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名前のない関係  作者:
18/27

崩れたのは、どっち?

夜。


いつも通りのはずだった。



スマホ。


ハル。



「今どこ」



短い。


いつも通り。



「家」


送る。



既読。


少し間。



「来い」



一拍。



紗月は画面を見る。



(またそれ)



前なら、ただの“いつもの雑な呼び出し”だった。


でも今日は、少しだけ違った。



理由は分からない。


でも、いつもみたいに流せなかった。



「なんで」


送る。



すぐ既読。



少しだけ間。



「暇」



それだけ。



いつも通りのはずなのに。



その“暇”が、軽く聞こえなかった。



紗月は少しだけ考える。



(本当にそれ?)



でも、深く聞くのはやめる。



聞いたら、崩れそうだった。



「行く」


送る。



すぐ。



「おう」



それだけ。



外。


夜。



空気は冷たい。


でも、前より怖くない。



駅。


いつもの場所。



ハルはもういた。



「おう」



「早い」



「たまたま」



軽い。


いつも通り。



なのに。



目が、少しだけ合わない。



正確には、合ってるのに“ずれてる”。



隣に並ぶ。



歩く。



人の流れ。


視線。


もう慣れたもの。



でも今日は、ハルの方が少しだけ静かだった。



「なに食う」


ハル。



「なんでも」



いつも通りの会話。



でもその中に、少しだけ空白がある。



店。



座る。



向かい。



沈黙。



いつもなら、どうでもいい話が続く。



でも今日は、少し違った。



ハルが、メニューを見たまま言う。



「今日さ」



「うん」



少し間。



「別に意味ないけど」



ここで一回止まる。



紗月はその言い方に引っかかる。



(またそれ)



“意味ないけど”の前に、何かがあった気がした。



でも、ハルは続けない。



視線も上げない。



ただメニューを見ている。



いつも通りの顔。



でも、少しだけ遅い。



紗月は気づく。



(言うつもりだった?)



でも、確かめない。



確かめたら、消える気がした。



「なに」


だけ返す。



ハルは少しだけ笑う。



「忘れた」



軽い。


いつも通りの逃げ方。



でも今日は、その軽さが少しだけ違った。



“本当に忘れた”みたいだった。



沈黙。



外は騒がしい。


でも中は静か。



その静けさが、少しだけ変だった。



帰り道。



並ぶ。



人の流れ。



「今日さ」


ハル。



「うん」



「なんか変だったな」



紗月は少し止まる。



「どっちが」



ハルは一瞬黙る。



「どっちだろな」



それだけ。



その言い方が、妙に残った。



どっち。



自分か。


ハルか。



それとも——


この関係そのものか。



駅。



別れ際。



「じゃ」


ハル。



「うん」



でも今日は、一瞬だけ間が長い。



何か言いかけた形のまま、止まる。



結局、どちらも言わない。



でも、それが前より“意図的”だった。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホを見る。



ハルから。



「さっきの」



少し間。



「気にすんな」



紗月は画面を見る。



(気にしてるのそっちじゃない?)



でも、送らない。



代わりに。



「うん」



だけ送る。



既読。



少しして。



「またな」



それで終わる。



ベッドに座る。



天井を見る。



(さっきの、なんだったんだろ)



意味はない。


でも“何か言おうとした”のは分かる。



そして、それをやめたのも分かる。



いつも通りのハル。


なのに、少しだけ違う。



紗月は気づく。



崩れたのは、どっちだろう。



ハルなのか。


自分なのか。



それとも。



最初から、どこかで少しずつズレていたのか。



スマホがもう一度鳴る。



ハル。



「今日のやつ」



少し間。



「別に意味ない」



そのあと。



「でも、嫌じゃなかった」



紗月はその画面を見たまま止まる。



(それ、ずるい)



そう思うのに、少しだけ息が軽くなる。



「うん」



送る。



既読。



「おう」



それだけ。



画面を閉じる。



静か。



でも今日は、その静かさが少し違う。



“崩れた”のか、“近づいた”のか分からないまま。



ただ一つだけ分かる。



この関係は、もう前と同じ形には戻れない。

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