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名前のない関係  作者:
17/27

会いたい理由

会う理由は、いつも曖昧だった。


暇だから。


近くにいるから。


それだけで十分だったはずなのに。



最近、それだけじゃ説明できなくなってきていた。



夜。


スマホ。


何もない時間。



なのに、開く。



メッセージは来ていない。


それなのに開いてしまう。



(なんでだろ)



前は、来たから返していた。


今は違う。


来ていなくても、気にしている。



通知が鳴る。



ハル。



「今日どうする」



短い。


いつも通り。


でも、少しだけ違う。



“どうする”がある。



紗月は一瞬止まる。



予定はない。


でも、それは理由じゃない気がした。



「いつものでいい」


送る。



既読。


少し間。



「了解」



それだけ。



それで終わるはずなのに、終わらない。



画面を見ているのに、指が動かない。



(行くの、当たり前になってるな)



そう思った瞬間。


少しだけ引っかかる。



当たり前って、なんだろう。



会う理由じゃない。


でも、会わない理由もない。



その中間にずっといる。



昼。



駅。



もう慣れた場所。


なのに、少しだけ落ち着かない。



ハルは先にいた。



「おう」



「早い」



「普通」



いつものやりとり。



でも今日は、少しだけ視線が違う。



歩き出す。



人混み。


視線。


それでももう驚かない。



驚かないのに、どこかで意識している。



隣にいること。



カフェ。



座る。



向かい。



沈黙。



でも前より静かじゃない。



何か言いそうで、言わない間。



「最近さ」


ハル。



「なに」



「前より来るの早くね」



紗月は一瞬止まる。



(早い?)



言われて初めて気づく。



たしかに、断ってない。


むしろ、考える前に来ている。



「そうかも」



ハルが少しだけ笑う。



「暇なんだな」



軽い言い方。


でも、少しだけ違うニュアンス。



紗月は返そうとして、止まる。



暇。


違う気がした。



でも、それ以上の言葉が出てこない。



沈黙。



外は騒がしい。


でも中は静か。



その静けさの中で、ふと気づく。



(暇じゃない)



違う。



来てる理由は、もう少し別のところにある。



理由を探そうとしている時点で、もう答えは出ていた。



ハルに会うのは、暇だからじゃない。



会いたいからだ。



その瞬間、少しだけ息が止まる。



(いや、なにそれ)



自分で自分に引く。



でも消えない。



言葉にすると、ちゃんと残ってしまう。



ハルは気づいていない顔で、メニューを見ている。



いつも通り。



その普通さが、逆に変だった。



帰り道。



並ぶ。



人の流れ。



いつも通りのはずなのに、少しだけ違う。



さっきの言葉が、まだ残っている。



「じゃ」


ハル。



「うん」



別れる。



でも今日は、少しだけ遅い。



言いかけて、やめるタイミングが重なる。



結局、何も言わない。



それが一番自然だったから。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホを見る。



ハルからメッセージ。



「今日どうだった」



短い。



紗月はしばらく画面を見る。



どうだったか。



普通。


でも違う。



「普通」


送る。



少し間。



ハル。



「そっか」



それだけ。



なのに、少しだけ残る。



ベッドに座る。



天井を見る。



(普通って言ったのに)



本当は違う。



少しだけ、分かってしまった。



会う理由が変わってきている。



必要だからじゃない。



でも偶然でもない。



もっと曖昧で、もっと個人的なもの。



それをまだ名前にできないまま、繰り返している。



スマホがもう一度鳴る。



ハル。



「またな」



紗月は少しだけ息を吐く。



「うん」



送る。



既読。



それで終わる。



でも終わっていない気がする。



目を閉じる。



少しだけ、胸の奥が落ち着かない。



(これ、もう暇じゃない)



その言葉だけが、静かに残っていた。

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