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名前のない関係  作者:
19/27

言わない理由

夜。


いつも通りの時間。


でも今日は、少しだけ違った。



スマホ。


ハル。



「今どこ」



短い。


いつも通り。



「家」


送る。



既読。


少し間。



「来れるか」



紗月は画面を見る。



(またそれ)



でも、いつもみたいにすぐ「行く」とは打たなかった。



少しだけ、迷った。



さっきの言葉が残っていたから。



「別に意味ない」



あの一言。



軽かったのに、軽くなかった。



「今から?」


送る。



既読。



少し長い間。



「まぁ」



それだけ。



曖昧。


いつも通りのはずなのに、少しだけ違う。



紗月は結局、「行く」と送った。



外。


夜。



空気は冷たい。


でも、前ほど遠く感じない。



駅。



ハルはもういた。



「おう」



「うん」



いつも通りの挨拶。



でも今日は、目が少しだけ合うのが遅い。



隣に並ぶ。



歩く。



人の流れ。


視線。


もう慣れたもの。



でも今日は、ハルの歩き方が少し違った。



いつもより、少しだけ遅い。



合わせてるのか、ずれてるのか分からない。



カフェ。



座る。



向かい。



沈黙。



その間に、紗月は気づく。



(今日、変だ)



ハルはスマホを見ていない。



いつもなら適当にいじってるのに。



ただ、テーブルを見ている。



「なに」


紗月。



ハルは少しだけ間を置く。



「別に」



いつも通り。



でも、その「別に」が少し重い。



沈黙。



外は騒がしい。


でもここだけ静か。



その静けさの中で、ハルがぽつりと言う。



「昔さ」



紗月は少しだけ顔を上げる。



「うん」



少し間。



「別に大した話じゃないけど」



またそれ。



でも今日は、やめない。



ハルは続ける。



「誰かといるの、めんどくさかった時期あった」



紗月は一瞬止まる。



(ハルが?)



想像できない。



人の中心にいるこの人が。



「今は違うの?」



聞く。



ハルは少しだけ笑う。



でも目は笑ってない。



「違うっていうか」



そこで止まる。



言いかけて、やめる。



その癖。



紗月は気づいていた。



この人は、重要なところで止まる。



「なんでもない」



ハルはそう言って、話を切る。



いつも通り。



でも今日は、少しだけ“逃げた”ように見えた。



帰り道。



並ぶ。



人の流れ。



「さっきの」


紗月。



「忘れろ」


ハル。



即答。



でも早すぎる。



紗月は分かる。



(今の、嘘じゃない)



でも全部じゃない。



言いたくない何かがある。



駅。



別れ際。



「じゃ」


ハル。



「うん」



でも今日は、少しだけ止まる。



一瞬。



何か言いかけて、飲み込む。



そのまま離れる。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホを見る。



ハルから。



「さっきの話」



少し間。



「気にすんな」



紗月は画面を見る。



(気にするだろ)



でも送らない。



代わりに。



「うん」



既読。



少しして。



「悪い」



それだけ。



紗月は少しだけ息を止める。



(謝るんだ)



軽い言葉じゃない。



ハルの「悪い」は、いつもと違う。



理由がある時のやつ。



でも、それ以上は言わない。



スマホを置く。



ベッドに座る。



天井を見る。



(あの人、なんか抱えてる)



はっきりとは分からない。



でも、前より確実に見えた。



軽いのに、全部軽くない理由。



中心にいるのに、少しだけズレている理由。



紗月は思う。



この人はたぶん、ずっと何かを避けながら生きてる。



でもそれを、誰にも見せてない。



ただ一人だけに、少しだけ漏れている。



それが自分なのかどうかは分からない。



でも——



少なくとも、気づいてしまった。



スマホが鳴る。



ハル。



「寝る」



短い。



「おやすみ」


送る。



既読。



「おう」



それで終わる。



画面を閉じる。



静か。



でも今日は、その静けさが少し違う。



軽さの裏に、確かに何かがあった。



紗月は思う。



(この人、ほんとはどこにいるんだろ)



同じ場所にいるのに。



違う場所に見える人だった。



でもその違和感が、なぜか少しだけ気になっている。

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