もいない。
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ベンチ。
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座る。
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紗月は少しだけ周りを見る。
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(珍しい)
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ハルが、こういう場所を選ぶの。
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「なんでここ」
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ハルはすぐには答えない。
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少しだけ、間。
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「たまに来る」
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それだけ。
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いつも通りの軽さ。
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でも今日は、そのあとが続かない。
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沈黙。
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風の音。
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遠くの車。
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それだけ。
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紗月は横を見る。
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ハルは前を見ている。
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でも、どこも見ていない感じがした。
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「さっきの」
紗月。
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ハルが少しだけ反応する。
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「どれ」
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「なんで呼んだの」
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一瞬止まる。
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ハルは、少しだけ笑う。
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でもその笑いは軽くない。
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「別に」
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またそれ。
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でも今日は、紗月は引かない。
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「別にじゃない時の顔してる」
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少し沈黙。
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ハルは空を見る。
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それから、ぽつり。
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「昔さ」
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紗月は動かない。
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「うん」
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「ここ、よく来てた」
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風。
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少し強くなる。
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「一人で?」
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「最初はな」
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少し間。
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「途中から、来なくなった」
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「なんで」
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ハルは少しだけ笑う。
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でも、今度はちゃんと笑えてない。
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「必要なくなったから」
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紗月は少しだけ息を止める。
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(必要ない)
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その言葉が、少しだけ重い。
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「今は?」
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聞いてしまう。
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ハルはすぐには答えない。
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長い沈黙。
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それから、少しだけ視線を落とす。
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「今は……」
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そこで止まる。
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言いかけて、やめる。
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いつもの癖。
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でも今日は違う。
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やめた“理由”が残っている。
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「やっぱいい」
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軽く戻す。
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でも紗月は分かる。
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(今のは、軽くない)
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帰り道。
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歩く。
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駅までの道。
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さっきより静か。
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「なぁ」
ハル。
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「なに」
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「今日のは忘れろ」
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即答。
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でも、その即答は守りみたいだった。
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紗月は少しだけ笑う。
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「忘れないけど」
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ハルは横を見る。
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「そういうとこな」
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それだけ言って、前を見る。
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駅。
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別れ際。
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少しだけ止まる。
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いつもより長い間。
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何か言いかける。
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でも、やめる。
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紗月も、何も言わない。
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言ったら終わる気がした。
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「じゃ」
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ハル。
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「うん」
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離れる。
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歩き出す。
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でも今日は、背中が遠くならない。
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むしろ残る。
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家。
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ドアを閉める。
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静か。
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スマホを見る。
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何も来てない。
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(珍しい)
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ベッドに座る。
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天井を見る。
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さっきの場所が、頭に残っている。
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あの公園。
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あの間。
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あの“言いかけてやめた顔”。
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(あれ、なんだったんだろ)
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分からない。
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でも一つだけ分かる。
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ハルは、何かを“言わないまま持ってる”。
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軽い人じゃない。
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ただ軽くしてるだけ。
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そのことに、初めてちゃんと触れた気がした。
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スマホが鳴る。
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ハル。
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「今日はありがと」
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短い。
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紗月は少しだけ止まる。
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(礼言うんだ)
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「うん」
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送る。
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少しして。
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「また」
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それだけ。
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既読。
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「おう」
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それで終わる。
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画面を閉じる。
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静か。
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でも今日は、その静けさが少し違う。
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軽い人だと思ってた。
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でも違った。
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軽くしてただけ。
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その理由の一部に、初めて触れた夜だった。




